「一緒につくる家」~TENK/テンキュウカズノリ設計室・天久和則さん(第2話)

2017.07.31

 

「最初から最後まで、新しいことだらけの家づくりでした」

 



奥さんは東京で3Dのクリエイターをしていたことがあり、建築の図面を立ち上げる仕事もしていたそうです。図面が出来上がった段階で、奥さんがこの家の模型を作ったのだそうです。この模型を見ながら、お話の続きを聞かせていただきます

 

 

 

― とくにこだわったのはどこですか。

 

奥さん:うちのこだわりは、たくさんあるんですけど、やっぱり、まずはこのテーブルかな?

 

天久さん:これは人造石研ぎ出し、という仕上げなんですけど、コンクリートを打って、上から骨材を入れたモルタルを塗って、ある程度固まったら磨いていく、というものです。小学校の手洗い場のようなものですね。

 

― ああ!そうですね、わかります。普通のお宅ではめったにお目にかかれないと思いますが、すごく良いですね。

 

奥さん:そもそものアイデアは、天久さんです。天久さんがやりたいって(笑)。左官屋さんが死にものぐるいで磨いてくださって。

 

旦那さん:その時の粉塵がすごくて、周りが真っ白になってました。

 

― この長いテーブルが、窓際の階段へとつながっているんですよね。こうしたのはなぜですか。

 

天久さん:お風呂もそうなんですが、ちょっと洞窟のような感じを出したいって、僕が思っていたこともあって。バスルームの天窓もそれを意識しています。

 

― なるほど

 

 

 

奥さん:あとは黒板ボード。これは私の趣味です。2世が生まれたら、一緒に勉強し直したいなと思って。

 

― キッチンで勉強するのはいいですね。

 

旦那さん:子ども部屋が作れないから、寝る以外は全部、ここで。

 

天久さん:「部屋として区切られたものは要らない。ベッドとかも空いた所に置きます」という発想なんですよね。

 

― いろんなものが、それぞれのスペースにうまくハマってる感はとてもあります。

 

奥さん:仕切りがなければ、いろんな所にいろんなものが置けるじゃないですか。模様替えをしたらまた新しい気持ちになれるし。そういう意味でも自由度の高い状態。最初に、「入れ物だけ作ってください」とお願いしたんです。

 

天久さん:そうそう。基本、建物にしても左官にしてもそうなんですが、お客さんご自身が手作りされる。パソコンも手作りされる方たちなんです。

 

― え?

 

奥さん:自作パソコン。いわゆるパーツを買って来て自分で組み立てるアレです!昔、職場の先輩で詳しい方がいて教わってました。当時インターネットゲームに夢中だったので、尚更カスタマイズしてて。

 

旦那さん:好きなんです、作るの。

 

奥さん:欲しいものが既製品で中々見つからないので…仕方なく(笑)

 

 

天久さん:一番苦労したのは冷蔵庫じゃない?

 

奥さん:そう! 今、このテーブルの下でぶーん、と言ってるのが冷蔵庫なんです。業務用の冷蔵庫を探して、あまり中古で出ていないものが見つかったんです。でもこのテーブル下が約55センチで、ギリギリで入らなかったから、冷蔵庫の足のところをちょっとカットしてもらって。

 

天久さん:最初は普通の冷蔵庫を置くプランにしていたんです。

 

奥さん:でもそれはあんまりスマートじゃないですもんね。ただ、この冷蔵庫、容量は小さいですよ。135リッター。

 

― この冷蔵庫と置き方は画期的ですね! 大きな箱どーん、の一択から早く進化して欲しいです。

 

天久さん:ほかにも画期的なものがありますよ。このトーヨーキッチンの流し台も。

 

奥さん:これがまな板で、これが水切りです。どんなテーブルの上にも置けちゃうキッチン「PUTTON(プットン)」!そろそろ廃盤になるらしい?ので、個人的にはもっとファンが増えてほしいな!

 

 

 

― こういう情報はどこから?

 

奥さん:10年前のルーツが多いんです。クリエイター時代に関連のお仕事をさせてもらっていて、ショールームに見学に行ったり、企業さんのサイトを拝見した時に見つけて。ああこれヤバい…家建てたら絶対コレ買うっ!!、ってなりました(笑)

 

天久さん:洗面もですね。

 

奥さん:工期の終わり頃に、いろいろ見て回ったんですが、どこも白だし、素材が似通ってるんですよね。それじゃあ面白くないなと思ってたんです。それで大阪のタイル屋さんのサイトで、イタリアの職人が手作りしたcielo(チエロ)というメーカーに一目惚れしまして。ハンドメイドで触った感じや色の魅力もさることながら、「SMILE(スマイル)」という洗面ボウルの名前に惚れました(笑)泥とか自然素材を使って手作りしていて、これいいじゃん、面白いよねって。手触りとか色も独特で。

 

旦那さん:かわいいっていうのが一番先だね。

 

 

― とても面白いおふたりとの家づくり、天久さんにとって新しい体験はありましたか。

 

天久さん:新しいことだらけでした。最初から最後まで、それについていくのが結構、たいへんでした(笑)。

 

