このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第5回目に登場してくださるのは、岡本光利一級建築士事務所代表の岡本光利さん。
スタイリッシュなデザインと自然素材の持ち味を生かした心地よい空間。
岡本さんは住まう人のライフスタイルや人生観、自然、周辺環境との調和も織り込まれたトータルバランスの良い家づくりを手掛けられています。
澄み渡る秋晴れの下、岡本さんのご自邸アトリエを訪ね、お話を伺いました。

2.こだわりを形に ~気になる建築家の横顔 第5回~

2015.12.14

 

 

  • 東京から岡山に戻ってきてから独立した岡本さん。地元とはいえ、仕事関係のつながりは一切なく、ゼロからのスタート。当時はどんな様子でしたか?

独立当時は建築関係の仕事をしている父親を手伝いながら、基礎工事、設計、企画、職人…なんでもやりました。食べられない時代には、食べられない時代の良さがあります。

息子を左手に抱きあやしながら、右手にマウスを操作して図面を書いていたこともありますし、のんびりノートパソコンを持って海で釣りをしながら図面を書いたりプラン考えたりしたこともあります。ある意味、ぜいたくな環境で仕事していました(笑)。今となっては懐かしい思い出です。

  • ご自邸もご自分でつくられたと伺いましたが。

そうなんです。電気や設備などの専門的な工事は外注しましたが、なるべく自分ができるところは自分や家族でつくりました。
2009年、自分で設計をして基礎工事から大工工事、タイル工事も職人として工事しました。壁も天井も全て家族で一緒に塗りましたよ。

  • すごい。こんなに大きな家を自分たちで!

一回やってみないと気が済まないタイプなんでしょうね、私が。今までで一番大きな図画工作は思い出に残りました(笑)。
でも、正直しんどかったですね。おなかいっぱいです。
家族も最初は楽しんでいましたが、だんだんと冷ややかなムードが…ガンガン漂ってました(笑)。
やっぱりプロに任せた方がいいなというところもあり、勉強になりました。

  • でも、経験してみたからこそ、分かることですものね。

そうなんです。やってみたからこそ、分かることもたくさんありました。
施主様の中には、できる範囲内で自分たちでつくりたいと希望される方もいらっしゃるので、そこは自分たちでやれないことはない、と自信をもってアドバイスしてあげることができます(笑)。
そうそう、このアトリエはエアコンをつけてないんですよ。

  • それはどういった意図があって?

最近はエアコンや24時間換気など機械で快適な室内環境を保つことが当たり前となっていますが、私としてはなるべく機械に頼りたくないという想いがありまして。窓を開けていると風が流れてくるんです。
昔の家は軒を深く「ひさし」をつくって強い日差しを遮り、家の中を流れる心地よい風を感じながら涼をとっていました。暑い日には縁側でかき氷を食べたりしてね。

  • そうですね。昔は当たり前にあった懐かしい光景です。

あれが季節感ですよね。日本は四季があるんだから、機械で快適ばかりを優先するのはどうかなぁと思ったりもします。もちろん我慢は禁物ですが、「暑い」「寒い」を不自由と感じるのではなく受け止め、それなりの楽しみ方を見つける。それが豊かな感じがするんです。それを「風情」というのかな。

  • うーん、不自由と風情の話、興味深いです。便利を求めてしまうと、さらなる便利を求めてしまいがちだけど…その現状を楽しめたらいいですよね。

人の感覚による部分も大きいと思いますが、そういった感覚は磨いていきたいですね。

 

  • 独立後は仕事を請け負ったり、自邸を手掛けたりしながら、少しずつ仕事の幅を広げていかれたのですね。

今考えると無謀かなと思える独立でしたが、頼まれたことを一つ一つきっちりやっていたら、次の仕事につながることが多く、わらしべ長者的な人生で今までやってこれた気がします。

  • これがあったから今がある、というような思い出深い住宅はありますか?

