このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第3回目に登場してくださるのは、住まいの設計工房アデックス・代表の田中英治さんです。

そこはかとなく漂ってくる品の良さ、清潔感―。
粋な空間づくりを手掛ける田中さんは、いつもユーモラスな会話で私たちを楽しませてくださいます。
暖かな春の日差しに包まれた日、田中さんのもとを訪ね、お話を伺いました。

2.Win-Win-Winの家づくりって? ~気になる建築家の横顔 第3回~

2015.05.11

 

 

  • 25歳のときに建築の道を志す覚悟を決めた田中さん。
    在籍していた建築事務所では主として公共事業を手掛けられていたそうですが、独立を意識するようになって興味は住まいづくりに向かっていったとか。

独立前にご縁をいただいて、某大手住宅メーカーの設計を請け負っていました。
そこで学んだことがとても大きかったですね。

住宅展示場では、大手住宅メーカーのモデルハウスがずらりと並んでいるわけです。
名だたるブランドの中から、お客様にいかに目をとめていただけるか、喜んでいただけるプランを提供できるかが試されます。

  •  話を聞いただけでも、きびしい状況が想像できます…。

初めは設計担当としてお客様の前に出ていくことはありませんでしたが、途中からは僕も営業マンと一緒にお客様のご要望を直に聞くようにしました。

そこでね、息子のお嫁さんが一緒に住める二世帯住宅をつくりたいというお客様に出会ったんです。
希望は和風住宅なんだけれども、若い女性でも自慢できるような洒落た家にしたいというご要望でした。
ちょうど実家で兄嫁がこの家に住みたいと思う家を作ろうという話が出ていたので、僕自身とても身近に感じられ、イメージがどんどんふくらんでいきました。

  • お客様のご要望と田中さんのイメージがぴたっと重なったんですね。

そうなんです。で、これは多くのお客様に支持される(=売れる)住宅になるという実感がありました。
だから、メーカーにこのプランで展示場のモデルハウスの建て替えをしましょうと提案してみたんです。

  • メーカーの反応はどうだったのでしょう?

社員でもない私の意見ですから、はじめはみんな「え?」という感じですよ。

それでも、実際に見てもらって「これがいい!」と実感してもらえるモデルハウスでないと、お客様に納得していただくこともできない。
僕も必死でしたから、2カ月に1回行われていた全体会議に出席して、必死に訴えました。
いつも一緒にいる営業マンたちにも、「これは絶対に売れる住宅になるから。そしたら給料も上がるじゃろ?」と、何度も何度も伝えて口説きまくり(笑)、事務の女性、営業所長、本社の社長や役員さんにも、ことあるごとに本気でぶつかって口説き落としました。

  • じわじわと味方を増やしていったんですね。

お客様に自信を持って売り込めるモデルハウス(展示場)をつくって、営業マンも、お客様も、みんなの喜ぶ顔が見たい。
ただただ、その想いでしたね。

すると、その半年後(1988年)に新しい展示場ができることになって、実現に向けて動き出したんです。

  • わぁ、やりましたね!

そこからまた、実際にお客様の声を拾っていこうということで、県南地区の営業マンにアンケートを出してデータを集めたんです。
二世帯同居で若い奥さんが住んでみたいと思うような和風の住宅とは? 予算、デザイン、機能性など…。

  • そのデータを基に田中さんが設計されたんですね。

そうです。
家のテーマは「新和風」。
和室の続き間など昔の日本家屋の良さを生かしつつ、現代の生活様式に添った、使い勝手の良いもの。
玄関ホールから見える坪庭や、広いLDKと続きの茶の間を天井まである引き戸でオープンにしたり各室に仕切れたりできる新しいスタイルの田の字プランと斬新なデザイン。

僕のイメージとしては、当時サラリーマンの憧れだったトヨタのマークⅡグランデ。
部長になったら買いたい車です。
高級感があり、使い勝手もいい。そう、自慢できる家。

  • 分かりやすい! それを手にしたら毎日が楽しくなりそうな予感がします。

でしょ(笑)。
その企画から住宅の設計、工事マニュアルなどの納まり図や資料作りも携わりました。

  • 工事マニュアルの資料作りまで、ですか?

そう、僕が言いだしっぺですからね(笑)、とにかく全てのことに携わりました。
するとね、今度は施工側(大工さん)の声が入ってきたんですよ。
監督さんから「造りやすい家にしてくださいね」とか、「監督さんが転勤になっても、新しい設計社員や監督さんが入ってきても、同じものができるような仕様にしてほしい」とか、「クレームがなくてメンテナンスがしやすい家にしてください」とかね。

  • 切実な現場の声ですね。

それから、営業ツール、展示場のコーディネートやデコレーション、パンフレット作成にも関わりましたよ。

  • すごい。そこまでも…。

僕は営業マンと一緒にお客様とのやりとりも経験していましたから。
いろんなお客様のご要望があるので、営業ツールとして10プランは準備しました。
例えばドアにしても、規格は同じでもデザインを変えて、和風ヴァージョンなどいろんなプランを考えました。
出書院の欄間(らんま)についても、立派な彫刻欄間(らんま)もあるんですけど、そこの下がり壁をアーチ形状にして欄間(らんま)をなくす事によりスッキリとした上品な出書院にできました。
すると、コストを安くおさえることができるんですよね。

  • なるほど。デザインでコストを下げるという工夫ですね。

はい、当然です。何気なく、さりげなく、できることは全て…(笑)。

お客様のターゲットとしては、ちょうど営業マンと同じくらいの年齢なんですよ。
すると、自分たちが住みたい家を薦めるわけですから、みんな身を乗り出して、えらい自信をもって売り込んでくれまして(笑)、半年後には売り上げが倍になりました。
お客様も、営業マンも、施工会社(工務店)も、みんなが笑顔。

  • Win-Win-Win(ウイン・ウイン・ウイン)!
    いろんな人の声を聞いているから、みんなが満足できるものができたんですね。

まずは機能(使いやすさ)があって、それをいかにバランスよく、かっこよく作るか。
そして、住み始めてからその後、アフター(メンテナンス)までも考えていく。
これが僕のポリシーですね。
できるだけトータルバランスの優れた家を目指して。
設計段階でバランスが良くなるように導いていくのも我々の責任かなあと思います。

  • なるほど。それがお客様の満足度につながるのですね。
    田中さんの家づくりの原点ともいえるお話、とても興味深かったです。

 つづく ・・・ 4回連載 次回「3.無になる時間」は5月18日UP予定です。

2015年3月 取材
文:松田祥子

 

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