第2回 4.本からはじまるなにか

2015.03.23

 

――いよいよオープン間近の「スロウな本屋」。

これはもちろん小倉さんの意志で実現したものながら、たくさんの人が参加して、みんなでつくり上げていくお店でもあるんですね。
実は私も先日、この取材の事前打ち合わせに来たはずが、気づいたら刷毛を持って本箱に柿渋を塗っていたという(笑)。

 

(笑)。初めて来てくださったのにね。
そのときはプレオープンの直前で、ほんとに猫の手も借りたいときだったので(笑)。

 

――それが私もすっごく楽しかったんですよ!

ひたすら単純作業に没頭する楽しさもあったし、初対面でちょっと緊張するところが、なぜか手を動かしながらだとすごく自然にお話ができて。

そうですよね。
私にとっては、単調な作業も、誰かとおしゃべりしながらだと不思議と手が動くんですよねー。

もしずっとひとりで作業していたら、つらくて絶対挫折してたと思います。
ほんと、たくさんの方が関わってくださったから、なんとかがんばれたんです。

 

――おもしろいなあと思うのが、実際の小倉さんは全然「ちゃっかり者」みたいな人でも「肝っ玉」的な人でもなくて、とっても知的で物静かな感じの方だということ。
みずから大きな声で発信しているわけではないのに、小倉さんがなにかやってるぞ、というだけで自然にみんなが集まってくるんですよね。

 

それはたぶんみんな「あまりに見かねて」ってことだと思いますよ~。
ほんと、バカですよ(笑)。軽い気持ちで改修をはじめちゃって、まさか自分でここまですることになるとは全然思ってなくて。

家の知識なんてなんにもないから、もう行き詰まってばかりだったんですよ。
だから周りの人は「どうしようもないな」って思って、手を出さざるを得ないのかも…(笑)。

 

――いや、それはほんとに小倉さんの一生懸命な気持ちが相手に伝わるから。
誰かになにか教わるときでも、相手にとっては「本気で聞いてくれてる」って思えるから、それ以上のものを教えてあげたくなるんじゃないでしょうか。

 

――さて、昨年11月には実験的に、1日限定のプレオープンを行いましたよね。
いかがでしたか?

 

ギリギリまで内装作業していて、棚作りは徹夜だったんですよ~!

細かな反省や改善点は山のようにありましたけど、でも、思いがけないほどたくさんの方に来ていただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。

プレオープンでは、ここのお隣にお店をオープンされる予定の「まみぱん」さんに、特別ゲストとしてベーグルの出張販売に来てもらったんですよ!

まみぱんさんのベーグル、無添加で手づくりされてて、ほんとにおいしいんですよ~。
この長屋の一番奥にはCafe Maruさんっていうカフェもあってね、Maruさんも私も、素敵な方がお隣さんに来てくれるということで、すごく楽しみにしているんです。

おいしい隣人ばかりで私、うれしくて(笑)。

 

――私も当日少しお邪魔しましたが、つい、ベーグル買って帰っちゃいました(笑)。おいしかったです!!

――当日は、次々にお客さまがやって来られて大盛況でしたよね!
皆さんそれぞれ小倉さんに声を掛け、お話されていましたけど、なにかお客さまからの言葉で印象に残ったものってありますか?

 

うーん、言葉っていうよりは…

プレオープンの日だけじゃなくて今までもそうなんですけど、
「私こういうことやってます」とか「今こんなこと習ってるんです」とかっていう、いろんな分野の知恵や技を持ってる人が集まってくれるんですよね。
それで、この場を介して、お客さん同士でコミュニケーションができて横につながっていくんですよ。
この日もたくさんそういうシーンがあったので、それがすごくいいなあと思いました。

 

――あぁ、その通りですねえ。

小倉さんが周りに「こうしましょう!」というよりも、小倉さんを引き金に、周りが自然に動きだしていく…そういう感じこそ、「スロウな本屋」らしさなのかもしれません。

 

もともと「スロウな本屋」をはじめるときから、人と本とモノとがつながる場所になれたらと密かに思っていたんですけど、お客さんのほうからいつの間にかそういう流れを作ってくださいましたね。

だからこの店も、本を並べるだけじゃなくて、ワークショップとか映画上映会とか、みんなでいろんなことをする場所にしたいんですよ。

 

