このシリーズでは、建築家と設計を依頼した施主、おふたりのお話から「建築家に家づくりを頼むこと」について考えていきます。

この建築家はどういう人なのか、家づくりにあたって彼を選んだ理由や、家づくりの中心に据えられていたもの、建築家と施主おふたりの信頼関係はどのように育まれたのか、そういった事柄に迫りながら、家づくりに大切なものを少しずつ探していこうと思います。


第1回目に登場してくださるのは、本德建築設計事務所 本德彰士さんと「桜ヶ丘の住宅」施主のEさん。2014年5月に竣工を迎えた家です。建築家と設計を依頼した家主は以前からの友人という特別なケースです。2年の時を経た家が、どのように表情を変えているかも見せていただこうと思います。

「一緒につくる家」~本德建築設計事務所・本德彰士さん(第1話)

2016.8.15

 

 

「無理がなく自然に在る感じ。でも面白みがあるんです」

 



本德建築設計事務所の本德彰士さん(写真右)が設計した「桜が丘の住宅」に伺ったのは、雨の降る6月の午前中でした。

鳥の声だけが響くような静かな住宅街の一角。
エントランスを埋め尽くすような草花と木が濡れて、緑色が艶やかに輝いています。

玄関の扉を開けてくださったのは施主のEさんではなく、本德さん。
実は本德さんと施主のEさんは約15年前からの友人です。一緒にサッカーをやっていた仲間で、本德さんはEさんの4歳年下。自宅が近かったこともあり、チームのなかではもっとも長い時間を一緒に過ごしていたそうです。

 

 

 

 

 

  • Eさんが、そもそも建築家に家づくりを頼もうと思われたのは、どういうきっかけがあったのでしょうか。

 

Eさん:最初は住宅メーカーを回っていたんですけど、なかなかピンと来なかくて、「そういえば本ちゃん(本德さん)、建築士をやってるな」と思って、コンタクトをとったんです。その時から「本ちゃんに頼みたい」という思いはあったんです。

 

  • その理由はどういうところだったんでしょう。

 

Eさん:本ちゃんは、表には出さないですけど、秘めているものを常に持っているということを、ずっと感じていて。真面目で粘り強いですし。当時勤めていた事務所でのオープンハウスにも遊びに行かせてもらったりして。

その時の建物の印象も良く、無理をしていない、自然な感じでしょうか。周囲に融け込んでいました。奇抜でなくて、自然に在る感じ、なんですけど面白いところがいっぱいあって。

 

  • 本德さんが設計される建物も、周囲に融け込んでいて、自然に在る感じだと思うんですが、その背景に設計者のどういった発想や技術があるんでしょうか。

 

本德さん:僕らはゼロからのスタートで設計図を描いていくので、たとえば、この敷地であれば、どういう建物が出来るか(可能か)といったことや、Eさんが「いいな、こうしたいな」というアイデアは、こうすれば出来るな、とかいろいろ考えます。
そこには施主さんの夢と、僕ら建築家の夢もあるんですけど、それを盛り込みすぎると、自然な形からは逸れていくと思っているんです。

だからそのあたりを抑えつつ、敷地など周囲の環境、施主さんが望まれていることを、フラットな目線で分別しながら考えて設計していくことが、「自然な」形につながるのかなと思います。

 

 

 

 

 

  • 無垢材を使うことはEさんのご希望ですか。

 

Eさん:そうです。

 

本德さん:この床はパイン材なんです。節は多いんですが柔らかいので、ふれたときに温かいという話をしました。
堅い木のほうが床材に適しているかもしれませんが、感触面を優先しても面白いかなと思ったんです。
家具材は楢(ナラ)にしようとか、床材はざっくりしていて明るいのが良いんじゃないか、とか、ある程度統一性を持たせて、多少メリハリをつけました。

 

  • ほかに希望されたことは。

 

Eさん:開口が大きくて、光がたくさん入るようにということをお願いしました。

 

