4.なるようになった形

2015.02.23

 

 

― 佐渡さんの、廃墟や路地に惹かれる気持ちと、建築に対する思い。イメージは違うようで、根っこは同じということが少しずつわかってきました。確かに佐渡さんのつくる家は、なにか想像させてくれる空間、という感じがします。

そう言っていただけるとうれしいです。
欠けたところがあるほうがいいという話の続きになりますけど、「余白」というのを、僕はいつも意識しています。

余白があったらつい埋めようとしてしまうのが普通だけど、僕はあえて余白をつくりたい。なにもないところがあることで、住み手はその余白の部分に刺激されて、なにか仕掛けたくなると思うんですよね。

余白が誘ってくるというか。隙間なく詰め込まれていると、それ以上なにも入れようと思わないじゃない。

― 佐渡さんがつくるのは60%までで、残りは住み手がつくる・・・。

そう。
それに、余白があると、そこに周りのいろんなものが映し込まれるんですよ。例えば、この緑の芝の色なんかが、部屋の空いたところに実はひそかに映り込んでいるんです。今日は雨だから特に反射してますよね。

周りの色や光が映り込むことで、その時その時で微妙に空間の表情が変わるでしょ。それが僕は大好きなんです。

― ああ、本当ですね!余白がないと、それが味わえない。

余白に周囲の色が映り込んで、風景となじむのがいいんです。・・・ルイス・バラガンというメキシコの建築家がいるんですけど、僕はその人の建築がすごく好きで。

― えっ!これまた意外です。バラガンというと、ピンクや黄色といった鮮やかな壁の建物が印象的ですから。

そうですよね。すごくカラフル。でも、あれはメキシコに咲いている花々の色と同じなんですよ。

その土地の自然の中に普通にある色だから、一見派手でも景観になじむんです。これが日本だと・・・たまにすごい原色の建物を見かけることもありますけど。

― ・・・浮いてしまいますよね。

僕の建築はこう見えて、すごくバラガンの影響を受けていますよ。
バラガンこそ光の魔術師といわれていて、黄色や紫の壁の色を反射させて違う面に映し込ませたり、建物の周りにプールを設けて水面の光の揺らぎを壁に映したり。そういう技法が本当にすばらしいと思います。

壁は粟おこしみたいな(笑)荒いザラザラの表面がバラガンの特徴で、その凹凸に陰影がつくんですね。うちの外壁も、そこまでではないけど少し荒めの仕上げにしています。

実際の壁はグレーに近い色なんだけど、光の影響を受けて朝は青みがかって見えて、晴れた昼間はまっ白、夕焼けのときはなんとも微妙なピンクに染まります。

1日の中でも、いろいろ表情が変わって見えるんですよ。

― ああ、本当に素敵ですね。
周囲の光や色を映し込み、なすがままに表情を変える家。まさに、デザインしないデザインの姿ではないでしょうか。

 

― ・・・さて、お話もそろそろ終盤となりますが、これまで手掛けてきた住宅で、特に印象に残るものはありますか?

この質問、非常に難しいなあ~(笑)。どれも全部と言いたいよね。
まあでも、いつも同じではなくて少しずつ先のステップへと進化していきたいですから、なにか新しい大きな課題に出会える家は、また一歩進んでいくためのきっかけになります。

・・・最近では、あるところで建てた、六角形の家。

― 六角形ですか!佐渡さんの建築にしては斬新ですよね。

なぜ六角形になったかというと、まず敷地の形がかなり複雑で。
その中で車庫のスペースをとったり、日当たりを考慮したりと、確保しないといけない敷地の部分を削っていって、残ったところが建物の形になったんですよ。

こんな六角形のようなデザインは、最初はそれこそ「素の形」に反するものではないかという葛藤もありましたが、結局こうやっていろんな理由でできあがった六角形というのは、それはそれでなるようになった形なんですよね。

― なるほど。素の形イコール単純形、とも限らないんですね。

この物件は、自分にとってちょっと新たな課題でしたが、今までにない造形的な「素の形」が実現できたように思います。ひとつ課題を乗り越えたかなと。

それで、今もう1棟これに近いものを設計中なんですけど、そこの敷地はきれいな真四角で、しかもすごく広い。そういうところほど難しいんですよね、なんでもできちゃうから。

― そうですよね。

では、形はどこからもってこようか。この場所における素の形を考えたら、もう真四角しかないのではということになるんですけど。

でも、施主さんとのやりとりの中で、「北側の山の風景が好き」というお話を聞いてね。生まれた実家からもその山が北に見えていたそうで、施主にとって気になる存在のようでした。

それでその山を主に据えて、山と家をつなぐ軸線、それと周囲の街並みの軸線・・・道が交わって区画ができる、街の中にそういう線ってありますよね、その軸線と軸線をかぶらせて、住まいの形をつくっていったんです。

― 根拠のある形ができたんですね。

そういうことです。
なにか形をつくるなら、やっぱりそこに理由とか意味合いがないといけない。・・・それに、実は北の景色ってすごくきれいなんですよ。

みんな南の景観を気にするけど、南は光が強すぎて色が飛んでしまうし、山なんかは逆光になって、実際きれいに見えないんです。だから、特にこの家では北の景色を大事にしたくて、それを軸にプランをつくっていきました。

― なるほど。そうやって必然的ななりゆきでつくられている空間だから落ち着くのかもしれませんね。

すごく主張してくるような空間じゃなくて、ぼやーんとしているぐらいの、力の抜けた感じがちょうどいいですね。

ただ住宅は、作り手がよかれと思っても、施主に納得してもらえなければ意味がないですから、そこは本当に難しいところです。自己満足では絶対だめですから。

でも逆に、施主さんが心から喜んでくださったときは、本当にうれしいですよ。家をつくって喜んでもらうこと、僕の目標といえば、ただそれだけですね。

― 住宅って、それこそ人が毎日、一生過ごす場所ですから。なにかを「つくる」仕事の中でも、住宅建築はとてもやりがいのあるお仕事だなあと感じます。

いやでも、例えば文章書くのがうまかったら僕は小説家になりたかったし、作曲の才能があったら音楽家になりたかったですよ!

小説とか音楽だったらたくさんの人に見てもらえて、いい作品ができたらたくさんの人を感動させられるけど、住宅はその家族だけのものだから、そこはちょっとくやしいかな、なんて(笑)。

― そんな(笑)。でも、そのご家族にとっては本当に大きな感動ですよね。

生きていてなにが一番やりがいかって、人に感動を与えることだと思うんですよね。

僕はそんな音楽や文章で人の心を動かす才能はないけれど、建築ならなんとか少しはできるかもしれないということで、一生懸命やっています。

 

― 今日は本当に、ありがとうございました。

2014年10月 取材
文:吉田愛紀子

 

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