このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第8回目に登場してくださるのは、ヤマグチ建築デザインの山口晋作さんです。大学院では建築史専攻という経歴を持ち、地元では仲間とアート活動を行っている山口さんから出てくるお話は、時代や空間を自由に行き交う刺激的なもの。穏やかな口調ながらも、情熱的に熱く語られていた姿が印象的でした。

3.アートを通じた場づくり ~気になる建築家の横顔 第8回~

2017.03.20

 

 

(この記事は2016年11月17日に取材したものです)

<それまでお話を伺っていた山口さんの事務所から移動し、下津井にある「吹上美術館」へ向かいました。この「吹上美術館」は、山口さんが理事を務める「クリエイターズラウンジ」が運営しています>

 

 

  • 間近に海が見えます。旅に来たみたい…。

 

 

  • 建物は昔の雰囲気のまま残っているんですね。この下津井地区は山口さんが生まれ育った地元でもあるんですよね。

瀬戸大橋のすぐ脇にある街です。そうそう、美術館の活動の一つで下津井地区の街歩きもしているんですよ。空き家状態だった僕の実家に東京芸術大学を卒業した彫刻家の女性が住み込んで創作活動をしているんですが、その家をベースに路地を歩くという活動です。参加してくれた人は結構面白がってくれて、人気があるんです。

  • 以前、このあたりの道を歩いたことがあるんですが、道幅がすごく狭かった記憶があります。

小さい頃はこれが普通だと思ってましたが(笑)、息が詰まるくらい狭い道がありますね。車どころか人すらも通れるかな、というくらい。プライベートな空間に思えるんだけど、倉敷市の市道になってるんですよね。

 

 

江戸時代、琴平参詣船の発着港や北前船の寄港地として繁栄していた下津井ですが、どうやら平安時代からの集落だったということが最近分かってきて。どうりで現代人が足を踏み入れると、ちょっと違ったような空気が漂ってるわけだと納得したんですが、そういった街散策なども活動で行っています。

  • 美術館を運営している「クリエイターズラウンジ」とは?

発起人は彫刻家の片山康之君です。あとは陶芸家の尾鷲高明君と僕の三人が運営メンバーです。
僕らが目指しているのは、アートを中心とした活動を通じて、人々が集まる「場」を生み出すこと。

 

 

  • 「吹上美術館」はその活動の一環ということですか? 

そうです。元々、ここは江戸時代の建物で、お客さんをもてなす座敷や茶室があったり、蔵が3つあったり、下津井の一番のお金持ちの家でした。その当主がいろんな美術品を購入していたんですね。平成三年から私設美術館として美術品が展示されていたんですが、バブル景気が終わったころに倒産し閉館したと聞いています。10年くらい空き家だったところに、地域の方からぜひ使ってくださいと声がかかって。

「クリエイターズラウンジ」が一般社団法人になったのを機に、スタジオ兼イベント会場として使えるスペースを探して、いろんな方に声をかけていたときだったんです。

 

 

  • ちょうどタイミングがあったんですね。

はじめはびっくりしましたよ。自分らがイメージしていたスペースより格段に広すぎて(笑)。でも、ちょっと考えたら、こんなチャンスも滅多にないからやってみようかという話になり。

  • 確かに美術館を運営するなんて、なかなかありませんね。

それができる環境があるのなら、チャレンジしてみようということになり、2015年4月、現代アートを発信する私設美術館「吹上美術館」が開館しました。結果、すごく楽しんでます(笑)。

 

 

  • 山口さんはどのような役割を?

僕は運営監督を仰せつかっています。役所への申請や手続き関係、宣伝活動と地元・下津井への地域対応などですね。代表理事の片山君が美術監督でコアな美術企画や展示内容、方向性を決めていく担当です。
今はちょうどその片山君の作品を展示している「片山康之展」を開催中です。

  • 幽玄な雰囲気が漂ってますね。美しい!

2階展示室では、全国的・国際的に活躍している、倉敷・岡山にゆかりのあるアーティストの作品を常設展示しています。

 

 

この吹上美術館は、一般的な美術館とは違って、館長も学芸員も在籍しません。写真OK、SNSへの投稿OK。館内ではコーヒーの持ち込みもOKなんです。
コーヒーを片手に、肩の力を抜いて現代アートを鑑賞したり、そこに居合わせた誰かと言葉を交わしたり、そんな風に楽しんで鑑賞してもらいたいので。

  • かしこまった雰囲気じゃないのがうれしいです。気軽に立ち寄れる感覚で。

お客さんとの距離感が近いので反応がダイレクトにかえってくる、ワークショップをするときも作家さんにとっては手ごたえがある、と感想をもらったことがあります。子どもさんの参加も多いですね。

  • 距離感が近くなるから?

「美術館をコミュニケーションの場にするにはどうしたらいいのか」ということを問いながら、僕らと児島や下津井に住む皆さんが一緒になって展示やイベントを企画・開催しているんですが、地域の方が協力してくださったことが大きいですね。受付をしてくださったり、毎回来館してくださったり。

 

 

そういう方々がみんな美術好きというわけではないと思うんですよ。
こういう雰囲気が好きというか、下津井にあるというのがうれしい。誇りに思う。うれしい、楽しいと言ってきてくださるんです。

  • 吹上美術館を運営してみて感じることは?

2年目が終わろうとしていますが、美術・工芸・建築を本職としている3人が分担し合って準備して、地域の方々の協力をもらいながら、週末に人が来てくれるという状態がつくれている。大きくなくても、お金がなくても、それなりに評価されれば助成金をいただくこともできるし、活動が継続できる、ということが実感できました。

幅広い人にはヒットしないんですけど、ある範囲の方、マニアの方には受け入れてもらえて、広島や香川から来ました、という人もいらっしゃいます。活動の仕方、展示の仕方、世の中を見る視点をひっくるめての楽しさに面白みを感じてきて下さる方が多いかもしれません。

 

 

また、既存の美術館に比べると異端的な存在なので、美術館とは何か、アート活動とは何か、ということを問いかけている存在にもなっているのかな、と。ポテンシャルの高い、とんがった活動を面白がっている感覚もあります。

 

  • 吹上美術館が下津井にとって新しい「場」になりつつある、ということですね。

 

 

(編集より)今回掲載した情報は取材をした2016年11月時点のものです。
吹上美術館はさらなるステップアップを目指し、2017年3月末日をもって下津井沖に浮かぶ離島へ引っ越すことになりました。吹上美術館ホームページには「他に例がない美術館として、今、ここで、私たちだからこそできる『何か』を見つけるための離島アドベンチャーです」とあります。新しい美術館はどんな場になるのか。挑戦し続けるクリエイターズラウンジの活動に注目していきたいと思います。

 

つづく・・・4回連載 最終回「4. 建築の力を信じて」は3月27日UP予定です。

2016年11月 取材
文:松田祥子

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ヤマグチ建築デザイン

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