このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第3回目に登場してくださるのは、住まいの設計工房アデックス・代表の田中英治さんです。

そこはかとなく漂ってくる品の良さ、清潔感―。
粋な空間づくりを手掛ける田中さんは、いつもユーモラスな会話で私たちを楽しませてくださいます。
暖かな春の日差しに包まれた日、田中さんのもとを訪ね、お話を伺いました。

1.カーデザイナーとミュージシャンの夢 ~気になる建築家の横顔 第3回~

2015.05.04

 

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  • 今日はどうぞよろしくお願いします。
    田中さんが「住まいの設計工房アデックス」として独立されたのはいつでしょうか?

1990年ですね。

  • なんと、今年で25年が過ぎるのですね。

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ありがとうございます。おかげさまで、多くのお客様に『家創りは、夢作り、幸せ創り』をテーマに家づくりの夢をお手伝いさせていただきました。

  • 田中さんが建築家の道へ進まれたのは、どういったきっかけからですか?

実は10歳の頃からカーデザイナーかミュージシャン(ボーカル)になりたかったんですよ。

  • え?

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中学2年生の定期試験のとき、部活が休みで早く帰ってくるでしょ。
勉強がいやだなぁと思いながらサラサラ~と車の絵を描いていたんです。
たまたま見つけた父親からは「お前、何しょんなら。勉強せにゃいけまーが」と言われましたが(笑)。
そのとき、何気なく描いた絵は、たまたまですけど2年後に出た初代カローラクーペのデザインそっくりでした。

  • わ、びっくり。すごいですね。

いえ、すごくはないですよ。
その頃流行していたアメリカ車があって、カローラもこんなんだったらいいなぁと、がっちゃんこ、がっちゃんこシミュレーションして描いていったらそんなデザインになった。
イメージと基本のお手本があって、それを編集、アレンジしたんです。
それは、今の家の設計にも活きていますね。

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  • その後、カーデザイナーの夢は?

高校生の時、親の薦めもあってカーデザイナーから現実路線の建築デザイナーへ変更しました。
でも、もう一つの夢であるミュージシャンになりたい気持ちはあきらめきれず、建築の専門学校を卒業して岡山の設計事務所に勤務しながら、アマチュアミュージシャンとしてイベントやライブ出演などの活動をしていたんです。
その頃の経験も、今の僕を作っていると感じますね。

  • それは、具体的にどんなところでですか?

プロとしての意識や「お客様に喜んでもらってなんぼ!」という精神ですね。
22歳でアマチュアバンドしていたときに、ロックミュージシャンを目指している友達が岡山に帰って来て即興バンドをしようじゃないかという話になったんですよ。
みんな貧乏だったから、ライブハウスを探して出てみようかと。
僕はボーカルとして誘ってもらいました。

  • ステージではどんな曲を?

ロックです。
それがね、当時は長渕剛や井上陽水が歌うフォークソングが流行っていたんですよ。
即興バンドは寄せ集めだからレパートリーもないけど、だからこそ、聴きやすいアメリカウエストコーストのロックをしてみようとメンバーから声が上がってね。
会場はライブハウスといっても、一般のお客さんがくるパブで、フライドポテトをつまみに水割りやビールを飲みながらステージの演奏を聞くわけ。

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  • お客さんはどんな人たちなんですか?

県庁の職員とか、サラリーマンがほとんど。
仕事帰りに立ち寄る若者のグループや、女の子もいたし、年配のお客さんもいたし、あらゆる年代の人がいましたね。
そういうところで、ウィーン、ジャカジャカジャーンというロックがウケるわけがない(笑)。

  • 確かに。それは難しそうですね。

ライブハウスのオーナーにも相談したんだけど、「厳しいと思うよ」と言われました。
「でも、ここで君たちがお客さんを帰させることなくステージを務めることができたら面白い」と、実験的に雇ってくれた。
それがね、一晩5000円じゃないんです。1人5000円。5人いたら25000円。店も博打なんですよ(笑)。
ただ、最初にオーナーから言われたんです。
「君たちはアマチュアだけど、私は君たちにギャラを払う。ギャラを払っている以上、プロとして見る。プロとしての仕事をしてほしい、と」。

