第5回 1.「びっくり、ぴったり」の多い家

2016.01.04

 

 

 

〈玄関先の花を摘みながら、私たちを迎えてくれた大塚小百合さんとラブラドールレトリバーの「あんこ」。
あんこの定位置は庭のようですが、窓越しに控えめに顔を覗かせて、話に加わりたい様子です。小百合さんはあんこに話しかけながら、手にした花をエントランスの一輪挿しに活けて…〉

 

小百合さん:今年はホトトギスがこれだけしか咲かなかった。

 

――その一輪挿し、素敵ですね。

 

小百合さん:これね、十河(隆史)さんのなんです。

 

 

〈しばらくして2階から旦那さまの大塚啓ニさんが、「うちなんて『暮らし上手さん』じゃないよー。暮らし下手よー」と言いながら下りて来ました。肩の力が抜けていて、くつろいだ感じ。〉

 

啓ニさん:暑いなあ。そこの窓も開けようや。天窓も開けよう。

 

 

――冬はこの家、暖かいんですか。

 

啓ニさん:冬は日がよく入りますね。
エアコンをあまり使いたくないので、1階の薪ストーブの熱が2階にまで来るように工夫したんです。足元(ダイニングテーブル傍の壁)に小窓を付けてもらって、そこから熱が来るかなと思ったんですけど、意外と来ないんですよ(笑)。

 

小百合さん:でもいくらか上がって来るよ。階段からも暖気が来るかなと思ったんですけど、こっち側だとちょっと距離があるから冷めるんですよ。

 

――じゃあ逆に、夏は暑いんじゃないですか?

 

啓ニさん:夏は、たしかに暑いですけど…太陽が高いからか、奥まで陽差しが入って来ないんですよ。それに、窓を開けると風がよく通ります。建物の向きが良いようになっていて。下の土間も、冬の朝から昼間は陽が入ってくるんですけど、夏は入ってこない。土岐さんが計算してくれたんでしょうね。

 

 

――このお家は土岐建築デザイン事務所の設計だそうで。土岐さんとの繋がりは、どういうところから始まったんですか。

 

啓ニさん:うちの家具のほとんどは家具工房『FREE STYLE』(岡山市中区倉益)のもので、オーナーの三原さんの奥さんと僕が同級生なんです。

あるとき『FREE STYLE』が、土岐さんの設計した玉野市の家の家具を担当して、「展示会をやるから見に来て。ドリンクを売ったりするから」と誘われて、イベント感覚で行ったのが最初でした。
そのときは、土岐さんのことを遠くからこうやって、コソっと見ている感じで(笑)。でも、土岐さんの奥さんの陽子さんとはお話をしました。

そのあと、見学会で土岐さんの所にお邪魔をして、「そろそろ家が欲しいんですけど、いい所がないですかね」って話したら、土岐さんから「この辺りは?」って今住んでる地域を言われて。
それまで住んでいた場所から近くて、たまにクルマで走りながら「こっちの方は空が広くて、いいな」という話をしていた所でした。
候補には入ってなかったんですけど、「じゃあ探してみようか」って。それで不動産屋さんに当たってもらったんですよね。

 

――もうその時は、ほかの方に頼むことは考えていなかったんですね。

 

 

〈啓ニさんがコーヒーを淹れてくれます。このあたりから、小百合さんと啓ニさんの会話に、「きなこ」という名前がちょくちょく出て来ます。それはいったい誰なのか。しかしその姿はまだ確認できません〉

 

小百合さん:コーヒーを淹れてるところ、もう、たくさん写真に撮ってくれてる。

 

啓ニさん:このサイトのこのコンテンツには必ず、コーヒーを淹れてるところが入りますよね(笑)。

 

小百合さん:だから準備しておかないと、って(笑)。エプロンはしなくてよかった?

 

啓ニさん:あ、作りすぎた。コーヒー。

 

小百合さん:もうおやつタイムにしてもいいかな。

 

啓ニさん:ところで、きなこはどこにいる?

 

小百合さん:きなちゃんは、今日は出てこないかもしれない。朝から掃除機の音に苛々してたし。

 

――撮影に向けて、お掃除をしてくださったんですね。

 

啓ニさん:でも、元々、初めての人がいたら出てこないからね。

 

小百合さん:押し入れの中に潜り込んでしまうの。

 

 

 

――このおうちが、ふつうの家の概念とはまったく違うように思うので、どういう地点から家作りが始まったのかを教えていただけたらと思います。例えば、発想の最初に土間があって、薪ストーブがあって、とか。

 

小百合さん:はじまりは、雑誌「考える人」で特集されてた、中村好文さんの「小さな家」なんです。

 

啓ニさん:もともとは「簡素な小屋」を作りたい、ってお願いしたんです。僕は、あまり凝りはなかったんですよ。
でも土岐さんは、デザイナーという職業の人だと、「白い空間で無機質な、スタイリッシュな家」を望まれるんじゃないかって最初は思ってたらしい(笑)。