本德さん:無垢材についてと、明るい家ということは最初から言われていました。それから家事動線についても、出来たらスムーズにしたいと。
裏に中庭のように造った屋根付きの物干し場があるんですが、あるといいなと言われていました。

ほかに吹き抜けとか、部屋についてもある程度、具体的に言われましたが、「これらは自分がいいなと思ったことだから、判断は任せる」ということでした。そのうえで、「こういうのはどうか」と言ってもらえたら、ということでした。

 

Eさん:プランニングしてもらってからは、ほとんど変わってないよね。デッキを大きくしてもらったくらいかな。

 

  • その段階までに同じイメージを描けていたということでしょうか。ストレスもなく?

 

Eさん: それはもう、なかったです。当時はまだ結婚していなくて、奥さんは仕事のために高知県にいたんです。だからほとんど奥さんが関与していないですけど。

 

本德さん:そういう理由もあって、ほとんど僕はEさんと話して、要所要所で奥さんとも打ち合わせをしたかな。

 

 

 

 

Eさん:嫁は、「リビング階段は絶対にいい!」と言ってたかな。

 

本德さん:奥さんは大筋で合っていれば後は任せるよ、という広い心を持った方なんです。
学校の先生をされているので、まるで生徒を見守るかのように見てくださっていました。
奥さんはEさんより年下なんですが、うまくコントロールしてくださっていました。

 

Eさん:僕、さっき「嫁は関与していない」と言いましたけど、これは自分で思い込んでいただけですね。今、気づいた(笑)

 

  • 今日、奥さんはお仕事なんですか。

 

Eさん:今日は部活で学校に出ています。

 

本德さん:バーベキューとかピザパーティをするとき、色々とやってくださるんですが、優しい奥さんです。

 

 

 

  • ところで、サッカーでは、本德さんがフォワードで、Eさんがボランチ。ちがいますか?。

 

Eさん:(笑)僕、キーパーです。本ちゃんが、ボランチ。

 

  • うーむ。ポジション当てには自信があったんですが、まったく外れました。本德さんがグラウンドの中央に立つボランチということは、建築家としての空間認知能力がサッカーにも生かされるのでしょうか。

 

本德さん:それはきっと、『キャプテン翼』とかの話です(笑)。僕らがやっていたのは草サッカーです。

 

 


 

 

「この土地は面白いだろうなっていう話をしていました」

 

 

 

Eさんご夫妻がご結婚されたのは2013年11月です。
家づくりについては以前から考えており、住宅展示場を訪れたり、本を見たりして夢を膨らませていましたが、ほどなくして建築地は赤磐市桜が丘に、設計は本德さんに頼もうと決意。

翌2013年の年が明けてから本德さんとEさんのふたりによる候補地めぐりが始まりました。そして「この土地にしよう」と決めたのが、5月。

6月に本德さんが土岐建築デザイン事務所を退所し、設計図に取りかかりました。9月に設計図一式が完成し、ご結婚とほぼ時を同じくして、家の工事が始まりました。

 

 

 

 

本德さん:この土地は一緒に探したんです。Eさんが、赤磐市桜が丘(このエリア)で建てよう、というところは決めておられたんです。

 

Eさん:仲介業者や知り合いの工務店の人からも紹介していただきました。

 

  • ここが一番条件に合っていたんですか。

 

Eさん:広かったことが一番の理由かな。

 

本德さん:でも当時はすごかったな。

 

  • 木や草ですか?

 

Eさん:なんというか…、荒れてました。今のデッキの場所に、どんぐりの大きな木が2本あって、どうなるかと。嫁さんには反対されて。

 

本德さん:子どもは好きだと思うんですが、でも大人になると、管理のたいへんさを考えてしまいますよね。
夏になればたいへんだろうなということは予測できましたが、ここは面白いだろうな、という話をふたりでしていました。

 

  • 結果として、面白さが上回ったんですね?