  • うわー、ステージがどうなったのか気になります。

1回目はね、僕らのさくらが来てくれたんです。5、6人。
その人たちが拍手をしてくれるでしょ。
でも、2回目はない(笑)。
2回目のステージでは、たまたま若い子が来てくれて、前の席でリズムにのってくれたんですよ。
そこで、気をよくしたんだけど、「やかましい」という人もいた。

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そのとき、「お兄ちゃん、ビートルズはできんのか?」とリクエストが来たんです。
僕がMCだったので「できないんです。でも、練習しますから、来週も来てもらえますか?」と返事しました。
そこから、次のステージに向けて練習です(笑)。

  • 翌週のステージでは?

はい。ビートルズをやりました。
ノリがよくてみんなが一つになれる曲を。
そうしたら、リクエストしたお客さんが本当に来てくださっていて、思わず握手(笑)。

  • それは、うれしいですよね。

そこで、バンドのみんなと話をしたんです。
「お客さんを喜ばせてなんぼだから、自分たちがやりたいことは半分にしよう」と。
ステージでは毎回リクエストはないですか?と聞いて、アメリカのヒットポップスとか、新しい曲を増やしていきました。
サンタナ「哀愁のヨーロッパ」のインストゥルメンタルでギターが音をはずした時も、「すみません。トラブルが起きました。ワンモアチャンス!」と言って、失敗を笑いに変えてやっていましたね。
結局、即興バンドはメンバー1人の大学が始まったので解散したんだけど、いい勉強になりました。

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  • MCを務めた田中さん、多くのお客さんを前に緊張はしなかったですか?

僕はあがり症でステージに上がるのもガチガチ。
もちろん緊張しました。但し、調子に乗るとテンションが120%になるんです。
何でもそうなんだけど、いいお客さんに出会うとどんどんノリがよくなる。お客さんの喜ぶ顔をイメージすると頑張れる。

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家の空間づくりも、ステージのリクエストのように、どんどん要望を出してもらって、どんな無理難題もチャレンジして最高の満足度があたえられるように、望むものをとことん追求する。
これでもか、これでもか、というダイハードの世界です。
コミュニケーションの数ほどいい建物ができますから。

  • それが、アデックスのテーマ『家創りは、夢作り、幸せ創り』にもつながってくるんですね。

僕の考える家創りは音楽と一緒で、一つの固定観念で考えてはだめだと思うんです。
一つの曲をフォービートで歌う。エイトビートで歌う。シックスティーンビートのフュージョンに変えてみる。ツービートに変えてみる。普通のポップスでも、それを演歌ヴァージョン、ジャズヴァージョン、スローバラードで歌ってみる。
視点を変えると、面白いものが見えてくる。

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料理でもそうでしょ? 同じ素材を和風、洋風、中華と変えることで、いろんな味が楽しめる。
僕の建物も、お客様の要望に添いながらも、楽しく、面白くありたいですね。

  • 話を聞いているとワクワクしてきます。お客さまの満足そうな笑顔が見えてきそうですね。
    さて、ちょっと話を戻して、若き田中さんのミュージシャンの夢はどうなったのでしょうか?

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おっと、そうでした(笑)。
アマチュアミュージシャンとして活動を続け、25歳であるオーデションを受けたんですが、地方予選に見事に落ちてしまいまして。
ちょうどその一週間前に受けた一級建築士の試験には合格したんです。
まさかこっち(建築)が受かるとは思ってなかったんですが、この結果が建築を志す運命の分かれ道となりました。

  • カーデザイナーとミュージシャンへの夢。若き田中さんの経験はどれもこれも現在の建築に深く結びついていることが分かりました。無駄な経験って一つもないのですね。

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つづく・・・4回連載 次回「2.Win-Win-Winの家づくりって?」は5月11日UP予定です。

2015年3月 取材
文:松田祥子

 

2.Win-Win-Winの家づくりって? →

 

住まいの設計工房アデックス

岡山県岡山市北区下中野1212-7 Tel.086-245-5713

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