このシリーズでは、建築家と設計を依頼した施主、おふたりのお話から「建築家に家づくりを頼むこと」について考えていきます。

この建築家はどういう人なのか、家づくりにあたって彼を選んだ理由や、家づくりの中心に据えられていたもの、建築家と施主おふたりの信頼関係はどのように育まれたのか、そういった事柄に迫りながら、家づくりに大切なものを少しずつ探していこうと思います。


テンキュウカズノリ設計室の天久和則さんが設計した「草屋根の家」を訪ねました。外から眺めると、2辺が公園に面した敷地に建つ、ブルーグレーの外壁がおしゃれな、現代風のお宅です。しかしこちらは何と言っても、「草屋根」!のお宅なんです。

「一緒につくる家」~TENK/テンキュウカズノリ設計室・天久和則さん(第1話)

2017.07.24

 

「外から見られたら? と聞くと、もう手を振ります、って(笑)」

 



扉に近づいてみると、家の中から楽しそうな気配が漂ってきます。子どもたちが遊んでいるような、何か企んでいるような声が聞こえてきます。覗いてみると、Cさん夫妻と天久和則さん、スタッフの時尾莉沙さんの4人がパーティハットをかぶって待っていてくださいました。わー、びっくりー。

 

 

  • はじめまして。今日はよろしくお願いします。面白い造りになっていますね。まずは家の中を拝見しても良いですか。

 

旦那さん:ちょっと驚かれるかもしれませんよ(笑)。一応、1LDKなんです。こっち(吹き抜けの上階)が2階で、こっち(その向かいにある上階が)はロフトです。

 

ビルトインガレージを通って建物の扉(玄関)を空けると、長細い空間が奥へと伸びています。最初に目に入るのは正面の窓越しの公園の緑! この空間はダイニングキッチンになっています。壁に並行して作り付けのテーブルが窓辺まで長く伸びています。窓の下にはテーブルと同じ素材で4段のステップが設けられ、テーブルと一体化しています。公園を背景にしたステージのようにも見えます。

 

 

 

 

玄関まわりはロビーのような空間になっていて、壁際にピアノが置いてあります。上のフロアにつながる階段はその手前にあり、上がっていくと、右手に高い天井の大きな空間。そしてオープンな階段を挟んだ向かいで、少し高い位置にあるのがロフトです。ロフトの窓から、1階の屋根の上の芝生に出ることが出来ます。その芝生は急斜面の屋根へと続き、そこを上ると2階の屋根に出ます。すべての屋根が芝で覆われています。

 

 

 

  • ロフトの窓を開けると1階の屋根の上に敷き詰めた、草の庭に出る感じようになっているんですね。この屋根はどうなっているんですか。

 

旦那さん:屋根にガルバリウム板を載せていて、その上に屋上向けの特殊な土を載せて、さらにその上に芝という構造です。

 

天久さん:土はアクアソイルという軽い土を使っています。

 

旦那さん:家が出来て今、半年くらいなんですが、芝が馴染んできたところです。飛んできた種から草も生えてきてますね。ここ、草ボウボウにしたいんですよね。

 

  • 植物が育つと家の中は涼しくなったり、冬は暖かかったりすることはあるんでしょうか。

 

天久さん:多少はあると思います。

 

奥さん:土面とガルバの間に空気が通る層があるんですよね。

 

  • そういう効果も期待できるんですね。ここにはよく上がってるんですか?

 

旦那さん:結構、上がってます。ここは高松市内では夜も明るい方なんですけど、天気の良い夜、上まで行くと星しか見えないんです。

 

  • 寝ることも出来そうですね。

 

奥さん:出来ます! 強風の日はやりませんが(笑)。

 

 


・・・

 

  • ご夫妻と天久さんの出会いを教えてください。

 

旦那さん:2014年の11月末かな。建築家の相談会みたいなものがあって。何人かの建築家が来られるというので、その相談会の前に来られる方のHPを見ていたんです。それで天久さんが、いいんじゃないかなと思ってたんです。で、目の前を通ったら、ナンパされて(笑)。

 

奥さん:彼は最初から天久さんがいいんじゃないか、って言ってました。で、その日のうちに土地を見に来てくれたんです。その行動力はうれしかったです。

 

旦那さん:じゃあ行きますか、ということになって、「相談会は放っておいていいんですか」と聞いたんですけど、持ち場を離れて。

 

天久さん:変形の20坪って聞いたら、それは見に行きたくなりますよ。難題があれば。とくに。

 

奥さん:ドMですよね(笑)

 

  • 変形じゃなかったら?

