第2回 1.絵本との出会い
2015.03.02
――ごめんくださーい(ガラガラ~)。
はあい、どうぞー。
――こんにちは。おじゃまします。今日はよろしくお願いします。昔ながらの門扉が雰囲気ありますねえ!
そうですか?
――この、扉をガラガラって開けて入る感じ、なんとも懐かしいような新鮮なような!!うれしくなりますね(笑)。
でしょう(笑)?
――さてさて、さっそくですが。
小倉さんは「スロウな本屋」の名で、カフェや野外イベントなどに出店して本の紹介・販売を行ったり、本に関するイベントやワークショップを開いたりといった活動をされているんですよね。
はい。
6年ぐらいイベント出店のスタイルを続けていましたが、この春からついに実店舗をスタートさせるんです。
今いるここがお店になる場所で、今は岡山市内の書店に勤めながら、開店準備をしています。
――お店のオープンまで、もうすぐというところなんですね。
…なんといっても、このお店がすごく素敵です!3軒が長屋になった古い民家で、ほんとに昔ながらの日本の住まいなんですよね。こういう場所で本屋をする、ということに興味を惹かれました、私!
もともと、特に古民家でやりたいというこだわりはなかったんですよ。でも、自分の心が落ち着く空間と考えると、自然とこういう家になりました。
以前は東京で働いていて、ちょっと疲れて地元の岡山に帰ってきたという経緯があって、その後は自分の生活もダウンシフトというか、身の回りのものも本当に必要なものしか持たないように心がけるとか、できるだけ電気を使わない工夫をしたり、梅干しを漬けたり、そういう東京ではできなかった暮らしをするようになったので。
――なるほど。
まさに、昔ながらの暮らしの様子が見えるような佇まいです。築何年ぐらいなんでしょうねえ?
それもわからないんですよ。とにかく戦前からあったとは聞いてます。
台所のほうは板張りになってますけど、昔は土間のおくどさんだったぽいですね。
出窓が妙に深くて、背が低い私は奥のほうに手が届かないし、意味のわからない敷居とかもあるし、いろいろヘンなところが見つかるんですよ(笑)。
――謎の造り(笑)、おもしろいですね!
それこそ半世紀以上も前から、ずーっと誰かの暮らしがあった家ですもんね。
今のピカピカの建物に比べたら不便もあるかもしれないけど、なんともいえない味わいがあって、静かにゆっくり本と向き合うのに、これほどいい空間はないと思います。
――まずは、小倉さんの略歴からお伺いしたいと思うんですけど。お仕事は、初めからずっと書店関係のことをされていたんですか?
いえ、最初はね、なんとIT企業で働いてました!
まあ、まだITなんて言葉もない時代でしたけどね。
――えーっ!それは予想外。
でしょ(笑)。
大学の先輩がそこに勤めていて、誘っていただいて就職したんですけど。
人間関係はすごくいい職場でしたけど…仕事は向いてなかったですねぇ。なんだかコンピューターに働かされてるような感じで。
――あぁー。
大阪の大学に入学してITの会社も大阪だったんですけど、3年ほど勤めて辞めて、東京に行きました。
大学は、スペイン語学科だったんですよ。学生時代に1年間、スペイン語圏のメキシコに留学もしていました。
だからやっぱりスペイン語に関わる仕事をしたいと思って、東京の通訳の学校に行ったんです。通いはじめたらすぐ「ここで働かないか」と声を掛けられたので、事務や教材作成の仕事をしながら授業に出てたんですけど、そのうちだんだん「どうも通訳では食べていけないぞ」って気づきはじめて(笑)。
――(食べていくのは)難しいんですか?
スペイン語通訳一本で生活できるのは、ほんのひと握りの人なんですよ。
もっと勉強してそのレベルを目指した方がいいのか、方向転換した方がいいのかなんて迷いはじめた頃に、たまたま学校の先生から、「スペイン語の本屋さんで人探してるんだけど、小倉さん行かない?」って声を掛けていただいたんです。
――これまた声を掛けられるんですね。
まあでも最初は本屋には特に興味はなくて、ただスペイン語が使えるっていうよこしまな気持ちから(笑)働くことにしたんですけど。
でもやってみると本屋の仕事自体がすごくおもしろくなって、そこから今につながってます。
――ああ、そうなんですね!