――いいですね!
そう思ってたら、たぶんまたいろんな人が現れておもしろいことになるんでしょうねー。

そうそう。

この前はある友人が、山で伐採して出る竹の使いみちをあれこれ模索していると聞いて、うちの暖簾掛け用にきれいな細竹をお願いしてみたんです。
児島に住む別のある方は、家族が繊維会社をされていて、そこで出る端布を「雑巾にでも使って」って持ってきてくれてね。

その2人をつなげたら、竹と布で、いい感じのハタキができたんですよ。

 

――おお、まさにナイスコラボ。
余ったもの同士をくっつけて、役に立つものができるってうれしいですね。

 

そういうのも私にとってすごくおもしろくて。
これもワークショップにしてみんなでハタキ作りができたら、さらに広がっていきますよね。

もちろん絵本の会とか、本に関するイベントもやりますよ。

ワークショップについては、ほんとにいろんな技を持った方が周りにいるので、その人やその活動を、もっとたくさんの方に知っていただける場に この店がなれたらな、と思ってます。

――うわー、おもしろそう!
…もはや本屋の枠を超えてますね。

 

そう。自分でも何屋だろうって思う(笑)。

でも、本でもワークショップでも、誰かがここでちょっと経験したことが、その後のなにかアクションのきっかけになってくれたらいいなって。

本がすきな人にもいろいろいて、活字を追うこと自体がすきというのもあるだろうけど、それより私は、本を読むことの先にはじまっていくなにかを見たいと思うんです。

 

――あぁー。
読み終わるのがゴールじゃなくて、そこからはじまる…。ちょっと目からうろこというか、はたと気づかされました。

 

私の大好きな荒井良二さんという絵本作家の方が、ある講演会で、

「大人はすぐに『この本はなにがテーマで、どういう役に立つか』ということを求めがちなんだけど、絵本ってそういうものじゃなくて、子どものたくさんの引き出しの中身のひとつになればそれでいいんだ。
そして、いつかなにかのときに思い出して開けてもらえたらいいんだ。」

っておっしゃってたんです。

 

――うんうん。
よくできた知育絵本より、なんでもないお話のほうが、大人になっても覚えていたりしますよね。

うちでもね。
ペンキ塗りのお手伝いに来てくれた人の中に、仕事を辞めたばかりでちょっと自分探し中、みたいな方がいてね。
後日しばらくして「小倉さん、私、整理収納アドバイザーを目指すことにしました!」って報告してくれたんです。

なんでも、うちで壁を塗ったのがすごく楽しかったらしくて、そこから住まいに興味を持ちはじめて、
そうこうしているうちに、以前に「整理術」の本を読んで実践したときの気持ちよさを思い出したそうなんですよ。

私はそれがすごくおもしろいなあと思って。

たまたまうちで壁を塗った経験と、以前本を読んだ経験とが、後で結びついてアクションが起こったっていう。

 

――なるほど、そういうことなんですね。
そういう意味で、「本」ってすごくなにかのきっかけとなるものですよね。

 

そうなんです。

本を読んで感銘を受けたら、私もなにかやってみようって、ふつふつと気持ちが湧いてきますよね。
読んですぐにはなにもなくても、後で思わぬことから、その一節をハッと思い出して、なにかがひらめいたり。

本ってね、ゆっくり効くんです。

 

…私自身が世界を変えるとか、そんな大きなことはできないけど、ひとりひとりが本を読んでなにかに気づいて変わっていけば、もしかしたら世の中ももっといい方向に変わるかもしれない。

だから私は「スロウな本屋」を通じて、そんなきっかけづくりができたらなあって思うんです。

本で種まきするというかね。

――本の可能性って無限ですね!

本に魅せられて、それを伝えたいって小倉さんが日々奮闘する姿は、ついつい応援しちゃいたくなります。

で、応援しているうちに、自分も本の魅力に引き込まれている気がする…。
不思議で、素敵ですね!ああー、なんだかワクワクしてきました。

この先ここからどんなおもしろいことが起こっていくか、本当に楽しみにしています。

 

はい、がんばります!

 2014年11月 取材
文:吉田愛紀子
キャプション:編集A

※ 写真をクリックorタップするとキャプションとともに拡大写真がご覧いただけます。

 

※「スロウな本屋」は、2015年4月3日よりオープンします。

 

スロウな本屋

「ゆっくりを愉しむ」をテーマに、店主がセレクトした本を扱う小さな本屋。
OPEN 11:00~19:00
定休日 火曜日 ( 2015年 4月中は、金・土・日・月曜のみ営業 )
岡山市北区南方2-9-7 tel.086-207-2182

スロウな本屋WEBサイト http://slowbooks.jp/

http://slowbooks.exblog.jp/

 

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