その前に嫁さんが本で、中村好文さんのなんとかハット…、Asama Hutかな、それをスクラップしてて、ふたりでいいなって言ってたんです。
その写真やアンティークの椅子とか、こんなんが好きというマップを作って持って行ったら、結構驚かれました。「ちょうどやりたい家がこんな感じだった」と、たまたま合致していて。

その写真でも、土間の上に薪ストーブがあったんです。そこに小さい椅子が置いてあって、いいなあって。土間でみんなでストーブを囲んでだべりながらが楽しいかなと。

 

――薪ストーブは終日、家に人がいないと使えないものだと思っていたんですけど。

 

啓ニさん:消した後は見ておく必要がないし、火がつくまではたいへんですけど、ついた後は薪を突っ込んでおいて、出かけて帰ってきたら暖かい、っていう状態です。寝る時も、ガンガンに焚いておいて、絞って寝ると、朝方、ほんのり暖かいです。またつけようと思ったら、すぐつきます。そういうところはいいですね。

 

――薪は?

 

啓ニさん:嫁さんの実家の桃の間伐材とか、いらなくなった椎茸のほだ木なんかをもらって来て使っています。

 

小百合さん:桃は毎年枝を更新するので、腕くらいの細さのものをバンバン切るんです。

 

啓ニさん:うちのストーブは小さいのに長い薪が入るし、細いから薪割りの必要がなくていいんですよ。

 

〈薪ストーブ専門店『HICKORY wood stove works』のロゴマークやwebサイトもブラボーデザイン室のお仕事です。ストーブ暮らしをする人によるストーブ専門店のデザイン。とても素敵なイラストなのです。〉

 

 

――この家、建物自体はどういう形になっているんですか? うまく捉えられない…

 

啓ニさん:みなさん来られた方は、そう言われる。事務所部分が斜めにフレて、2階建ての自宅に繋がっているんです。T字じゃなくて、若干斜めに。みなさん、螺旋階段を上がると、

 

――わかんなくなる!

 

小百合さん:こんな感じ(図面を見せてくれる)。

 

――シンプル、と言えばシンプルですね。

 

小百合さん:斜めにくっつけるから、たいへんだったみたい。

 

――斜めに、というのは何か理由があったんですか? 光の入り方とか?

 

小百合さん:たぶん。それと、庭のスペースも取れるし、仕事机から横に目をやると田園風景が見えるんです。自宅側は駐車場の関係から、真っ直ぐになっているんだと思います。模型で見るとよくわかるんだけど…。

 

 

――仕事場のこの大きな机がいいなと思って。

 

啓ニさん:これが『FREE STYLE』のです。長さ2.7m(笑)。

 

――家を建ててから決めたんですか?

 

啓ニさん:ここにこれを置きますよ、ということは設計の段階で言ってましたね。

 

小百合さん:あ、この引き出しにしている無印良品の段ボールケースが、偶然ぴったりだったの。

 

――えええ、この設えたようなサイズ感が偶然ですか?

 

 

小百合さん:そう! うちには、「びっくりぴったり」がいっぱいあって(笑)。
リベットの引き出しが、酒屋さんからもらって来たワインの木箱に、びっくりぴったり。

それから、昨日初めて気づいたんですけど、この箱もびっくりぴったり(笑)。
今までは糸の上に糸を重ねてたんですけど、ここも! 印刷屋さんからDMなんかが送られて来るときの小さい箱なんですけど、これもワインの箱にぴったり。

とりあえず、はめてみるクセはあるんです。で、規格化が好きだから、ペットボトルの2ℓの6本入りの箱に包装紙を貼って収納にしてるんですけど、最近、規格が違うんです…。
メーカーによって微妙に大きさが違うから揃わないの。

これでこの収納はスーパーに行けば、永遠にタダで手に入ると思ってたのに、残念。

 

啓ニさん:とりあえず箱は好きなので、捨てないんですよ。

 

 

小百合さん:これは桃の箱で、びっくりぴったりじゃないけど丈夫で良いんです。
いったん箱を開いて内側が外になるように折り直しているから中に「岡山の桃」とか「玉島」とか書いてある(笑)。
折り直すと新しい無地の箱みたいになるんです。
で、梨の箱はもうちょっと深くて…

 

啓ニさん:そういうの説明する時、めっちゃ生き生きしてるな(笑)。

 

小百合さん:(わりとその言葉を聞き流して、)軽トラにぴったり乗るサイズだから、規格に合ってるんだと思う!でも最近は軽トラの荷台のサイズも変わっちゃって……

 

〈小百合さん、夢中です!〉

 

つづく・・・4回連載 第2回「2.啓ニさんと小百合さん」は1月11日UP予定です。

2015年10月 取材
文:尾原千明
キャプション:編集A

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