第3回 3.庭のある家で暮らす

2015.07.20

 

 

――畳の間に座ってほっと一息。軒下から見える庭の緑に癒やされるなぁ。
庭は表と裏にあり、どちらもきれいに整えられているけど、庭仕事は主に誰がやってるの?

 

寛子さん:表の庭は秋岡くんで、裏庭は私。家では台所にいることがほとんどだけど、台所も北にあるし、私、北の女です(笑)。

 

――あははは(笑)。

 

寛子さん:同じモミジの木を植えても、南(表庭)と北(裏庭)では枝の張り方も違うし、葉っぱの色とかも違うんだよ。伸び方、茂り方も。

 

――へぇ~、方角によってそんなに違いがあるなんて…。

 

昌彦さん:今は木が一番茂っているときですね。もうちょっとしたら剪定してあげないと。

 

 

――剪定は庭師さんにお願いしてるんですか?

 

昌彦さん:自分でやっています。

 

――へぇ、それも自分たちで! この庭、引っ越してきた当初はどんな感じだったんでしょう?

 

昌彦さん:越してきた当時は緑の塊、ジャングルのようでした。草は胸の辺りまであるし、落ち葉が積もって下は腐葉土がいっぱい。

 

――まずは草を抜くところから?

 

昌彦さん:はい。ヤブ蚊もものすごくて。当時は木工が忙しかったし、庭をどうにかする気もなかったから、敷地内に松の木が5本くらい生えていたんですが、全部切ったんですよ。でも、住み始めて庭に興味が出てきて…。ここがいけないところですよね。

 

――(笑)。興味が出てきたら、情報収集からしっかりやっちゃう方ですよね。丹念に調べて。

 

昌彦さん:そうなんです。だからといって、今まで何十年かけて大きくなっていた木を切っちゃっているというね。

 

――ああ、なんてことを…(笑)。

 

 

昌彦さん:あせって植物を切るなんてことは、するもんじゃないなと思いましたね。

 

――ひとつ偉くなったんですね。

 

昌彦さん:そこから、まずは自分の好きな木、モミジやモッコクを全部自分たちで植えました。あの辺に生えているカシの木は根元から切ったものが伸びてきたものです。

 

――真ん中の立派な木は?

 

昌彦さん:サザンカですね。うちの兄が庭師なんですけど、サザンカはチャドクガという虫がついているから切れない!と言われて、たまたま残ったものです。古い幹の味わいがいいですよね。

 

――玄関前の苔ゾーンが青々としてますね。苔は難しいって聞きますが。

 

昌彦さん:植えてはないから自然に生えてきたものですね。草を小まめに抜かないといけないんです。がりがりやったり、草をあまり大きくすると、抜くときに土ごとぼこっと抜けちゃうので、ちまちま抜く感じで。

 

 

――ほぉ…。庭仕事って時間がかかりますよね。庭とリフォームと、どれくらいの割合で?

 

昌彦さん:リフォームは時期をまとめて、年末などにやって、あとは壊れたところを都度なおす感じです。

 

――庭は自然だから待ったなし。草が生えるときなんて一気ですもんね。

 

昌彦さん:そうそう、ここで草を抜いとかないとあとが大変になるから。剪定もそうですね。でも、個展の直前とかになったら、そうも言ってられないので、ほったらかしになってしまって。

 

――草取りは主に誰が?

 

寛子さん:表庭が秋岡くんで、私は裏庭を。

 

――それも担当が決まってるんだ(笑)。どれくらいの頻度で草取りをしてますか?

 

昌彦さん:一週間に1回は必ず抜きますね。場合によっては出来ないときもあるけど、基本的には毎週かな。

 

寛子さん:そうだなぁ、私は決まっていなくて、庭に出たついでに抜いたり。

 

 

昌彦さん:まぁ、腰が痛くなるほどは抜かんけどな。

 

寛子さん:それでも、庭とかにかけている時間っていうのは、同年代の人に比べると多い方だと思う。みんな毎週草取りとかできないかもしれないなって(笑)。けどね、草取りってやり出したらハマるというか…

 

――あ、それ分かる!

 

昌彦さん:何も考えたくないときに草取りはいいですよ。無になれる。

 

寛子さん:うんうん。考え事とか悩み事とかあったら、ぜひ草取りを!ってすすめたいくらい(笑)。
一心不乱に草取りをして、最後にきれいになったのを見たらスーッとする。あと、草を取るときに、最初にホウキで掃いてから始めるんだけど、そしたらすごく草が取りやすいの。

 

――へぇ、そうなの?