 

Eさん:そうですね。

 

本德さん:もともと住宅地で、家を建てられる場所ではあったんです。

 

Eさん:でも長い間、放っておかれたみたいで。

 

本德さん:東が坂になっていますが、池も見えて、ちょっとした別荘地のような環境ですよね。

 

Eさん:池の風景を目当てに買われる方もいらっしゃるみたいです。

 

本德さん:この家では2階に上がれば見えるんですが、池はまあいいかと。でも土地としては面白いんじゃないかなという後押しをして、あとは「奥さんと相談してみて」と言いました。

 

Eさん:で、大反対されて。

 

本德さん:(笑)

 

Eさん:蚊が出ることは想定してたんで、「わたしは外に出ないから、外の管理はやってね」と言われました。

 

 

 

 

  • 外のお花や木がすごくきれいなんですが、あれは…

 

Eさん:全部、僕なんです。

 

  • なぜか申し訳なさそうな言い方をされていますが…(笑)

 

本德さん:ここまでやると思わなかったです。最初に造園業者の方に整地と、何本かの木を植えてもらったんです。
でも今目に見えるほとんどのものは、Eさんがやったんです。

 

Eさん:花には、まったく興味がなかったんですけど、ここに来てから、自分なりに勉強しました。

 

  • 手入れは、毎日のことですよね。

 

Eさん:この時期になると、水遣りは毎日やらないといけないですね。最近は朝と夕方に遣っています。

 

  • おふたりで土地を見て、ここに決まって。どこまでがEさんの土地ですか?

 

Eさん:デッキまでがうちで、向こうの林のように見える場所は市の土地です。

 

  • ではあの風景は、たとえば家が建って、風景が変わったりすることはないんですか。

 

Eさん:そうです。あの木立ち、今は茂っていますが、冬になったら葉が落ちて、それもまた良いです。

 

  • 冬の風景も見たいですね。

 

 

 

 

  • 設計する上で、庭はポイントになっていましたか。

 

本德さん:家を土地のどの場所に建てるか、ということは気にしました。
この住宅は、敷地が170坪くらいあるんです。間口は道路に13メートルくらい面しているだけなんですが、奥に行くと、40メートルくらいあるんです。

土地が縦長になっているので、家は道路側に寄ってもいいですし、庭を手前にして奥に建ててもいいですし、土地が広いぶん悩みました。
また、建物を縦長にすることも可能性としては考えられるので、建物のボリュームや位置についてはすごく考えましたね。

選択肢があるということが良さでもあり、悩みどころでもありましたね。

 

  • プランニング後の変更がなかったとうかがいました。

 

本德さん:微調整はありました。たとえば駐車場のスペースを6メートル取っていますが、段差があるので、スロープと階段を作って、その距離にゆとりを持たせていこう、とか。

ここの場所に立つと周囲の視線がまったくないんですよ。カーテン要らずというか。Eさんと、「カーテンの要らない生活が送れるな」、ということを話していた記憶があります。そもそも密集地というか、団地のなかの一角より、こういう場所がいいなと言われていましたね。

 

Eさん:そうだったね。

 

  • 建築家と一緒に土地を探した、というのは特殊なケースかと思いますが、贅沢ですね。

 

Eさん:本当にそうですね。

 

  • ところで、涼しいですね。エアコンはかけていませんよね。

 

Eさん:エアコンは年に1回か2回だけなんです。冬はファンヒーターを使いますが。

 

  • きっと日差しも暖かいでしょうね。

 

 

〈つづく〉

 

 

 


本德彰士(ほんとく あきひと)プロフィール:本德建築設計事務所 建築家。岡山工業高校建築科を卒業後、岡山市内の建設会社に3年半勤務。その後、土岐建築デザイン事務所に入所。約9年間の勤務の最後に、Eさんの自邸設計の依頼を受け、それを機に退所。住宅や店舗の設計を手がける。休暇には旅行をかねて国内外の建築物や美術館、神社仏閣などを見て回る。

 

2016年6月 取材
文:尾原千明

「一緒につくる家」 第2話 →

 

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