このシリーズでは、建築家さんご自身の日ごろの暮らし方や
プライベートな関心事といったお話を通じて、その人となりを探ります。

シリーズ第8回目に登場してくださるのは、ヤマグチ建築デザインの山口晋作さんです。大学院では建築史専攻という経歴を持ち、地元では仲間とアート活動を行っている山口さんから出てくるお話は、時代や空間を自由に行き交う刺激的なもの。穏やかな口調ながらも、情熱的に熱く語られていた姿が印象的でした。

1.歴史に学びつなぎあわせる ~気になる建築家の横顔 第8回~

2017.03.06

 

 

  • 山口さんが建築家を志したのは、地元児島にあるキリスト教会の建築に興味を持ったことがきっかけだそうですね。それは何歳の頃でしょうか。

17とか18歳の時でしたね。その頃っていろいろ考える時期で、将来の夢を持ったりするじゃないですか。当時は高松の高専で土木を学んでいたんですが、通っていたキリスト教会が新しく教会堂を建てるプロジェクトを進めていて、その時に建築の魅力を感じました。

 

 

  • そのキリスト教会はどんな建物ですか。

北欧の宣教師の住居で江戸時代の古い母屋を改装した二階にあったんですけど、やわらかくて温かい気持ちになれる場所でした。設計したのは建築家ヴォーリズです。

  • 今は名残はないんですか?

ないですね。建物のその部分を壊しての新築だったんです。ただ、教会の人はいまだにあの空間を覚えていて、あそこはよかったねという話が出てきます。

  • みんなが幸せになれる空間だったんですね。

記憶に残っていく空間ってありますよね。それだけエネルギーがあったということでしょうね。

ヴォーリズが手掛けた建築群といえば、例えば大阪の関西学院大学や大丸百貨店心斎橋店、京都でいえば同志社大学や大丸ヴィラ、東京では山の上ホテルや主婦の友社など。神戸女学院なども手掛けています。僕が通っていた教会も戦後に改修した建物だったんですけど、人間愛あふれたハートフルなものが多くて大好きですね。

設計者はもう亡くなっていても、その人が生きている時に改修した建物が人々の記憶に残っている。当時、そういったことに触れて、土木よりも建築の方が面白いかもしれないなと思って…。

 

 

  • 自分の夢が具体的になった感じですか?

土木というと橋やダム、下水道、道路、トンネルなどいろいろあるんですけど、どうしても大きな公共工事が多くてその一部分をやるという感じですが、それよりも小さくても住宅などの建築の方が自分で直接かかわれる。そっちの方が自分にとって幸せ感があるなと思ったんですね。
ただ、大学受験には間に合わなかったので、高専で5年間通って土木の勉強をした後に、大学の3年生に編入して建築史を学びました。

  • 歴史というと日本を中心に?

全般的にヨーロッパや日本の建築の歴史ですね。近代になると国の違いがなくなって来ますが、明治以降の日本の建物が詳しいですね。

 

 

  • 大学院卒業後は、倉敷で古民家再生を手掛けられていた建築家・楢村徹氏に師事し、2009年に独立。現在のご自宅も古民家を再生した建物だそうですね。

奥の母屋は昭和10年に建てられた縫製工場を再生したものです。当時は児島の特産であった学生服をここで縫っていたそうです。義理の父はここで働いていたんですよ。
白い柱は新しいもので、黒い柱や梁は昔のままです。

 

 

  • そのままなんですか。立派! いい色ですね。

壁も当時のままです。屋根もね、わざと変えてなくて、新しい屋根を上に載せているんです。蔵でやるような「置き屋根」といいます。天井を見上げたら古いってわかるでしょ?

  • わかります。

それがすごく大事なんです。古いものを古いまま残す、ということが実は魅力を増しているんですね。古いものがありつつ、新しいものがある。その二つが同時にあること、そのコントラスト、対比がすごく刺激的なんです。
あと、置き屋根にすることで夏場の日射の熱い熱が室内に入らないんですよ。隙間が空いているので。

  • 夏は涼しいんですね。

これも、蔵で使っていた昔の人の知恵なんです。大事なものを夏の暑さから守るため、だったり、万が一火事になったときに屋根は燃えても蔵自体が燃えないためだったり、という知恵ですよね。

  • 素晴らしい。

 

事務所部分は増築ですが、窓の外には跳ね上げ式の蔀戸(しとみど)があります。この蔀戸は平安時代の寝殿造りで使われていた古いタイプの建具で、金閣寺にもあるんですが、跳ね上げた上部の蔀戸が庇(ひさし)のようになって、窓から外に空間ができ、落ち着いた雰囲気を作り出しています。
また、日差しを防ぎつつ視界も風も抜けることができますし、閉じれば雨が防げるし、夜は防犯になります。いくつもの機能を兼ねることができる非常にエコな建具だったんですね。

 

 

  • これは最初から、ここにつけようと?

そうですね。庇の良さは日本建築の特徴なので、ここにはこれだろう、と。
僕は歴史を学んでいるので、過去の先輩に学ぶという面が結構ありますね。芸人のネタ帳みたいなのがあるんです。このネタええな、みたいな。

  • 笑。

自分が書いたり、本の中にあるものもあるんだけど、昔の建物のいいところ、悪い所を抽出しながら、それをうまくパッチワークのように組み合わせて、落ち着く感じに持っていくんです。

 

 

  • その蓄積されたデータがすごいですね。

そういう意味でいうと、この4、50年の間、学問的に、科学的にこれがいいとか、あれがいいとか、いろいろ考えられてきたんですけど、それよりずっと前から無名な人たちの知恵の積み重ねの結果として残っているのが、受け継がれてきた技術なんですね。400、500年くらいずっときて、むちゃくちゃな回数の実地試験を潜り抜けた優秀なものに、これから先も通用するパワーがあると思うんです。

 

 

ただ、歴史的なものが一番いいというわけではなくて、古いとか新しいとかじゃなくて、そういうものを援用するというかね、サポートを受けながら今のために使っていくことが大事だと思います。

 

つづく・・・4回連載 次回「2.時代も国境も越えて」は3月13日UP予定です。

2016年11月 取材
文:松田祥子

2. 時代も国境も越えて →

 

ヤマグチ建築デザイン

岡山県倉敷市児島味野4-10-16 Tel.090-3634-3163
http://www.yamaguchiarc.com/