このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

第1回に登場してくださるのは、(有)土岐建築デザイン事務所・代表取締役の土岐一嘉さん。

龍ノ口山のふもと、深い緑に抱かれた地に事務所と自宅をかまえ、
プライベートでもキャンプや畑仕事など、自然と戯れる時間をこよなく愛する方です。
濃い葉影が庭先に落ちる夏の日、そんな土岐さんのもとを訪ね、お話を伺いました。

1.事務所のこと。 ~気になる建築家の横顔 第1回~

2014.11.01

 

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  • シンプルかつ明快な空間構成をコンセプトに、無駄なく機能的で、自然を感じられる住宅の建築を手掛ける土岐建築デザイン事務所。土岐さんは、その代表を務めていらっしゃいます。
    土岐さん、今日はどうぞよろしくお願いします。
    …さて、2000年に事務所を開かれてから今まで、本当にたくさんの素敵な住まいをつくられていますよね。

ありがとうございます。
おかげさまでこれまで数多くの住宅を手掛けさせていただきましたが、その実績というのは、僕の建築というよりは、事務所全体のチームのものだと思っています。
お客さまから評価をいただいているとすれば、僕自身のキャリアに対する部分もあるかもしれないけど、やっぱりチームとしての良さを感じてもらっているんだと思います。

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  • 事務所全体で、ひとりのつくり手という意識なんですね。
    確かに、所員さんも精鋭ぞろいです。

プランは僕が考えますが、設計の段階になると所員と十分に意見を出し合って一緒に作り上げています。

工事が始まれば僕は外れて、監理はほぼすべて担当に任せていますし。

  • なるほど、頼もしいですね。 独立された方もいらっしゃいますよね。

ええ。 所員はうちでしっかりやってもらうことももちろんなのですが、
いずれ独立していくことも頭に置いて仕事を教えています。
所員には、自分の担当する案件については、収支の管理まで全部責任持たせているんです。
うちに来たら、経営の面もしっかり教えたい。
建築が好きでしょうがなくてこの道でやっていこうという人は多いけど、独立しても、数字に弱かったら仕事を続けていけないのでね。
場合によってはまず話し方や接客のしかたから教えます。建築以前に大事なことですからね。
それで、ある程度成長したら現場に出します。とにかく現場に出て覚える。力がつくのが早いと思いますよ。

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  • 薪ストーブの販売・施工に関しても岡山では先駆け的な存在で。
    事務所併設の薪ストーブ専門店『ソールルース』を経て、
    2011年には新たに『HICKORY WOOD STOVE WORKS』をオープンされましたね。

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はい。
『ソールルース』を開いてみると、口コミでお客さまがどんどん増えていきました。 でも、それはうれしいことではあったんだけど、次第にそちらに手を取られすぎるようになり、本来の建築の仕事との両立が難しくなってきたんです。
10年ほど続けた後、どっちつかずになることを懸念して、ここでやめてしまうか、逆に事業拡大するか、どちらかに決めようと思った。それで、いろいろ考えて所員にも相談したら「やります」と心強い返事があり、最終的に、別事業を立ち上げる形で新店舗をオープンすることにしました。 現在は新しいスタッフも頑張っています。

  • なるほど。そうだったんですね。

やると決めてからは、毎日ずーっとそのことを考えていましたよ。店舗の物件を自分で歩き回って探して。
今の店は元倉庫だったのですが、建物を一部壊して改装させてもらう許可を得るために、家主さんにきちんとプレゼンして説得しました。

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  • え!?家主さんにプレゼン!?

そう(笑)。

資料を作り、「こんなお店を作りたいから、そのために建物のここをこう変えたい」と説明して、なぜ壊す必要があるかをわかってもらいました。

  • 家づくりでも同じだと思うんですけど、いつもどうしたら相手の心に届くかを一生懸命に考えて、そのための労力をいとわないところがすごいですよね。

うーん、それはやっぱり情熱なのかな。
ヒッコリーの件でいうと、家主に対してというより、「こういう店をつくって喜んでもらいたい」っていう、お客さんに対してのモチベーションだよね。
ヒッコリーでは結果的に家主さんも、「あんな倉庫がこんなになるなんて」ってすごく喜んでくれたので、僕もうれしかったです。

  • ところで、土岐建築デザイン事務所の手掛ける家は、それぞれにイメージが違って柔軟な印象で…。
    それでいて、スタイルの芯みたいなのは確かに統一されていると思うんです。

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 そうですか。

うちのカラーというものがあるとすれば、それは最初からあったものではなく、ひとつひとつの積み重ねで、少しずつ出来上がってきたものなんじゃないかな。
たぶん、10年ぐらいはかかったと思う。

重視するのは、その土地に対しての全体のプロポーション。
具体的なディテールでいうと、うちの家は立ちの低い家が多いんですよ。
例えば規格の長さの柱を切って使うことってあまりないと思うんだけど、うちは平気で切っちゃうし(笑)。

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それと、コストをかければなんだって実現できるけど、同じ結果を出すならできるだけお客さまの負担を増やさないような工夫を心がけていますね。

  • そういうところにお客さまの満足があるんでしょうね。でも、手間はすごくかかりそうですね。

 そうですね。規格の家とは違うので。

だからうちは監理に関してはめちゃくちゃ厳しいと思います。
なによりも、6か月~10か月、進行物件をきちんと監理できる人じゃないと務まらない。
毎日毎日のことを、正確に、あたりまえに繰り返していける人であることが、うちの所員としては最重要なんです。

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  • 独創的なセンスに秀でることではなくて、コツコツと地道にひとつのことを繰り返せる能力こそ必要だと。
    建築家というとちょっとアーティスティックな職業というイメージがあるかもしれませんが、まるで対極なんですね。

 うちでは毎朝、掃除が日課なんですよ。これも毎日繰り返し、習慣でやること。

僕は自宅を隅々まで掃除して、スタッフは事務所を掃除しています。
もう癖になって、やらないと気持ちが悪い。
これは僕が影響を受けてるシェーカー教徒の考えでもあるんです。掃除・整頓を徹底し、簡素を尊ぶという。

  • シェーカー家具のシェーカーですね。
    機能に徹した美しい家具を作り、自給自足的な暮らしを守っていた人たち。
    なるほど…土岐さんの建築を見て、温かいんだけれども、奥底にすごくストイックな精神が貫かれているように感じていたのですが、
    その理由がわかった気がします。

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つづく ・・・ 4回連載 次回「2.趣味のこと。」は11月10日UP予定です。

2014年8月 取材
文:吉田愛紀子

 

2.趣味のこと。 →

 

(有)土岐建築デザイン事務所

岡山県岡山市中区祇園941-3 Tel.086-275-2802

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