で、そこも3年ぐらいいて、経営者交代を機に解雇のような感じになって。
それでハローワークに行ったら偶然、「クレヨンハウス」(作家の落合恵子さんが主宰する、子どもの本の専門店。おもちゃや女性の本売場、オーガニックレストランも併設)の募集が出てたんですよ。
「あのクレヨンハウス?!」と思ってダメ元で受けに行ってみたら、一次面接でいきなり落合恵子さんが目の前にいるんですよ!「うわぁ、絶対ダメだ~!」「でもまあ落合さんに会えたからいいや」なんて思ってたら、まさかで受かっちゃいました。
――すごい!これまでの話、「たまたま」続きでどんどん次につながっていってますよね。
ほんと、たまたまね。
当時は今みたいに人の縁のありがたさとかなにも考えてなくて、流れのままにという感じでした。
――落合恵子さんといえば、社会に対して積極的に発言されている方という印象がありますね。すぐ近くで一緒にお仕事をする中で、いろんな経験をされたんでしょうねえ。
そう。クレヨンハウス時代がいちばん濃かった(笑)。
落合さんがフェミニズムの立場で活動している方ですから、そういう本を中心に扱うフロアがあって、私はそこの担当でした。
クレヨンハウスが発行する小冊子に書籍の紹介文を書くのもスタッフの大事な仕事で、毎月山のように原稿を書いていましたね。そこへ落合さんが直々に赤を入れてくださるんですけど、もうほんっとに厳しくて!いつも泣きながらやってました。
――厳しいというのはどういう?
まず選書。クレヨンハウスのポリシーから外れるものを出してしまうともうそこで叱られるし。表現ひとつとっても、例えば「カメラマン」とうっかり書いてたら、ピシッと指摘が入る。
…「マン」は男性に限定する表現ですからね。「女流作家」とかよく言いますけど、そういうのもNG。
言葉に対してものすごく繊細な方で、ひとつひとつの表現をきちんとチェックされました。来られるお客さまもそれ以上に厳しい目を持たれていましたし、そこで本当に鍛えられましたねぇ。
――それは…、厳しい…。
でも、本当にいい勉強になりました。クレヨンハウスには6年ぐらいいましたね。
仕事は充実していました。けど、東京の暮らしには少し疲れて、ここを離れようかなという気持ちになってきて。
で、結局クレヨンハウスは卒業することにしたんです。
――そうなんですか。
13年間東京で暮らして、今も東京という街は大好きなんですけど、都会は、もういいかなって。
でも、クレヨンハウスを辞めるまで、すごく迷いがありましたね。岡山に帰りたい気持ちもあったけど、帰っていいのかな、この先どうしたらいいんだろうって。
それで、ある日休みを取って岡山に帰省して。
気づいたら、子どもの頃からお世話になっていた塾の先生ご夫婦の家に足が向かっていて、そこで初めて、泣きながら自分の思いを吐き出していました。
先生は「うん、うん」って話を聞いてくださってね。「戻っておいでよ、仕事なら塾で雇ってあげるから」って言ってくださって。
その日は実家に泊って、お風呂に入っていたら、窓からまあるいお月さまが見えたんです。東京じゃそんな景色なんてなかったから、ハッとして。
きれいな月を見ているうちに・・・・帰ろうって思いました。
――…そんなことがあって、岡山に帰って来られたんですね。
それで岡山に戻って、でもまだ迷いは消えなくて、疲れた気持ちを引きずっていたんですけど。
でも、そんな自分を救ってくれたもののひとつが、絵本だったんです。
――絵本ですか?
…そういえば、この「スロウな本屋」も、縁側のある1部屋をまるごと絵本のコーナーにされていますよね。
スペースの作り方や、本の置き方から、絵本をとても大事にされている小倉さんの気持ちが伝わってきます。
つづく ・・・4回連載 第2回「 2.本屋のお仕事」は3月9日UP予定です。
2014年11月 取材
文:吉田愛紀子
キャプション:編集A
※ 写真をクリックorタップするとキャプションとともに拡大写真がご覧いただけます。
※「スロウな本屋」は、2015年4月3日よりオープンします。
スロウな本屋
「ゆっくりを愉しむ」をテーマに、店主がセレクトした本を扱う小さな本屋。
OPEN 11:00~19:00
定休日 火曜日 ( 2015年 4月中は、金・土・日・月曜のみ営業 )
岡山市北区南方2-9-7 tel.086-207-2182
スロウな本屋WEBサイト http://slowbooks.jp/