4.建築のこと。

2014.11.24

 

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― 日頃のお客さまとの家づくりで、心がけているのはどんなことですか。

それはやっぱりヒアリング。
家族でどんな時間を過ごしているかとか、趣味とか、そういうことを聞くのに多くの時間をかけていると思います。設備の仕様とか部屋数とかそんな具体的なことじゃなくて、それよりもっと大きい概念的なこと。
僕たちは確かに「もの」をつくっているけど、本当の意味では「もの」じゃないよね。

 ― それは、暮らしをつくっているということですか?

 ええ。家は「うつわ」なんですね。

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 ― うつわ?

それ自体が主役なのではなくて、あくまで中身を入れるためにあるもの、といいますか。

家を「もの」として考えるなら、次々に斬新なデザインを送り出していくべきなのかもしれないけど、これだと絶対に行き詰まってくるんですよね。もちろん、空間は美しくないといけないというのはあるけれど、だからといって空間の存在が前に出てしまうと、その中に家具やものが入りきらなくなりますから。
ギャラリーだって、シンプルでまっ白な空間に、ものを入れていくでしょう?
だから、うつわ自体はつくり込みすぎないデザインがいい。
うつわの作家さんだって、同じようなことを言ってますよね。

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― ご自宅も、先ほどの打ち合わせルームも、窓から緑が見えて本当にきれいです。
「自然を取り込む住まい」というのはよく聞くフレーズかもしれませんけど、その取り込み方、意識の仕方に、土岐建築デザイン事務所らしさがあるのかなと感じます。

そうですね。庭とか緑は、すごく大事にしています。
どの家も、外構・植栽も設計図に入れ、数年かけて完成するように心掛けています。もちろん、施主さんご自身で外構・植栽をされることもあります。
植栽は外からの見栄えをよくするためじゃなくて、暮らす側から見える緑を常に意識しています。
自然が自分のものになるように。

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―  外と内とのつながり方が、なんともさりげないんですよね。
ふだんから土岐さん自身が自然の中で多くの時間を過ごしているからこそなのかもしれませんね。

そうですね。
趣味としてアウトドアが好きというだけの話ではなく、それこそ子供の頃から山や川で遊んで育ってきましたから。そのとき見ていた景色が、自分の原風景なんだと思います。

僕が育った家は、築100年を超えるような本当に古い家で、 天井からは土が落ちてくるし、雨漏りもして大変でした。 でも、小さな壁の穴から太陽の光がスッと射してきて、それが漆喰の壁に当たって 丸く月のように映るときがある。

その情景は今でも鮮明に、子供の頃の記憶として残っているんです。

―  はい。

太陽の角度の加減で、限られた一瞬の時間だけ光が通るんですよね。
遊んでいて、ふと光に気づいて、「もうこんな時間なんだ…」と、なんとなく感じていた覚えもある。それって今思うと、すごく自然と生活が近いというか―。
不便で、自給自足みたいな暮らしだったけど、そこにしかない楽しさがありました。

建築をやりはじめて、自分のいちばん心地好いと思う家ってなんだろうと考えると、やっぱりその子供の頃の家に行きつくんですよね。

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― 住宅の設計をするとき、どういうところからイメージをふくらませていくのですか?

そうですねえ。
耳に聴こえる音とか、目に映る情景はよくイメージして設計していますね。

― ああ、どおりで!
これまでの建築作品を見ていると、なんだかどの住まいからも心地好い音が聴こえてくるような気がしていたんですよね。

そうですか?
…家で寛ぐとき、そこに流れていてほしいのはテレビの音じゃない。
さわさわと葉に風があたる音や、遠くの波の音が、ふっと生活の中で感じられるのがいい。

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部屋の片隅に落ちる光と影の姿に、ふと心が動く瞬間、自然が自分のものになる感覚があると思うんです。
暮らしの中に、そういう感覚があってほしい。
そんな空間の中で、日々ご飯を食べて、眠って、成長していく喜びを感じてほしいですね。

― 今の土岐さんの考えに至るまでに、なにか影響を受けたものはありますか?

建築家・吉村順三氏が好きで、大きな影響を受けていますね。
若い頃に著書を読んで、僕もこういう建築をやろうと思いました。
ほら、こんな森の中の、「軽井沢の山荘」とか。

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―  わあ、いいですねえ。確かに、緑との寄り添い方というか、佇まいというか。同じ姿勢を感じます。

それから吉村氏が師事したアントニン・レーモンド。
「単純さ」「正直さ」「直截さ」「経済性」「自然さ」という彼の設計の5原則というのがあるんです。「単純さと軽快さは複雑なものより美しい」「節約は浪費より美しい結果を生む」…こういった考え方に、強く影響されました。

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― そう聞いて改めて土岐さんの建築を見ると、より深く納得できますね。
こういう思いがベースにあるからこそ、こういう空間がつくられるのだなあと。
…では最後に、土岐さんにとって建築の魅力とはなんでしょう。

家は残るものだから―。
自分の考え出したものが、大地の上に建って、ずっと後まで残る。
僕がいなくなってもね。

家はうつわって言ったけど、家には生きることのすべてが入っていると思うんですよね。そこでの暮らしの中で、四季折々の風や光に触れて、ふと喜びを感じてもらえれば、こんなに嬉しいことはありません。

― 土岐さんにお話を聞かせていただき、日常の中にある物や音ひとつひとつにも、丁寧に意識を向けて暮らしていきたいなと思いました。
今日は長い時間おつきあいいただき、本当にありがとうございました。

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2014年8月 取材
文:吉田愛紀子

 

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(有)土岐建築デザイン事務所

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