このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第8回目に登場してくださるのは、ヤマグチ建築デザインの山口晋作さんです。大学院では建築史専攻という経歴を持ち、地元では仲間とアート活動を行っている山口さんから出てくるお話は、時代や空間を自由に行き交う刺激的なもの。穏やかな口調ながらも、情熱的に熱く語られていた姿が印象的でした。

2.時代も国境も越えて ~気になる建築家の横顔 第8回~

2017.03.13

 

 

  • 設計の段階で大切にしていることはありますか?

まずは経済性と機能性を抑えるようにしています。それが大前提で、住まいであれば家族の生活、店舗であればその目的が達成されるように整えていきます。そのためには、まず施主様にできるだけたくさん話をしてもらうようにしていますね。まずは聞くことがスタートです。

 

 

  • 例えば、家づくりを考えている施主様にはどんな話を?

日ごろどんな生活をしていますか?というところが入り口です。

  • こんな家にしたい、という希望ではなくて?

皆さん、家に関しての希望って意外とないんですよ。幸せに暮らせたらいいなくらいで(笑)。そこから形を導き出すためには、まずどんな生活をしているのか、家での過ごし方を聞くことが一つ。あとちょっと見逃しがちなんですけど、家では寝室が重要なんです。僕は自称建築史家なのでそう考えるんですけど、家は何のためにあるかといったら、一番究極的に考えると寝るためにあるんです。

  • ほぉ!

食事は外でもできるし、おしっこもうんちも、入浴も昔は外でやっていたけど、寝るというのは一番動物的というか、家にとっての存在理由みたいなところがあって。

  • じゃあ、寝室は大事にした方がいいんですね。

寝室は大事です。子どもと一緒に寝ているというご家庭があって、なるほど、それでしたら6畳くらいの部屋全部を布団にしましょう!という提案したことがあります。そのご家庭にとっては、それが幸せの形なんですよね。

  • 分かります。

 

 

将来子どもが独立したら変えればいいんですが、その子どもさんが小さい頃から小学校くらい、10年くらいはそういった時期をあの家で過ごしたなという記憶がそのご家族にとっての幸せの形なので。

  • 普段どんな風に過ごしているか、改めて考えることって少ないかもしれません。自分がしていることが当たり前過ぎて。

それぞれの生活が充実して豊かになることが家の目的なんです。映画好きな人もいれば、バイクが好きで整備する場所が欲しいんですとか、チクチク裁縫をするのが好きな奥さんなど、それぞれの場所を確保しながらね。ご主人や奥さんに自分がしたいこと、過ごしたいことを話してもらって形に落とし込んでいくと、やっぱり充実感というか幸せ感というか手ごたえ感が違うんですよ。

 

 

  • これまで仕事をしてきて、心に残るような出来事は?

そうですね。施主様の親御さんに感謝されたときは感慨深いものがありました。親というのは、子どもがしていることをとても気に掛けていて、特に古民家再生工事の時はそれが如実に現れるんです。両親が住んでいる家を息子さんたちが改修する場合、本当に建物を丸裸にして骨組みだけにしてやるものですから、その姿を見て一番心配になるみたいです。これで本当に大丈夫なのか、と(笑)。

  • 親御さんは第三者でもあるし、準施主のような立場ですものね。骨組みの状態まで戻して行う再生工事ですが、その良さはどのようなところにあるのでしょうか。

測るものさしはいろいろあって難しいんですが、一つ目はその家族にとって80年前にひいおじいちゃんが造った家にひ孫が住む。そのひ孫がさらに100年くらい住み続けるということ。ヨーロッパでは普通なんですが、日本ではあまりないことなんですね。
家族がつないでいって同じ家にずっと住み続けるというのは、やっぱりお金では手に入れることのできない価値あることだと思います。

 

 

二つ目の良さは、古いものと新しいものが共存すること。これが感覚的にとても刺激的なことなんです。
古民家再生と聞くと、「古いものが好きなんですね」「大事にされて立派ですね」というノスタルジックなアプローチからの評価が多いんですけど、むしろ現代の人がどれだけ刺激的で楽しく暮らすか、ということを考えています。だから和風の中にオレンジの照明があってもいいし、現代美術作品がそこにあってもいいですし。

  • 古民家再生と聞くと「日本家屋」「和風」というイメージが強かったです。

そこをベースにして、現代のものをスパイスとして入れ込み、うまく仕上がるみたいな感じでしょうか。

 

 

  • そういえば、山口さんが手掛けた家の中には、日本だけでなく、外国の田舎の風景にしっくり馴染むんじゃないかと思えるものもありますね。

そうそう、僕の家を見てアメリカンな感じがすると言ってくださった方が何人かいらっしゃいました。
例えば、ここのお隣の家も設計させてもらったんですが、お菓子の家みたいな可愛らしいイメージがご希望だったので、木造なんですけど洋風チックなやり方をして、ドイツの民家の造り方を入れ込んでいるですよ。
と同時に、日本が江戸時代から明治時代になったときに、当時の大工さんがどうやったら木造の技術で洋風を表現するのかということを考えられていた時期があったんですね。そういった先輩たちの技術も、この隣の家には使っています。

  • なるほど…。時代も国境も越えている不思議な感覚、納得です(笑)。
    美観地区・林源十郎商店内のカフェ「Cafe Gewa(カフェゲバ)」も山口さんの設計だそうで。存在感のあるお店ですね。あの形はどのようなところから出来たんでしょう?常々、船みたいだと感じていたんですが。

入り口からの景観が石油を運ぶタンカーみたいだとよく言われました。
当初、オーナーの要望は、コーヒーを立って飲む店にしたい、ということだったんです。

 

 

立って飲むといえば、居酒屋やバルなどのバーカウンターをイメージするんですけど、初対面の人がお茶を飲むときに近すぎるのもどうかなと思い、その程よい距離を創れるように、ちょっと話をしたければ「どこから来られたんですか?」と話せるような距離を保ちながら、ぐるっと大回りに卵型みたいな形にしたんです。
ただ、厨房の人は真ん中にあるので、お客さんの視線から逃れられなくて大変かもしれないですけど(笑)。それが「Cafe Gewa(カフェゲバ)」です。

  • へえー。斬新です! 緑色が効いてますね。

実は我が家にも緑色を使っているんですけど、今、緑作戦を進めていて(笑)。

 

 

この家でも実験したので分かったんですけど、材料的に安くて効果的にやるために、セメントを塗ってその上から塗装をするというモルタル塗装を採用しています。その中でもいろんな色があるんですけど、カフェでいい雰囲気をつくるにはこの深い緑色がいいかなと思って、採用しました。

  • 山口さんがつくり出す形や色は、なんだかアート作品のようですね。

 

つづく・・・4回連載 次回「3.アートを通じた場づくり」は3月20日UP予定です。

2016年11月 取材
文:松田祥子

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ヤマグチ建築デザイン

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