【特集】 建築家のしごと 4 ~岡山の建築家、13組による展覧会
2017.11.03
岡山の建築家、13組による展覧会「建築家のしごと4」。
4回目となる今回は天神山文化プラザ特別企画展「天神山迷図」との共催展。天神山文化プラザ全館が会場となり、たくさんの催しが行われています。
展覧会は現在開催中ですが、まだ準備中だった10月中頃、メンバーの佐渡基宏建築アトリエ・佐渡基宏さんに今回の展覧会についてお聞きしました。模型も見せてもらいながら、会場構成のことや展覧会を通して伝えたいことなど。気さくにお話してくださいました。
聞き手 松田祥子
建築家のしごと4 岡山の建築家、13 組による展覧会
2017年11月1日(水) ~12日(日)9:30~18:00(11月4日は20:00まで、最終日は16:00まで)
休館日11月6日(月)
入場無料
岡山県天神山文化プラザ2F 第4展示室
● 「天神山文化プラザ」がまるごと会場に
――昨年の展覧会「建築家のしごと3」では、何回か足を運んだことのある天神山文化プラザが、実はとても興味深い建築物であったことが分かり、新しい発見でした。今年の「建築家のしごと4」も同じ天神山文化プラザで開催されるとのことですが…。
そうなんです。1962(昭和37)年に「岡山総合文化センター」として開館した天神山文化プラザは、今年で55年になる建物ですが、全く古びることなく、岡山の文化情報発信の拠点として使い続けられています。今年はその天神山文化プラザをまるごと楽しもう!という企画展「天神山迷図」(岡山県天神山プラザ、岡山県など主催)があり、「建築家のしごと」は共催という形で参加します。
――おぉ、「天神山迷図」というネーミングが面白いですね。私自身、何度か館内を迷ってぐるぐるした経験があるので興味をそそられます(笑)。
「天神山迷図」は11月19日(日)まで開催していて、僕らは11月1日から12日の間、天神山文化プラザを設計した近代建築の巨匠・前川國男氏(1905-86年)や建物が持つ魅力を「建築」の側面から紹介していきます。ほかにも、外壁をダイナミックにデコレーションする能勢聖紅さんの作品や岡部玄さんの力強い流木ドーム、館内のいろんなところに出没する久山淑夫さんの猫(彫刻作品)などのアート作品や展覧会、カフェ、ワークショップなどいろんなイベントが楽しめますよ。
● のぞき窓から見えるものは?
――では、岡山の建築家、13組による展覧会「建築家のしごと4」について詳しく教えて下さい。佐渡さんは2回目から会場構成を担当されているとお伺いしました。薄い布で空間を区切ったり、小さな箱を積み上げて積木のような壁を作ってみたり、ユニークな会場レイアウトにはいつも驚かされます。
展示スペースというと、普通は何もない白いハコじゃないですか。その空間をどう変化させるか、建築をやっているからこそ可能な表現方法だと思って毎回力を注いでいます。 今回会場構成を担当したのは、僕とヤマグチ建築デザインの山口さん、企画は、テンキュウカズノリ設計室の天久さん、竹下和弘建築設計事務所の竹下さんです。
――皆さん、普段は個人で仕事をされているんですよね。こだわりたい部分も違うと思うんですが、うまくまとまりますか?
今回の会場に関しては、企画、展示の担当者が無理難題を提案し(笑)、 ミーティングでみんなとキャッチボールをしながらストーリーや細かい部分を詰めていった感じです。
普段はみんな個人プレーなので、それぞれこだわりたい部分があります。でも、根底にある「建築をもっと知ってもらいたい」という想いは一緒で、考えが違う者同士が集まって一つのものを創るからこそ、よい刺激をもらっている実感がありますね。
――今年の会場の見どころはどこでしょう?
これが今回の模型です…。初期段階のものですが。
――さすが建築家の皆さん! 毎回、会場のレイアウトを模型で作るんですね。
この模型はスチレンボードと木で組んでいるんですが、実際はダンボールをつないで作ります。建築家1組に対してダンボール1枚(高さ1.8m×幅0.9m)のブースを設け、12組の建築家が前川國男氏の特徴となるキーワードを掘り下げ、表現していきます。
――L型の長細い箱状になっていますが、人が中に入れるんですか?