 

天久さん:分譲の何坪と言われていたら、だいたい想像できたから…行かなかったかもしれないですね(笑)。

 

 

 

  • 建築家にお願いするということは、最初から決めていたんですか。

 

奥さん:普通の家には住みたくなくて。壁紙も蛍光灯もいやだなってなると…。

 

旦那さん:ハウスメーカーは考えてもなかったです。一度も行ってないですね。

 

奥さん:ただ、1000万円で建てる家はどんなもんだろう、っていうので見に行ったりしたことはありました。

 

 

香川県出身のご主人と群馬県出身の奥さんは、東京の専門学校で同級生だったそうです。ご主人はゲームの企画、奥さんはグラフィックを専攻していました。おふたりが結婚されたのは7年前。ご主人は実家の家業を手伝うために、香川県に帰って来ました。

 

 

 

  • 家づくりはどんなところからスタートしたんですか。

 

天久さん:僕が印象に残っているのは、「つるつる、ピカピカがだめ」っていうのと…

 

奥さん:そう(笑)、新品感が苦手なんです。

 

天久さん:それから、「以前からそこにあったような感じ」と言われていたことが印象的、というか悩んだというか(笑)。あとは公園が近くて、「大開口で」と言われていました。外から見られたら?っていう問いにも、「もう手を振ります」って答えられてて。

 

  • もしかすると、外を通った人がギョッとするくらい中が見えるんですか?

 

旦那さん:丸見えです。とくに夜なんかで電気をつけていると。

 

奥さん:もう今は慣れました。最初はロールカーテンを付けようと言ってたんですけど、いらないかなって。でも、プロジェクターを付けたいから、そのためのロールカーテンはあってもいい。ゲームとかやるのにね。

 

 


・・・

 

奥さん:初めて天久さんに会って、「こういうのが私の好みなんです」って見てもらったのがこれです。これくらいハウスメーカーとは違うものが欲しい、ということを伝えたくて。

 

 

  • ここに「防音&遊び心」とありますが、防音もされているんですか。

 

奥さん:私が学生の頃から12年間、ピアノをやっていたんです。このピアノは、母がへそくりで買ってくれたもので、大事にしたいなと思って。

 

  • そうなんですね。ところで、このおふたりの明るさや天真爛漫な勢いみたいなものは、天久さんにどう映りましたか。

 

天久さん:おもしろいですよね。何としてでも家づくりのお手伝いがしたいなと…。

 

奥さん:初対面の人相手だと空回りするんですけど、2回目からは結構、大丈夫なんですよ(笑)。

 

 

  • 図面を起こすまでの期間はどのくらいあったんですか。

 

天久さん:1年くらいですね。

 

奥さん:私は最初から1年間くらいは温めたいなと思ってたんです。無理を言って、「3パターンいただけませんか?」とお願いしたんです。でも結局、その3パターンから選んだものでもないんです、この家。

 

  • えっ。

 

天久さん:最初は予算を気にしたプランで、最後の案を出す前に、一度、予算を気にせずにプランを作ってみようかという話になって、吹っ切れたというか。

 

旦那さん:そうですね。全部が初めてのことだったので、やっぱりたいへんでしたね。で、その3つの案をいただいた時は、この公園で打ち合わせをしたんです。あれ、春でしたね。藤の花が咲いていて。

 

天久さん:通常はほかの場所で打ち合わせをするんですが、ここに来て、現地とプランを見る…という

 

奥さん:現地見ながら考えよ? って。

 

天久さん:それでもその3案からは選ばれなかった…

 

奥さん:そう、それで、いつ草屋根の話が出たんでしたっけ。形はここで出て、「実はこういうのも(草屋根)あるんですよ」って模型を見せてもらって、それで草屋根になったんですよね。

 

天久さん:そうですね。せっかく寝転ぶなら、と。

 

 

 

〈つづく〉

 

 

 

天久和則(てんきゅう かずのり)プロフィール:テンキュウカズノリ設計室代表。建築家。広島県生まれ。福山大学工学部建築学科卒業後、設計事務所を経てフリーで設計活動を行なう。2003年、テンキュウカズノリ設計室を設立。住宅をメインに様々な用途の建築を手がける。05年、「第10回 呉市美しい街づくり賞」受賞。

 

2017年5月 取材
文:尾原千明

「一緒につくる家」 第2話 →

 

TENK/テンキュウカズノリ設計室

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