奥さん:クリエイターだった頃の、「作り手が楽しめない仕事では良いものは出来ない」っていう経験から…

 

天久さん:楽しませてもらいました。今でも楽しませてもらっていますね。まだまだこれからも。

 

 

 

・・・

 

― 草の屋根は、以前にも手がけたことがあったんですか。

 

天久さん:初めてだったんです。ただ、東京から専門の業者さんが来てくれてるんで、そこは安心して出来ました。

 

― 1階の屋根から2階の屋根へは、意外と傾斜があってびっくりしました。

 

奥さん:ここにのぼりたいって、私がずっと言ってたんです。

 

 

 

天久さん:屋根にのぼる家はずっとやってたんですよ。家を作る時は家と庭の関係を意識した設計を心がけるのですが、敷地の広さが20坪だけなので、だったら屋根の上に庭を、と。

 

奥さん:草屋根の専門業者さんと話をしている時に、上で畑が出来たら面白いと思うんですよねー、って言ったら、それ用のものがあるからまた連絡して、って(笑)。段々畑のように出来るものがあるみたい。

 

― 屋根の上の芝には、水遣りしなくていいんですか?

 

旦那さん:今の時期は、毎日水を遣やってます。スプリンクラーがあって、朝と夕方、日が昇る前と日が落ちてからのの30分間くらい回してます。

 

 

 

― 設計する上で、何が最初にあったのでしょうか。

 

奥さん:最初に話したのは、「ごはんを食べながらクルマが見たい」でした。

 

― クルマがお好きなんですか。

 

奥さん:クルマに限らず持ち物は何でもそうなんですけど、買ったら長く使いたいんです。愛着が湧くので、このクルマが雨に濡れるのは可哀想だなって。

 

― なるほど。

 

 

 

旦那さん:ただ、ある程度、好き勝手やってください、ということは伝えていました。

 

天久さん:細かい所にはこだわりがあったんですけど、大きい所は任せていただきましたね。

 

奥さん:素人がせっかくお願いするのに、何もかも言ってしまうと、私たちの思っていることしか出来ないから。

 

― そうですね。それはもったいないですよね。

 

奥さん:そうですよ。

 

 

天久さん:ここでオープンハウスをした時に、よく言われたのは、「収納はないんですか」ということでした。

 

奥さん:収納ゼロです。普通の家にあって、この家にないものは結構あると思います。

 

― もの自体が少ないですよね。大切にすると言われていたし。

 

旦那さん:もっと減らしたいです。

 

奥さん:引っ越す時に処分したのは洋服を少しと、本、雑誌くらいかな。あと、冷蔵庫。ここにある照明も、上にあるテーブルも長く使っているものです。これ(マグカップ)なんか小学校の時から使ってますもん。

 

旦那さん:気づきましたか? テレビもないんです。

 

天久さん:テレビは見なくても、念のために、とテレビのジャックはつける方が多いんですけど、それも「必要ないものは要らない」って。

 

― 潔いですね。

 

 

 

・・・

 

― 難しかったことは何ですか。

 

奥さん:この突き出ているところで、「真っ白? えー!」みたいなバトルを工務店さんも混じってした記憶があります。「普通の家みたいじゃないすか」って。

 

旦那さん:バトルしましたね(笑)

 

奥さん:それから、工務店を変えたんです。最初に予定していたのは大きな工務店だったから、会社としてやらなきゃいけないことがたくさんあるのかな?って感じて、自由度を覚えなかったんですね。このままだと、やりたいことが出来ないまま家が建っちゃうんじゃないか、みたいなことを思ったりして。

 

― そこで踏みとどまれたのはすごいですね。描いているものがしっかりされていたんでしょうね。

 

奥さん:わがままだったんでしょうね。でも私たちからしてみればいろんな意味で大きな買い物ですので、やっぱり中途半端なものは建てられない。後悔することのほうが怖いですよね。

 

 

 

― これから、お家のことでやりたいことはありますか。

 

奥さん:全部やったかな。あ、あとはプロジェクター。一緒に、大画面でマリオカートをしたいから。

 

住みたい家について、くっきりとした思いを持ち、それを素直に表現できるCさんご夫妻の家づくり。建築家と施主ご夫妻のクリエイター3人が集まって、家づくりをたっぷりと楽しんだという印象を受けました。工事期間約10カ月を費やして完成した時、ご夫妻は「ずっと作っててくれたらいいな」と思ったそうです

 

 

 

〈おわり〉

 

 

 

天久和則(てんきゅう かずのり)プロフィール:テンキュウカズノリ設計室代表。建築家。広島県生まれ。福山大学工学部建築学科卒業後、設計事務所を経てフリーで設計活動を行なう。2003年、テンキュウカズノリ設計室を設立。住宅をメインに様々な用途の建築を手がける。05年、「第10回 呉市美しい街づくり賞」受賞。

 

2017年5月 取材
文:尾原千明

「一緒につくる家」 第1話 →

 

TENK/テンキュウカズノリ設計室

岡山県岡山市北区丸の内1-13-10-2F Tel.086-235-5516
http://k-tenk.com/


 

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