第17回 『こんなまちに住みたいナ』

 

延藤安弘 著/晶文社 刊

 

 

 

家について考えはじめると、あるフレーズが頭の中をよぎります。「こんなまちに住みたい」。理想の「まち」を考えるには、絵本が役立つ! 本書は、絵本を通じて自分らしい暮らしや生き方、まちづくりについて考察する、一風変わったブックガイドです。

例えば、日本の子どもたちにはお馴染みの絵本『はじめてのおつかい』。自転車のスピードに驚くみいちゃんの背後には、固いブロック塀が。同じ林明子さんが描く『いってらっしゃーい いってきまーす』では、町角に開かれたタバコ屋さんのたたずまい。人と人がコミュニケーションできる空間的、時間的な間合い。次第に失われつつあるものの、絵本の中に広がる背景から、改めてそれらを感じ取ることができます。

南米・ベネズエラの絵本『道はみんなのもの』。自動車の走行のため、道で遊べなくなった子どもたちのつぶやき「遊び場をつくろう!」から、対話がはじまり、親たちが、地域が変わり、それぞれにできること・ものを持ち寄り、公園づくりへと発展する物語。「バリオ」と呼ばれる貧困居住区で実際にあったことをベースにしており、住み手自ら建てて住む「自律の力」によるハウジングの原点を感じる絵本です。

ハード面のみならず、ソフト、すなわち「ひと」も、まちの大切な要素です。雨の朝、ブツブツ不平ばかりのおじさんを変えたのは、雨を愉しむ少年の笑顔。街は人がつくるもの。人と人とのつながりが、いかにコミュニティに必要かを愉快に気付かせてくれる絵本『おじさんとカエルくん』。

著者の延藤安弘さんは言います。「大人の努めは、愛することと働くこと。そして、その両者をゆるやかに包むようにつなぐ暮らしのある場が『まち』です。よりよく愛し働くために、必然的に『まち』が必要になるのです。」

子どもをみんなの中で育てられるまち、子どもが身近な自然に触れられるまち、子どももお年寄りも暮らしやすいまち、地域の歴史や伝統を愛でられるまち、このまちに生きるリズムに誇りを持てるまち・・・。住みたいのは、どんなまちでしょう?

老齢化したひと・もの・まちが、社会経済的な大きな力で変動を余儀なくされる時代です。やりきれない出来事が多発する現代において、私たちが望む暮らしをいかに実現するのか? 「まち」は、誰が育むもの? 絵本を通じて、いまいちど柔らかな視点で考え、想像力を養うのに、遅すぎることはありません。

 

選書・文  スロウな本屋 小倉みゆき

 

 

『こんなまちに住みたいナ』 オンラインショップページ

https://slowbooks.securesite.jp/shop/products/detail.php?product_id=457

 

 

スロウな本屋

「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、店主が選んだ絵本と暮らしの本が揃う小さな新刊書店です。戦前から残る木造長屋をリノベーションした店内では、毎月多彩なワークショップを開催しています。
岡山市北区南方2-9-7
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