椅子のこと調べてみよう 14

2021.01.22

今回は前回登場した岡山県天神山文化プラザにある名作椅子について調べてみました。

1962(昭和37)年に「岡山総合文化センター」として開館した天神山文化プラザは、
今年で59年になる建物ですが、古びることなく岡山の芸術文化の拠点として親しまれています。
建物は開放的なピロティや外階段の踊り場の切れ込みなど、モダンなデザインがあちらこちらに。

設計したのはモダニズム建築の第一人者、前川國男氏(1905-1986)。
近代建築の三大巨匠であるル・コルビュジエの下で学び、
戦後日本の建築界をリードした有名な建築家です。

その前川建築に家具を添えてきたのが、水之江忠臣(みずのえ ただおみ)氏(1921-1977)。
今回紹介するのは水之江氏の代表作である「小イス S-0507N」(1954年)。
天神山文化プラザのスタッフの方に教えてもらうまで、その存在を知りませんでした…。

 

 

「図書館イス」

 

 

 

図書館の閲覧室で愛されてきた椅子

 

この椅子は「図書館イス」の愛称で親しまれています。
前川國男建築設計事務所に在籍していた水之江氏が、
1954(昭和29年)、神奈川県立図書館のために閲覧用としてデザインしたもの。

岡山総合文化センターでも図書館の閲覧室で愛用され、
現在は天神山文化プラザ2階の文化情報センターに置かれています。

後ろの番号シールが当時の面影を残していますね。

 

 

控えめだけどしっかり者!

 

見た目はとてもシンプルで、主張はしてこない控えめな印象。

座ってみると、足のももの座りと腰の支え具合がちょうどよく、安定感ある座り心地。
座面には薄いクッションの入ったビニールレザーが張ってあります。
(一般的には成形合板のみの仕様です)

そう、ちょっと見ただけでは分からなかったけど、座ってはじめて分かる信頼感(?)。
見た目よりもずっとしっかり者で、きっちり黙々と仕事をこなしていく仕事師のイメージ。

 

 

支え合って強度を増すほぞ組み

 

構造もいたってシンプルです。
無垢材でつくられたサイドフレーム(脚)に、成形合板の背もたれと座面を組み合わせたもの。

部材の接ぎ合わせは「ほぞ組み」で行われ、基本的にネジ類の金物は使用されていません。
組むのにあたって必要になってくるのは出っ張りのパーツ「ほぞ凸」と、
それを差し込むための「ほぞ穴凹」。
この凸凹をピタッとはめることにより、釘を使わず接着することができるのです。

日本で古くから用いられてきたほぞ組みは、無垢材でなければできない接合方法なのだとか。
また、互いに支え合うことで強度が増し、角材のねじりや反りを防ぐ効果もあるのだそうです。
この作業には正確な測量が不可欠で、職人の技量が問われます。

 

 

美しく見える工夫

 

図書館イスはひっくり返しても美しく見えるように、と
どの角度から見ても木目が通っているように部材が厳選されています。

改良と試作を繰り返す中で、使われる木材も変化していったそうです。
当初、背もたれと座の成形合板の表面にはブナ材が使われていましたが、
後にオイル仕上げのチーク、そしてナラ材へと変わっていきました。

50年以上の月日の経過とともに、どんどん深みを増した色合いにも注目。

 

 

寡作なデザイナー

 

水之江氏は1921(大正10)年、大分県生まれ。
日本大学専門部工科建築家を卒業後、前川國男建築設計事務所に入所。

市場に確実に出せる可能性が得られるまで徹底して検討を重ね、
頭の中で熟成してから提案を行う人物だったそうです。
世に出た作品も少なく、「寡作なデザイナー」と呼ばれています。

しかし、気取ることなく、「奇をてらうことは必ずどこかで破綻をきたす」と口にしながら、
人の話を聞き、それでいて譲れないところはきっちりと押さえてまとめ上げていく。
心底から質の良いものづくりを追求し続けた人だったんですね。かっこいい!

 

 

少しでも長く快適な読書タイムを

 

図書館イスは、開発の段階で100回以上もの試作と改良が重ねられました。
メーカー天童木工の会議室は試作品であふれかえるほどだったとか。

人の体のラインに沿った成形合板の曲線や形状、位置、
日本人にとって使いやすい座面の高さ、すべて丁寧に丸みがつけられた角(手触りよし!)。
脚下は邪魔にならないよう部材が細められ、補強のための貫(ぬき)が省略されているのは、
読書の際に利用者の足の邪魔にならないため。モップで床を掃除するときもスムーズにできます。

そして、椅子が持つ「控えめな印象」というのも、図書館という静かな環境を考えてのこと。
徹底的に使い手の立場になって、考え抜かれた椅子なのだということが伝わってきます。

現在、天神山文化プラザに残っているのは3脚のみ。

「デザイナーは一生にひとつ、本当に良い物が残せたらそれでいい」

水之江氏の言葉がカタチになった図書館イス。
見かけたらぜひ座ってみてください。

 

 

【参考文献】

菅澤光政(2008)『天童木工』美術出版社
西川栄明(2015)『増補改訂 名作椅子の由来図典』誠文堂新光社

 

 

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