このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第3回目に登場してくださるのは、住まいの設計工房アデックス・代表の田中英治さんです。

そこはかとなく漂ってくる品の良さ、清潔感―。
粋な空間づくりを手掛ける田中さんは、いつもユーモラスな会話で私たちを楽しませてくださいます。
暖かな春の日差しに包まれた日、田中さんのもとを訪ね、お話を伺いました。

4.はっとさせる色気と遊び心をさりげなく ~気になる建築家の横顔 第3回~

2015.05.25

 

 

  • 田中さんが家づくりで一番心掛けていることはなんでしょうか?

「お客(施主)様を喜ばせてなんぼ!」という考え方ですね。

最高に満足していただくためにも、まずはお客様の声を聴くことを大切にしています。
ホームページにも書いているんですけど、コミュニケーションの数ほどいい建物ができるんです。
だから、「もう何でもかんでも言ってください。僕を親戚のおじさんだと思って(笑)」と伝えています。

  • あははは(笑)。親しみやすい田中さんらしいアプローチですね。でも、中には実現不可能な案件もあるのでは?

もちろん。ただ、どんな無理難題でもあきらめずに、まずはチャレンジしますよ。
アプローチの仕方はいろいろありますからね。
たとえ実現が難しい場合でも、良いところと悪いところをそれぞれ提示し、例えば「7対3の割合でおすすめできません」とお伝えするんです。
それをどうとるかはお客様次第。

  • なるほど、最終的にはお客様がどうしたいかどうか…。

はい。どうしてもこだわりたい部分があって、7割はおすすめできないけど、残りの3割に賭けてみる。
それが抜群に良かった場合もありますし、そうでない場合もあります。
ただ、それも一つの味になるんですよね。

  • 味ですか?

そう、良いところと悪いところは表裏一体ですから。

例えば僕のほっぺたのシワは小さいころは可愛いえくぼだったんですよ。
今はグランドキャニオンのような深いシワですけど(笑)。
でも、それは僕の味の一つですよね。
うまくいかなかったとしても、悩んで、悩んで決めたこだわり部分については、家の中の愛しい味わいの一つになるんじゃないでしょうか。

そういったコミュニケーションを丁寧に行っていきたいので、完成まで1年ぐらいいただけたらうれしいですね、とお伝えしているんです。
じっくり構想を練って4年半かけたお客様もいらっしゃいました。
計画から工事の完成まで50回くらいは打ち合わせをしたかなぁ。

  • おぉ、すごいです…。25年間に手掛けてきた住宅で、特に印象に残るものはありますか?

お客様によっていろんなテイストで調理させていただいているので(笑)、それぞれ面白いんですけれども、「ペレットストーブの家」は印象深いですね。
土地探しからスタートし、3カ所候補が見つかりました。
その都度プランを立て、最終的には全部で10個のプラン立てたんです。

  • なんと10プランも! その「ペレットストーブ」ってどんなものなんでしょう?

ペレットとは木くずを直径4、5㎜に固めたもので着火しやすいし、火力もそこそこあり煙が出ないんです。
下から温風が出てくるので、木質系ファンヒーターだと思ってください。
ペレットからの輻射熱は体を芯まで暖め、血行をよくするので健康にもよいといわれています。

  • そのペレットストーブはお客様からのご要望で?

はい。
ぜひ使いたいというお話がありましてね、いろいろ調べてイタリア製のものを設置しました。

  • すっきりとしたデザインの住宅ですね。

お客様からのご要望は「土間のある家」「旅館のような家」でした。
和風住宅にイタリア製のものが合うのか不安もありましたが、それよりも居心地がよくて、快適な空間を目指したんです。
極力エアコンは使いたくないということで、冬は蓄熱暖房機を使い、夏は珪藻土(けいそうど)の壁で快適にしました。
床は無垢のタモのフローリングで足ざわりが気持ちいいです。
また断熱材は、現場発泡のソフトウレタンを吹き付けているので断熱効果は大変いいですよ。

  • 珪藻土…?

そう、20年前ぐらいから注目されている壁材で、調湿性能や脱臭性能が非常に優れています。
湿度をじんわり吸うんですよ。
同じ温度でも湿度が違うと2、3℃体感温度が違ってきますから。
暑い日にはひんやりとした感じで過ごせます。
完成した翌年に聞いたら、1年で3回ほどエアコンを使ったかな、と言われていましたね。

  • 効果があるんですね。

はい。特にペットを飼っていらっしゃる家庭にはおすすめですよ。匂いも吸ってくれるので。

  • この家の一番のこだわりはなんでしょうか?

まず玄関のお庭ですね。
お客様が工事中に購入された鉢をもとに設計しました。
壁にはご主人が気に入ってご購入された漆喰のブロックを使っています。

  • お客様にとってはお任せでなく、一緒に家づくりをしているという感覚ですね。

そう、お客様と一緒に楽しみながら作っていく世界です。
遊び心をちょこちょこ入れながらね。
この壁は光の演出が楽しめます。朝日が入ると光るんですよ。

  • うわー、かっこいいです。

木製の引き戸を開けると、玄関から客間があって、その間に板間の空間を作りました。
ここに座ってお茶を飲みながらお喋りを楽しんだり、ちょっと座ってくつろいだり。
昔の縁側のような感覚かな。その方が土間っぽくなるでしょ。

  • 確かに! なつかしい縁側のような雰囲気ですね。

ここは旅館っぽいイメージを大事にして、扉をつけるところをあえて藍色ののれんにしてみました。
客間の天井を見てください。家全体が和モダンなので、遊び心を取り入れて天井に赤い和紙をはったんです。
和空間の中に赤が入るとすごく華やかになるんですよ。
漆の中に赤色が使われていたり、食べ物でも紅葉を飾ると途端においしそうに見えたりすることがありますよね。

  • 上を見上げた途端、はっとした驚きがありますね。

はい。あでやかに、やわらかく、はっとさせる色気と遊び心をさりげなく家に取り入れています。

  • 色気?

魅力というのかな。英語でいうとcharm ― チャーム。
気をひく、魅力を感じさせる、吸い寄せられるような場所のことですね。
つまりチャーミングポイントという事です。

昔の家には和室に床の間がありました。
そこには書を飾ったり、生け花をしたりして、季節感を取り入れながら演出できる場所だったんですね。
現在ではあまり使われなくなったので、それをリビングなり、玄関なり、人に見てもらいたいところにさりげなく演出できたらと考えています。
機能性を備えつつ、かつそういった季節感を感じるもの、光や風、外の音などを取り入れ、魅せる「色気」を感じてもらえる物件にしていけたらと考えているんです。

  • 「色気」という表現がユニークです。田中さんらしい(笑)。
    最後に、ずばり田中さんにとって建築とはなんでしょう?

幸せを作るものであり、幸せを感じるものですね。

  • 幸せ=みんなの笑顔! 納得です。
    田中さんのお話を聞いていると、お客様だけでなく、家に携わる人すべての笑顔が自然と浮かんできました。
    今日は長い間おつきあいいただき、ありがとうございました。

2015年3月 取材
文:松田祥子

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