第2回 2.本屋のお仕事

2015.03.09

 

 

――前回は、簡単に経歴をお聞きするつもりが。話に引き込まれて聞き入っちゃいました。

 

そんな(笑)。

 

――疲れていた心が、絵本に救われた、とおっしゃいましたよね。

 

そう。

東京を離れる頃の自分って、すごいトゲトゲしていたと思うんですけど(笑)。
でも絵本を読んでるときには、それがふわーっと丸くなる感じがしたんですね。

 

 

20年以上ぶりに岡山に戻ってきたら、県立図書館がとてもきれいになっていたので足を運ぶようになったんです。

あるときなにげなく見ていた児童書のコーナーで、ふとクレヨンハウスの絵本売り場のスタッフのことを思い出して。

そのスタッフたちって、なんというかうまく表現できないんですけど、やさしさの濃度が違うというか、人間の質が違うと思うぐらいあったかくて、どうしてなんだろうと前から思ってたんですよ。

そのときに、「ああ、それはきっと人一倍絵本を読んでるからなのかも」と思って。

じゃあ私もと、図書館の絵本を次々手に取って読んでいたら、そのときだけは心が穏やかになれることに気づいたんです。

 

――絵本って、大人にとっても素敵なものですよね。簡単なようで、すごく深い内容だったりして。

 

そう。絵本ってシンプルじゃないですか。
最小限の言葉で、ほんとに大事なことを考えさせてくれる。

子どもの時に読んだ本でも、大人になって読むと「ああ、こんなメッセージだったのか」って気づかされたりしますよね。

 

 

――ほんと。
絵だって大人になって別の視点で見たらまた違って見えたりしますしね。
絵本は子どもだけのものと思っていたらもったいないです。

 

だから「スロウな本屋」では初めから、絵本をしっかり扱いたいと思っていますね。

ここ1年ぐらいちょっと休んでいるんですけど、「大人( )絵本の会」という、大人が自分のすきな絵本の紹介をしあう活動も長いこと続けているんですよ。
( )というのは、大人にも絵本、大人こそ絵本…って、いろんな意味が込められるように。

 

 

 ・・・

 

岡山に帰って全国展開の大型書店に就職して、今も働いてるんですけど。2年目にたまたま児童書コーナーの担当になったら、すごくおもしろかったんです。

児童書って、子どもの本といえばそれまでだけど、物語から歴史、自然科学まで、すべてが網羅されてるでしょ。

だから自分の裁量で、いろんな見せ方の工夫ができるんです。

 

――なるほど、そういうおもしろさがあるんですね。

 

私が担当になったときの児童書売り場は、一番目立つ場所にまず大量の「音の出る絵本」と、付録がぎっしり挟まった月刊幼年誌がズラーッと並んで、なんだかギラギラしてたんですよ。
とりあえず最初はその通りに棚出ししてたんですけど、だんだん「これでいいのかな」って思いはじめて。

うちの書店はわりと担当者の自由に任せてくれるので、「よし、ちょっと変えてみよう」って、ゴソゴソやってみました。幼年誌はどこに置いてもコンスタントに売れるので奥のほうに回ってもらい、絵本、中でも本当におすすめしたい本を、きれいな表紙がよく見えるように置いたりして。

そうやって棚の作り方を変えたら、お客さまの層も少し変わって、売り場の雰囲気が変わってきましたね。

 

 

――なるほどー。
私も書店がすきでよく行くんですが、同じものを売ってるようで、意外とお店によって違いがありますよね。
いろんな書店の中でやっぱりすきな店って出てくるんですけど、魅力の差は、本の見せ方、コーナーの見せ方という要素が大きい気がします。

 

そうそう、そこが本屋の仕事の一番おもしろいところで。
書店業界では「棚を作る」っていうんです。本を並べることをね。

 

スペイン語の洋書店で働いていたときに、途中でオーナーが変わって自分たちで仕入れや棚作りをしないといけなくなって。そのときは私も素人だしやり方が全然わからないので、本屋について書かれてる本や雑誌を片っぱしから読んだんですね。

その中で、往来堂書店の安藤哲也さんという方の「本棚は編集だ」という言葉に出合って、すごく感銘を受けたんです。

 

 

――本棚は編集、ですか。

 

