第19回 『Cabin Porn』

 

ザック・クライン 編/グラフィック社 刊

 

 

 

小屋。それは最も小さな家。静かな自分だけの居場所だったり、大切なひとをあたたかく迎える場所だったり。誰もがこころの中に描く、理想の家。

世界中にある、ハンドメイドの小屋の写真を掲載するオンラインサイトCabin Porn。本書は、その写真コレクションの中から、選りすぐりの200軒以上の小屋と、10編の小屋ストーリーを紹介する。なぜ小屋を建てたのか。それぞれに愛おしい物語があり、分厚い本ながら一気に読ませる。

「ここは人生最後の日を迎えるにはもってこいの場所だ」カリフォルニア州で、1976年から小屋づくりを続けたジャック・イングリッシュ。車を停めてから9キロ歩かねばならない大自然の中に、道具を運び、石を集め、木材を削り、家族で毎週末通い何年もかけて作り上げた小屋。妻を亡くしてからは、ひとりこの小屋に住むジャックは、ハイカーやバックパッカーの間でレジェンドとして語られる。

「物事を必要以上に壮大に考えすぎている人が多いと思うの。最低限のものがあれば、すぐにでもその場所で楽しく過ごせるものよ」 砂漠の中の廃屋をリノベーションした小屋に暮らすアーティスト。砂漠地帯ならではの真っ赤な夕焼けや明るい夜空。何もないようでいて、至るところに生命が息づいている独特の環境に、感覚が研ぎ澄まされていくと言う。

「いつも思うよ、自分たちが向かっているのは、過去なのか、未来なのかってね。(中略)でも、別の思いもある。いいものは時代を超える」 17世紀を思わせる木造家屋を創り上げ、オフグリッドな宿泊施設として運営する二人。世界中から宿泊客が訪れるホステルには、1600年代後半の建具、1946年製の洗濯機、2000年代前半に造られたソーラーパネルが活躍し、前庭には美しい菜園が広がる。

偶然出合った本、ネイティブ・アメリカンの古代宗教地下施設、巨匠フランク・ロイド・ライトの言葉…。何かにインスパイアされて小屋づくりをはじめた者も多い。小屋の空間、機能は限られる。だからこそ、自分が本当に大切にしたいことが際立つ。家づくりへのインスピレーションがかきたてられる本書の原題は、『Cabin Porn Inspiration for your quiet place somewhere』。

 

選書・文  スロウな本屋 小倉みゆき

 

 

『Cabin Porn』 オンラインショップページ

https://slowbooks.securesite.jp/shop/products/detail.php?product_id=517

 

 

スロウな本屋

「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、店主が選んだ絵本と暮らしの本が揃う小さな新刊書店です。戦前から残る木造長屋をリノベーションした店内では、毎月多彩なワークショップを開催しています。
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