いえ、中には入れません。中は展示空間です。外にランダムに穴が開いているんですが、この穴がのぞき窓になっているんです。
――のぞき窓ですか。何が見えるんだろう? ワクワクしますね。
「のぞくこと」とは、カメラでいう絞り込んでピントを合わせて見てもらおうという感覚です。広角で全体を見るんじゃなくて、焦点を一ヶ所に絞って見てもらうと、それぞれのキーワードも伝わりやすいんじゃないかと思います。
もう一つ、模型があったら普通は上から俯瞰的に眺めますが、建築家の目線って人間の目線(アイレベル)で模型を見たりするんです。模型を見て「中の空間を意識する」という建築家の感覚を体感してもらえたらと思っています。
これは僕の試作段階のものなんですが、これ自体はダンボールの中に覆われるから全体像は見えません。でも、のぞき窓(穴)を通じて見てみると、上から光が落ちている様子が見えますよね。
――はい、上から光が入って、影ができています。
僕が担当するキーワードは「シークエンス」。シークエンスというのは風景が移り変わる様子のことなんですが、僕は光や陰影を取り入れたりすることが好きなので、場所によって光の落ち方が変化するということを伝えたいと思ってるんです。
――のぞき窓から見て体感してもらうんですね。「シークエンス」のほかには、どんなキーワードが出てくるんでしょうか。
前川建築を語る上で欠かせないキーワードですね。来場者がくるりと一周できるようになっている動線「一筆書き」や、光あふれる「屋上庭園」、「ピロティ」など。12のキーワードは矢印でつないであり、ストーリーのように順番に見てもらえるようになっています。
ただ、アクがある建築家の集まりだからね。12組の建築家の個性が、この中にうまくおさまるのか、ちょっと心配もしてます(笑)。
そうそう、「屋上庭園」を担当している天久さんは、ダンボールの中に入って少し高いところからのぞくとダンボール上の屋上庭園が見える計画を練っているみたいです。…面白いことを考えるなあ、天久さん。現実化するかどうかは、当日のお楽しみですが…。
――それぞれの個性が詰め込まれた展示となりそうですね。会場設営しているときに、当初の予定から変更していくことはあるんですか?
あります、あります。その辺はみんな現場慣れしているから(笑)。完成予定図は描いていますが、実際に組み立てていくと他の方法でやったほうがいいなというのが出てきます。現場慣れしている建築家だから、組み立てる段階で違ったアイデアが出てもっとこうしよう、ということは過去の展覧会でも多々ありました。現場主義ですね(笑)。
この模型はかなり初期段階のものですから、のぞき窓(穴)も四角だけじゃない、丸だったり、切り込みの入ったスリットだったり、いろいろな形になっているはずです。
――この模型がどう変わったかも見ものですね。
今回参加する建築家13組なんですが、12組はこの第4展示室での展示を、そしてあと1組については特別会場で前川國男紹介・ワークショップ模型展示「天神山迷図 #前川國男」を担当します。ここでは近代建築の三大巨匠であるル・コルビュジェの愛弟子として、戦後日本の建築界をリードした前川國男氏のことが分かりやすく紹介してあります。
「天神山迷図 #前川國男」で12の前川キーワードをじっくり学んでもらって、岡山の建築家の掘り下げたキーワードと照らし合わせながら会場を巡ってもらうと、さらに建物の魅力を実感してもらえるんじゃないかと思います。
● 見るだけじゃない。歩いて、作って、楽しんで
――ほかの「建築家のしごと」関連のイベントについて教えて下さい。
昨年好評だった「建築探訪」を今回も行います。5日(日)は1回(10:00~)、11日(土)は2回(10:00~、14:00~)開催。カフェのドリンク付きです。
今回は担当するt/rim design(トリムデザイン)の稲垣さんと大賀さんが東京の前川建築設計事務所を訪ね、天神山文化プラザの設計に携わった方に話を聞いてきているんです。前川國男という建築家について、天神山という場所について、今まで誰も聞いたことがないような興味深いエピソードが聞けると思いますよ。めったにない企画なので、ぜひ多くの人に参加してもらいたいです。
――解説を聞きながら天神山文化プラザを歩くと、より理解が深まりますね。
昨年あった建築模型のワークショップも行いますよ。昨年は夏休み期間ということで対象が小学生(中高学年程度)でしたが、今年は小学生以上から大人までOKです。 ※ワークショップは10月28日・29日で終了しました。
――昨年のワークショップでは小学生の自由な発想で、さまざまな形の家が出来上がっていました。ユニークな作品もいっぱいあって楽しかったです。
今年は建築家と一緒に天神山文化プラザの特徴を学び、会場に準備された材料を使って簡単な建築模型を作ります。素材は竹ひごやバルサ材など軽くてやわらかいもの。切って貼ることが簡単にできます。模型をつくることで、建築の楽しさやものづくりの喜びを感じてもらえたらうれしいですね。
作品は5日(日)まで「天神山迷図 #前川國男」の会場に展示され、5日の午後2時からは天神山プラザ館長などイベント関係者が選出した優秀作品の表彰式が行われます。
そうそう、今年初の試み、「MAZE/ CAFÉ 」では週末限定で移動式カフェが出現します。
――移動するカフェですか?