往来堂書店は東京の千駄木にある小さな本屋さんで、初代店長の安藤さんはそこで「文脈棚」というものを提唱されたんです。

普通の本屋さんだったら、料理の本はこっち、健康の本はあっちって単純にカテゴリー分けされてると思いますけど、文脈棚の考え方では、例えば健康の本と身体にいい料理の本を一緒に並べて、ひとつのテーマとして見せる。

同じ本を、今度は別のカテゴリーの本と組み合わせると、また全然違う世界観が広がりますよね。

本の並べ方、組み合わせ方という、まさに編集作業によってなにかを伝えられるんだ、ということを教わりました。

それで、自分でもそういう「文脈」を意識して棚を作るようにしたら、どんどん本屋の仕事の魅力に取りつかれていったんです。

 

――文脈棚…確かに、なにか「切り口」を提案されると、普段関心のないジャンルでもつい手に取ってみたくなりますね!

本棚から、本を並べた人の思いがさりげなく伝わってくるって、すごく素敵だなぁ。

 

 

心に残った言葉といえばもうひとつ。

そのスペイン語の書店は、勤めはじめた最初の頃は、キリスト教のシスターのおばあちゃんたちが営んでいたんですけど、

彼女たちは「本屋はね、ただモノを売るだけじゃないのよ、文化を売るのよ」と言っていました。

その言葉も、実際に本屋の仕事をはじめたら、まさにその通りだなと思いましたね。

 

――本は文化…その通りですよね。
本屋さんに行ってざーっと平台を眺めるだけで、なんとなく世の中の空気がつかめるような気がしますしね。

お話を聞いて、私もますます本屋さんがすきになりました!

 

 

――洋書店の後、クレヨンハウス時代があって、それから岡山で書店に勤めて。自分で本を選んで紹介・販売する、という個人の活動をするようになったのはいつごろからなんですか?

 

岡山に帰ってきて2年目に「封筒再生委員会」っていう、未使用のまま廃棄されかけていた封筒を再生させる部活動のようなことをして仲間内で遊んでいたら、ある野外イベントでワークショップをしてもらえないかと声を掛けていただいたんですよ。

それで私は、「封筒のワークショップもいいけど、実は本屋をやりたいので、そっちもさせてもらっていいですか?」って(笑)。

それが個人で本屋として出た最初でしたね

 

――そうなんですね。

 

イベント当日は、私が選んだ本をみんなおもしろがってくれるのかなと、不安でいっぱいだったんですけど。そのとき来場者の方が、私の並べた本を丁寧に見てくださって「本当のお店はどこでやってるの?」と聞いてくださったんですよ。

それが私にとってはほめ言葉で、すごくうれしかったです。

 

 

――もっとじっくり見てみたいって、興味を持たれたということですもんね!

 

そのうち次々にいろんなイベントに声が掛かるようになったんですけど、会場で店を広げていると、いつもたくさんのお客さまが「実店舗はどこ?」って聞いてくださるんです。

そのたびに「今はないんですけど、いつかやりたいんです」って答えていました。

 

ずっと、そう言っていただけることがただうれしかったんですが、2013年の「青空café」というイベントでまた同じように聞かれたときにね。

いつものように「いつかやりたいんです」って答えたものの、
…私また『いつか』って言っちゃった、このままだといつまでも『いつか』って言い続けるだけなんじゃないかと思って。

 

それでついに不動産屋さんに行って、物件探しからはじめました。

 

 

――夢のままで終わらせず、ついに一歩踏み出したんですね。

 

…お話を伺っていると、ほんわかしているようで、まっすぐ芯をもって行動されている小倉さんの姿にどんどん引き込まれていきます。

続きのお話も楽しみです!

 

つづく  ・・・4回連載 第3回「 3.お店づくり、珍道中」は3月16日UP予定です。

2014年11月 取材
文:吉田愛紀子
キャプション:編集A

※ 写真をクリックorタップするとキャプションとともに拡大写真がご覧いただけます。

 

※「スロウな本屋」は、2015年4月3日よりオープンします。

 

スロウな本屋

「ゆっくりを愉しむ」をテーマに、店主がセレクトした本を扱う小さな本屋。
OPEN 11:00~19:00
定休日 火曜日 ( 2015年 4月中は、金・土・日・月曜のみ営業 )
岡山市北区南方2-9-7 tel.086-207-2182

スロウな本屋WEBサイト http://slowbooks.jp/

http://slowbooks.exblog.jp/

 

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