このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第5回目に登場してくださるのは、岡本光利一級建築士事務所代表の岡本光利さん。
スタイリッシュなデザインと自然素材の持ち味を生かした心地よい空間。
岡本さんは住まう人のライフスタイルや人生観、自然、周辺環境との調和も織り込まれたトータルバランスの良い家づくりを手掛けられています。
澄み渡る秋晴れの下、岡本さんのご自邸アトリエを訪ね、お話を伺いました。

1.コミュニケーションが生まれる空間づくり ~気になる建築家の横顔 第5回~

2015.12.07

 

 

  • はじめまして。今日はよろしくお願いします。
    早速ですが、アトリエにある照明、椅子…どれもかっこいいですね。

このライトPH5といってデンマークのデザイナー、ポール・ヘニングセンのものです。北欧は機能とデザイン、双方を考慮したシンプルで飽きが来なくて長く愛着を持てるものが多いんですよ。向こうは何気ない工事のバリケードとか三角コーンまで、なんてことないんだけど、何でもさりげなくデザインされていて絵になるようなものが多くて。

  • そうなんですか。

このハンス・J・ウェグナーがデザインしたPP701、見た目もいいけど、座り心地も抜群ですよ。

  • 確かに! 座り心地いいですね。

でしょ。
機能性とデザイン、トータルして「いいもの」を生活の一部として使い続けること。「いいものはいい」と伝え続けていくこと。設計を続けていて、そういった想いはいつもどこかにありますね。

北欧を旅して思ったんですが、デザインにしても、食べ物にしても、日本と北欧はなんとなく感性が似ているような気がします。

  • 岡本さんは小さい頃から建築家を志していたんですか?

子どもの頃から自分で何か考えて作ることが好きでした。父が建築関係の仕事をしていたことも関係あると思います。人と同じことをするのが嫌で、勉強や宿題はあまりしていませんでしたが(笑)、図画工作の授業や夏休みの宿題は大好きで、徹夜までして納得いくものを作っていましたね。

  • 徹夜まで…。それほどいいものを作りたいという気持ちが強かったのでしょうか。

びっくりさせたかったんでしょうかね(笑)。昔から人を驚かせたり、楽しませたりすることが好きだったんです。

  • 「岡本光利一級建築士事務所」としての始まりはいつでしょう?

1998年です。今年で17年目になります。
独立は岡山に戻ってからなんです。大学を出てからは東京のデベロッパーの設計部やゼネコン(建設会社)の設計部で働いていました。

  • デベロッパーというのは?

不動産の開発業者のことですね。建築家のほとんどの方は、学校を出たら設計事務所に勤める方が多いと思いますから、私は珍しいパターンかもしれません。

  • その、事業内容というと?

大規模な宅地造成やリゾート開発、再開発事業、オフィスビルの建設やマンション分譲といった事業です。何もない更地に何を作って、どう活用するか。必要なものをつくり、街ができていくという、なんか漠然としたところから始まっていきます。

  • 更地に街をつくる…。家づくりと比べると、とてつもなく大きくて、漠然とした感覚になりますが。

確かに規模は違いますが、基本的には全く同じことです。
建物が建つ意味として「住む」もあるでしょうけど、「ビジネス」があったり、街が活性化する何かであったり。その場にどういったものが必要なのか、どんなものが建てば社会が豊かになるだろうか、そんなことをいつも考えていました。
ただ、アイデアはいろいろ出ても、実際に需要があってビジネスになるかどうか、そういった見極めも大事になってきます。

  • ほぉ、確かにそうですね。

入社当時はバブル時代だったので、投資用のワンルームマンションの分譲が流行っていて、そういった物件も数多く手掛けました。

  • 設計部門では、その事業の設計を専門にされていたのですか?

そうですが、トータル的にですね。土地が買えるか買えないかの価値判断から、設計事務所や大手建設会社と伴にビジネス的なコンサルティングやコーディネート。自分なりのデザインも取り入れながら総合的に企画から設計、監理、アフター管理に至るまで携わってきました。

  • やりがいのある仕事ですね。

採算が取れる事業的要素を考慮しながら、お客様の満足も大事に、さらに魅力的な街づくりで街が元気になればいいなと思って取り組んでいました。
東京時代はいろんなところに移り住んだんですよ。埼玉から千葉、自由ケ丘、池袋近辺、最後は千駄ヶ谷周辺。休みの日は青山でベビーカーを押して歩いて、表参道でパンを買って…。

  • わー、おしゃれ!

街を歩いていて単純に楽しかったです。歩きながら「これ、何?」「ちょっとかわいいね」「かっこいいな」と、お店の人や道行く人と自然と会話が弾んだりする。それと同じように、そこでコミュニケーションが生まれるようなワクワクする建物づくり、空間づくりができたらと思っています。

小学生がこのアトリエの前の道路を歩くとき、「何、この家、おもしろい、かっこいい」とか話す声が聞こえてくるんですよ。それは私にとって単純にうれしいことです。この家を見て、何かを感じてくれた、何かが伝わった、ということですから。

  • なるほど。説明がなくとも「いいな」と思ってくれる、目をとめてくれる。それは何かが伝わったということですね。

そうです。単純に「いいな」という感覚。それって本当にシンプルなことなんですが、大事にしたいんです。なんとなく自然にそうなったとか、あまり手を加えない自然そのものの素材感をいいと思えるような。
人の本来持っている自然な感覚、直感を大事にしながらあらゆる面で自然体でいられたらと私は思います。
「あの形いいよな」「おもしろいよな」と素直に感じさせてくれるものって、そこでコミュニケーションが生まれるじゃないですか。

  • 確かに面白かったり、おいしかったりしたことって誰かに伝えたくなります。

そうそう、黙っていられなくなる。チラッと見たり、チラッと言いたくなったり(笑)。そういう感覚的なもの、言葉がなくても素直に感じとれるものがつくりたいんです。街も家もそういうものかなと思うんですよね。
そういった要因が人や社会を元気にしてくれ、豊かな感性が生まれてくるんじゃないのかな。

北欧、東京、岡山…それぞれ土地の持っているエネルギーというか、ステータスが違いますから、その個性を大事にしながら、ほかにはない何かが生まれれば面白いですよね。

  • 個性あふれる街、楽しそうですね。
    北欧家具のデザインの話から始まり、東京時代や街づくりの話。いろいろ伺う中で岡本さんの根底にある素材やスタイルの良さを見極める審美眼に触れたような気がします。さあ、東京時代から一転、岡山へ。そして設計事務所立ち上げ。
    独立してからのお話も、じっくりお聞きしたいですね。

つづく・・・4回連載 「2. こだわりを形に」は12月14日UP予定です。

2015年10月 取材
文:松田祥子

2.こだわりを形に →

 

岡本光利一級建築士事務所

岡山県岡山市南区浦安本町21-17 Tel.086-265-6235
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