そうですね。今ふと頭に浮かんだのは、「海が見える家」でしょうか。
老後に暮らせる家ということで、ゆっくりつきあってくれる設計事務所さんを探していたとお聞きしました。とにかくじっくり、一つ一つにこだわって時間をかけてつくっていった物件です。3年くらいかけて取り組みました。

  • どんなところにこだわりが?

「海が見える家」がコンセプトです。海が見える丘にあり、土地の向こうには青い海が広がっていました。借景を活用して家を「海の上に浮かんでいる船」にイメージしました。リビングから見ると、ちょうどウッドデッキが船の甲板です。

  • わ、楽しそう! 遊び心満載ですね。

室内にも海に関するデザインを入れているんですよ。例えば、玄関に入ったら吹き抜けがあり、一度天井が下がって、リビングに入るとまた上がる。すると、波打った空間イメージになります。抽象的な感じですけど、照明をイカ釣り漁船の漁火のようにしたり、壁を波(ウエーブ)にしたり。

  • 天井も波打っていますね。

はい。施主様が非日常空間を望まれていたので、リゾートホテルをコンセプトにちょっとした遊びをいろいろ仕掛けてみました。写真では分かりにくいんですが、玄関下足入れ脇の一見、壁に見えるウェーブ素材の袖壁部分を押すと貝が開くように開くんです。壁を白の光沢にしたり、海が見える方向と直交する壁に鏡を貼って海が映りこむようにしています。目の前の海がさらにワイドに見える仕掛けですね。お風呂も窓から見える海の景色が一枚の絵になるように配置し、バスタブに入ると海の中に浸かっているような感覚になれます。

  • 楽しい仕掛けがいっぱいですね。

 

この家をHPで見て、問い合わせをいただいたお客様もいらっしゃいました。

  • 岡本さんが家をデザインする上で気を付けていることは?

施主様のご要望に添って、建物から家具・カーテン、雑貨、植栽やエクステリアに至るまで人と自然、物が互いに溶け込むようトータルなデザインを心掛けています。あと、ナチュラル感、素材の持ち味を活かした質感、品格は特に大事にしたいですね。シンプルでコストを抑えたとしても、上品なデザインで材料は味の出るもの、上質なものをおすすめしています。

  • 家づくりで一番に心掛けていることは何でしょう?

施主様とのコミュニケーションと、価値観の共有はとても大事にしています。ここがブレるといいものができても価値がありません。要望をよく理解し、そのプランや材料などのメリット、デメリットなど説明し、デザイン性を優先するか、機能性使い勝手を優先するかなどよく話し合い、吟味し、お客様のライフスタイルにあったものづくりの提案をしていきます。

  • 価値観の共有の部分で工夫されていることは?

そうですね。なんでも話ができるような空気感を作ること。
あとは、実際にどういう素材を使ってどんなものができるのか、言葉で伝えるよりも、イメージしやすいパースや模型などを作ったり、各種材料の実物サンプルを見て触って確認しながら、設計イメージにブレがないよう気を付けています。

  • 確かに図面だけでは、イメージするのが難しいですもんね。

実際の材料を確認しながらイメージすることで、イメージが共有でき、さらに具体的な提案ができるんです。
模型は施主様に差し上げることが多いですね。建物が完成し、お客様が大変喜んでいる姿を見ることが喜びです。また、私に依頼して本当によかったと感謝のお言葉を頂いたときは、この仕事をやってきてよかったと毎回思います。

 

  • 「なんでも経験してみないと分からないから」という言葉に思わず共感しました。一つ一つの経験を知恵に変え、感覚を磨きながら家づくりに取り組まれている岡本さんの姿が浮かんできました。

つづく・・・4回連載 「3. 愛犬に癒されて」は12月21日UP予定です。

2015年10月 取材
文:松田祥子

← 1.コミュニケーションが生まれる空間づくり

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岡本光利一級建築士事務所

岡山県岡山市南区浦安本町21-17 Tel.086-265-6235
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