 

寛子さん:そう、ホウキで掃いたら抜くべき草が見えてくるというか。この前読んだ本にそのことが書いてあって。

 

――ほぉー。

 

寛子さん:その本を書いたのは佐野藤右衞門ていう有名な庭師さんだったんだけど、読んで「あ、私も、私も!」って生意気にも(笑)。

 

――いい話を聞きました。庭を持っている友達に教えてあげようっと。

 

 

昌彦さん:(静かにこそっと)盆栽もいいですよ。

 

――おお、いつから盆栽を始めたんですか?

 

昌彦さん:最近です。3年前、個展のときに友人からお祝いでもらって、それを枯らすわけにはいかんからなぁと思って始めたのがきっかけなんですけど。

 

――へぇー。

 

昌彦さん:これは家のモミジ。種から発芽して育てた盆栽。

 

――わ、すごい! こんなに大きくなるの?

 

昌彦さん:やっぱり「育てる」っていうのがあるから面白いですね。おまけに何年ものスパンでできるから、いいんですよ。調べたらものすごく奥が深いんです。根っこを切って、肥料をやったら伸びて、ここから生えてきたのを何カ月かしたらここを切って、みたいなこと…将棋じゃないけど何手先を読む、みたいなことを、できる人はたぶんやってるんだろうなと思って…。ただ今勉強中です。

 

 

――わ、おもしろそう。

 

寛子さん:秋岡くんはあんまり口に出しては言わないけど、結構はまってると思う。毎晩、盆栽を家の中に持って入って眺めて、毎朝出勤とともに外に出してるから(笑)。

 

昌彦さん:毎日水やりしないといけないからね。

 

――へぇ、毎日…。そんなにやらないといけないんですか?

 

昌彦さん:毎朝やってます。でも、夏だったら朝晩の2回ですね。たまに忘れても枯れるまではいかないかもしれないけど、盆栽って土の部分がでかいとお洒落じゃないんですよね。鉢が浅くて小さいんだけど、上(植物)がでかい、というのが理想。その鉢の部分をいかにコンパクトにするかみたいなものもあって。

 

――ほぉ…。

 

昌彦さん:そういう風に育てるためには、超水はけのいい環境で、超水やりをこまめにする、という。

 

寛子さん:よくわからないけど、モミジの盆栽は小さいモミジがただ生えているわけじゃなくて、大きいモミジをぎゅっとそのまま凝縮したものなんだろうなぁって。思ったように伸びてくれないというか、すごく考えて先手、先手で準備したり、世話をしたりしないとできないんだと思う。

 

昌彦さん:普通の庭木より多少過保護気味に、最小限の土で、回数多く水をあげて、肥料をあげて…何年かしたら植え替えて、みたいなことを永遠にやり続けるんですね。

 

 

寛子さん:この前、秋岡くんが皇居の盆栽を見に行ったらしく、代々引き継いできた盆栽だから100年とか150年とか。

 

――へぇー。ということは、毎日ずっと水やりをしていたってこと? その年数ずっと…

 

昌彦さん:でしょうね。でも、それにはすごく満足度を伴いますよね。毎日やり続けた、という。

 

――なるほど。丹精込めて育てるから、可愛くなるはずですね。

 

編集A :盆栽は小宇宙っていいますもんね。

 

昌彦さん:そうそう、本当に小宇宙。

 

――昌彦さんとしては、あと何年くらいしたら自分なりの庭が完成しそうですか?

 

昌彦さん:キリがないんですけど、でも、あと4、5年したら完成の予定かな。

 

寛子さん:意外と早い! 庭ってスパンが長いでしょ。自分たちより長生きする庭の行く末を考えながら、今、どう手入れしていいのか、結構考えてしまうかな。

 

 

――我が家はベランダしかないので、庭に憧れるなぁ。窓から緑が見えるっていいよねぇ。

 

昌彦さん:確かにアパートにいた頃よりは家にいる時間が長くなりました。

 

寛子さん:うん。庭があるのはとても良かったと思う。次に新しい家に住めることになっても、庭があるような感じがいいな。

 

――けど、こんなに広い庭がある家って珍しいかも。

 

寛子さん:ふふ、もっと広くてもおもしろいかも…。

 

昌彦さん:剪定とかしなくてもいいくらい広い場所があったらいいなぁ。世話をしなくてもいい庭。

 

寛子さん:それって森…(笑)。だったら森に住むっていうのもいいなぁ。

 

つづく ・・・4回連載 最終回「4.自分流に暮らす」は7月27日UP予定です。

2015年5月 取材
文:松田祥子
キャプション:編集A

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