2.廃墟に魅せられて

アトリエSado
佐渡基宏さん

 

2015.02.09

 

 

― 先の話で、佐渡さんの建築は「時間軸」がひとつのテーマだということをお聞きしました。
経年変化が好き、さらには朽ちていくものが好きとおっしゃいましたね。

そう。
僕ね、廃墟が大好きなんですよ。
ボロボロに朽ちて崩れた形なんか見ると、ゾクゾクして(笑)。

― 廃墟!

それから外国の怪しそうな街とか、コンビナートとか。
学生の頃から興味がありましたね。
昔、香港に九龍(クーロン)城っていう、スラムのようなものすごいカオスな場所があって。大学のゼミ旅行で香港に行ったとき、僕はそこにめちゃくちゃ入ってみたかったんだけど、「危ない!」って周りに必死に止められました(笑)。

― そういう場所って、ちょっと異様な気配を感じて、なぜかすごく興味を引きつけられるんですよね。私もわかります(笑)。佐渡さんは、廃墟のどういうところに魅力を感じますか?

そこにストーリーが見えてくるじゃない?
長い年月の中でこの場所にいろんな物語があって、それでついにこういう姿になったんだろうなあとか、どうしてこの街はこんなふうになったんだろうなあとか、どんどん想像が膨らんて、すごくワクワクします。

― 今に至るまでのストーリーに思いを馳せられるのが魅力ですね。

あと、路地も大好き。尾道の街なんかとても好きですね。
海外旅行が好きでときどき行くんですけど、どこに行っても路地巡りばかりしてます。
学生時代には、40日間ひとりでヨーロッパを旅行したんですよ。ほとんど無計画のバックパッカーで。着いた駅で安ホテルを教えてもらって、滞在日数も決めずに行き当たりばったりの旅。言葉も通じないから、ぜんぶ身振り手振りでね。

― けっこうアグレッシブなことをされるんですね!

建築学科の学生だったから、一応建築作品を見に行くことが目的だったんだけど、まあ結局街並みばっかり見ていましたね(笑)。

中でもイタリアで、ちょっとおもしろそうだなと思って小さな山岳都市に立ち寄ってみたら、もうそこにハマっちゃって。それこそ路地の入り組んだ街があって、ずーっと歩いて回ってね。スペインや南仏もじっくり見たかったけど、イタリアに長く居すぎて時間がなくなっちゃった(笑)。

― 建築作品よりも、人の暮らす街の姿に興味があるということでしょうか。

そうですね。
イタリアに、「マテーラの洞窟住居」という、世界遺産にもなっているところがあるんですけど。好きな建築はと問われると、有名な建築家の作品ももちろんあるんですけど、僕はそのマテーラの洞窟住居も必ず挙げたいです。

― これも、建築作品というものとは少し違いますよね。

自然発生的にできた街並みですからね。
マテーラには石灰質の山が広がっていて、それこそ紀元前から、この山を掘って人々が住処にしていたんです。その洞窟の家の上に、さらに石の家がどんどん建てられていき、ひとつの山岳都市みたいになってる。

多くの人が住んでとても栄えていたんだけど、あるときからスラム化して、ついには疫病がはやって無人の廃墟になるんですよ。

で、その後また街が復活して、今でも人が暮らしているんですよね。

― そうなんですか。

そういう時の流れとともに移り変わってきた物語を思うと、もうなんともたまらないですよ!基本的に建築とは想像していくらの世界で、言ってみれば物語を編むようなものじゃないですか。

自分の建築にも、そういうストーリーをつくりたいなと思いますね。

― 興味深いですね!脈々とした人の営みを感じて、想像力を掻き立てられます。 ・・・ですが、そういう廃墟とか路地の雑多な雰囲気と、実際に佐渡さんのつくられる空間と、イメージがまったく対極のように思えて驚いています。

確かに、廃墟ではないよね(笑)。
でもこれも時間軸を感じるものという点で、自分の中では同じなんですよ。

― はい。

時間の経過とともに自然発生的につくられていく形がいいと話しましたが、まさに廃墟や路地はその極みじゃないですか。

意図的ではなく、いろんな必然があって、自然とああいう形になっていったものでしょう。それが、内藤さんの言われた「デザインしない」に通じるんです。

― ああ、なるほど!今つながりました!

そう、結局そこで接点がピシッと合うんですね。
内藤さんが当時の僕にその言葉を語ってくれたのは、すごいことだったんだなあと思いますよ。「ああ、こういうことだったのか」って、本当に理解できたのは、内藤さんの事務所を辞めてからでした。

― 以来、佐渡さんの建築にとっても、そこが根幹となっているんですね。

路地なんかはまた、光と影の感じも好きなんですよね。
狭い路地に上から光が射してきて、すり減った路面が光っていたり。夜には窓から光が漏れて、石造りの壁にきれいな陰影ができていたり。
その光の感じを写真に撮りたいんだけど、なかなか難しいね。

新婚旅行でもイタリアに行ったんですけど、そのときはモノクロ写真ばかり撮っていて、帰って周りの人に「なんでイタリアなのにモノクロなんだ」って言われました。鮮やかな色彩あふれるイメージが街の魅力なのに、白黒じゃちっともおもしろくないって。

― でも、モノクロ写真でもカラーの色調は意外と伝わってくるような気もしますけど。自分でカラーをイメージするおもしろさも、モノクロならではのものですよね。

逆に想像しちゃうでしょ。どんな色なんだろうって。
人間は五感のひとつが欠けると、それを補おうとして他の感覚が研ぎ澄まされるといいますよね。どこかが抜けていることで逆に魅力を感じるって、人に対してもよくあるじゃないですか。建築にもそうやって、なにか欠けたところをつくってみるとおもしろいなあと思います。

― 確かにそうですね。写真や絵でも、均整の取れ過ぎた構図より、ちょっとバランスの崩れたところに目が行ってしまいます。

そう考えると、これは廃墟の魅力にも通じてきませんか?
廃墟なんてそれこそ崩れて欠けまくってるから、これはどういうことだろうとか、こっちになにがあったんだろうとか、どんどん想像して惹きつけられていくんですね。

― ああ、その通りですね。
・・・お話を伺うと、廃墟とか、バックパッカーとか、佐渡さんのもつ佇まいからは意外なイメージが次々に出てきて、しかもそれが結局ぜんぶご自身の建築につながっている。 お話、とてもおもしろいです!

つづく ・・・ 4回連載 次回「3.好きなこと」は2月16日UP予定です。

2014年10月 取材
文:吉田愛紀子

※ 佐渡基宏建築アトリエは2018年12月「アトリエSado株式会社」になりました。

 

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アトリエSado

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