このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第2回目に登場してくださるのは、佐渡基宏建築アトリエ・代表の佐渡基宏さんです。
その建築は、微かな陰影を大切に感じられる、静謐な佇まい。
施主との誠実な対話から、それぞれの暮らしに沿う住まいのかたちを生み出しています。

秋の雨がしっとりと芝を濡らす日、そんな佐渡さんのご自邸を訪ね、お話を伺いました。

1.「デザインしない」 ~気になる建築家の横顔 第2回~

2015.02.02

 

 

  • はじめまして。今日はどうぞよろしくお願いします。
    ・・・お庭の素敵なご自宅におじゃましていますが、天気はあいにくの雨。
    ですがこうして外を眺めていると、これもまたよかったのかなと思います。
    空間の落ち着いた佇まいが、雨の雰囲気にもよく似合うんですよね。

雨の日もいいですよ。
もともとこの家は日射しをふんだんに取り込むようなつくりではないので、天気のいい日でもわりとこういう、明るさを抑えた感じですしね。

  • 軒を深くつくられていますね。
    縁側の隅のほうの暗くなったところなど、とてもいい雰囲気で。

光って、直接射し込むよりも間接的に回ってくるほうがきれいだと思うので、僕の建築では日ごろから、あまり直射日光の入る空間はつくらず、逆に意識して暗いところをつくっています。

深い軒は光の入りを調節する役割もあるし、うちの場合だと周囲からの視線をカットする意味も大きいですね。

敷地のロケーションがよければもっと違った家になったんだろうけど、ここは周りを建物に囲まれているので、自分でロケーションをつくらないといけないという課題があったんです。だから表は閉ざして、内にパーンと開ける家になりました。それで、芝の庭を見せるためにリビングの開口を大きくしているので、こっちからと周りの家からと、お互いの視線を遮るよう軒を伸ばしています。

  • 玄関の薄暗い土間から、パーッと明るい芝の庭へと開放する、その対比が見事です。芝が美しくて、なんだか美術館の中庭みたいですね。
    やはりここは自邸ということで、いろいろと思いを込めて設計されたのでしょうか。

いえ、これは私の家というより、妻が施主というつもりでつくったんですよ。ふだんの仕事と同じように、施主の要望を聞き、それを盛り込んでプランを考えました。
妻は茶道をしているので、離れにお茶室をつくっています。予算がかさむなと思いながら(笑)。

彼女はそこで茶道を教えたり、このリビングで小さなパン教室をしたりもしているんですよ。

  • いいですねえ。
    素敵な空間を存分に活かして、使っていらっしゃるんですね。
    ・・・佐渡さんの作品というと、和気町にある「ギャラリー栂」さんに私は伺ったことがあるのですが、あちらもとても雰囲気が良かったですね。

ああ、ギャラリー栂は独立してすぐの作品でしたね。
今見ると未熟な部分もあるんですけど、でも、明るいところと暗いところをつくるとか、そこでやりたかったことは今でも基本的に変わっていないです。

そこでは、光の入るカフェのスペースと、光を落した展示スペースと、ひとつの空間を明暗の対比によってわけるようにしました。
明るいところでお茶を飲んでおしゃべりし、暗いところで作品を静かに鑑賞する。

対比があることで、どちらの雰囲気もより引き立つと思います。

  • 確かにそうでしたね。展示スペースの奥のほうはかなり暗くて、とても落ち着いた雰囲気になっていました。

このギャラリーに限らず、ずっと僕がテーマにしていることのひとつに、「時間軸」というキーワードがあるんです。

時間というのは空間によって、ゆっくり流れるときと早く流れるときがあると思うんですよ。

  • 時間軸。

ギャラリーでは、ゆったりした心で作品を見てもらい、くつろいでいってもらいたい。その思いから、外に長いスロープのアプローチをつくらせてもらいました。

訪れる方はスロープを上がりながら、せわしい日常から離れて徐々に自分本来のリズムを取り戻していく。そして中に入り、奥に行くに従って少しずつ光が落ちていく・・・そういう仕掛けをつくることで、時間の流れをゆっくり感じてもらうことができると思ったんです。

  • なるほど。
    私が伺ったときも本当にくつろいだ気持ちになったのですが、無意識のうちにそういう演出の効果を受けていたんですね。

展示スペースをかなり暗くしたことについては、最初はオーナーさんにも反対されたんです。でも、できあがったものを見て、「ああ、こういうことだったんだね」と言ってくださって。理解し、気に入ってくださったので、本当にホッとしました。

  • そうなんですね。もちろん建物は施主の要望を汲んでつくるものですけど、やはり作り手の描いたコンセプトが最後まで貫かれていると、結果的にいいものになるような気がしますねぇ。

そうですね。
住宅は現実面でいろんな要素が絡んでくるから、なかなか完璧な理想を求めるのは難しいんですけど。でも、デザインに関してはできるだけブレたくないなとは思っています。
いらないものを加えないというのが、僕の中では一番大事なことですね。

大学を出て最初に修業に入った設計事務所で、まず所長に「僕はデザインしないから」って言われたんですよ。
所長は内藤廣さんといって当時から活躍をされている方なんですけど、僕は内藤さんのデザインが好きで憧れていて。作品を持って門を叩いてやっと入れてもらったのに、いきなりそんなこと言われちゃった(笑)。

その時はどういうことを言ってるのか、ちっとも僕にはわからなかった。でも、後になって徐々にわかってきたんですよね。
故意的なデザインはしないということ。

いかにデザインせずに形をつくるか・・・そこが難しいところです。

  • ああ、よくわかります。デザインのためのデザインというか、必要のない形って、なにか落ち着かないですよね。

そう。僕はよく「素形(そけい)」っていう言葉を使うんだけど。
「素(す)の形」ね。
わざとの形じゃなくて、本来の、素の形を追い求めていきたい。いつの間にか自然発生したように、「なるようになった」という感じが一番いいと思います。

これ究極だよね。

  • なるようになった形・・・それが本当に正しい、美しい形なんでしょうね。その言葉、心に響きます。

引き算の美学ってよく言われますが、住宅もそうですね。
僕の設計はなによりもつくりすぎないことを心がけているので、もしかしたら物足りないと思う方もいるかもしれません。

機能面などでは施主の要望を充分に取り入れますけど、例えばここにこんな装飾をつけてほしいというような、デザイン的になにかプラスするような要望については、無条件に受け入れることはしないかもしれませんね。流行だから取り入れるというのは絶対にしたくないですし。

  • わかりやすいデザインはパッと見て格好良いから、ついそれを求めてしまいがちですけど。でも年月が経ったあとでどう感じるか。何年経っても色あせない格好良さはやはり、「素の形」なのかもしれませんね。

年月とともによくなる家でありたいですからね。
僕がつくるのは60%の部分で、後の40%は住む方がつくっていくんですよと施主さんにはお話しています。

ずっと大事に住んでもらえると、古くはなるけど、建ててすぐより絶対魅力が出てくると思うんです。経年変化で朽ちていくのが好きなんです。それもすごく時間軸を感じるものだから。

  • 時間軸、素の形・・・。
    佐渡さんの建築の基となる、奥深いキーワードが出てきました。

つづく ・・・ 4回連載 次回「2.廃墟に魅せられて」は2月9日UP予定です。

2014年10月 取材
文:吉田愛紀子

 

2.廃墟に魅せられて →

 

佐渡基宏建築アトリエ

岡山県倉敷市中央2丁目10-7 2F-A Tel.086-434-6557

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