そうです。バリスタの入れるおいしい珈琲が楽しめます。どこに出現するかは当日のお楽しみで、玄関のピロティだったり、屋上でも営業するときがあるみたいです。
カフェのブースはタカオジュン建築設計事務所と仁科建築設計事務所の2組が作ったんですよ。天神山文化プラザの西側階段の踊り場には長方形のスリット(開口)がリズミカルに開いていますが、そのスリットをモチーフにしたブースになっています。担当した建築家は店舗設計も得意な人たちで(笑)。
――わぁ、さすが! プロの仕事です。
4日(土)はピロティで午後8時半まで「夜 CAFÉ 」が開催されます。屋外の展示作品もライトアップされるようです。昼とは違う夜の天神山文化プラザの雰囲気も楽しんでください。
――「天神山迷図」の期間中は、アート関連のワークショップやベントも盛りだくさんなようで、お祭り感覚で楽しめそうですね。最後に、佐渡さんが今回の展覧会を通じて伝えたいことは何ですか?
建築の面白さ、これに尽きるかな。
ミュージシャンとか小説家とかいろんな表現方法があると思うんですが、建築家の表現方法は「空間で表現すること」です。空間って小宇宙みたいなもので、それをただただ感じほしいですね。文字が読めない子どもたちでも、のぞき窓(穴)の先にある小宇宙をみて、何か感じ取ってくれればうれしいです。
そして11月1日、「建築家のしごと4」開催初日に行ってきました。
会場は少し暗く、他の展示とは違う空気が静かに伝わってくるようです。
展示もユニークなものばかり。ひとつひとつをつい確かめたくなって、つられて見ているうちに順路へと進んでいきます。
12組の展示を見終えたら、その先の部屋に「天神山迷図 #前川國男」の展示が見えてきます。前川國男に関する内容が満載。5日と11日にある建築探訪がよりたのしみになります。天神山文化プラザの建築資料も惹き込まれます。
カフェはこの日は開催されていませんでしたが、使用するブースは置いてありました。4日の夜カフェなど、楽しみですね。
天神山迷図共催ということで、建築と一緒にアートもあり、充実した会場です。
あらゆる個性のものが、それぞれの表現で、ひとつの場所に集まる。 「建築家のしごと4」も「天神山迷図」も、それぞれ多様なものが集うことの愉しさをぎゅっと詰め込んだ展覧会です。
「建築家のしごと4」の会期は11月12日(日)まで。 そして、「天神山迷図」は、11月19日(日)まで開催中です。
建築家のしごと4 ~ 岡山の建築家、13組による展覧会
― 関連イベント ―
■建築模型ワークショップ「君も未来の建築家!」
10月28日29日に先行開催されました。
皆さんが作った模型は10月31日~11月5日の間、「天神山迷図 #前川國男」で展示中です。また、11月5日14:00から優秀な作品は表彰されます。
■建築探訪「前川國男の建築、天神山文化プラザを歩く」
11月5日(日)10:00~、11日(土)①10:00~ ②14:00~
各回90分程度、定員各30名
参加費500円(1ドリンク付き)※事前予約優先
■前川國男紹介・ワークショップ模型展示「天神山迷図 #前川國男」
10月31日(火)~11月5日(日)9:30~18:00(11月4日は20:00まで、最終日は16:00まで)
岡山県天神山文化プラザ2F 第5展示室
■カフェ「MAZE/ CAFÉ 」
今後の予定
牧珈琲&フィセル……11月3日(金・祝)、4日(土)、5日(日)
珈琲店watermark… 11月11日(土)、12日(日)
TRENCH COFFEE…11月18日(土)、19日(日)
※11月4日は大人の夜 CAFÉ (20:30まで)
会場・お問い合わせ・ご予約
岡山県天神山文化プラザ
TEL:086-226-5005 (月曜休館)
MAIL:tenplaza@o-bunren.jp
HP:http://www.tenplaza.info/
―建築家のしごと実行委員会―
Facebook:https://www.facebook.com/archiokayama/