椅子のこと調べてみよう 15 J.L.モラー ダイニングチェアNo75

2021.03.26

今回は友人が持っている椅子のことを調べてみました。
新居で使う椅子をインターネットで検索していたら、
「これだ!」と友人のアンテナにひっかかったものだそうです。

Google検索で「ダイニングチェア」と入力してみると、山ほど椅子の画像が出てきます。
その中から一つを選ぶとなると、相当大変な気がするけど…
これはもう“ひとめ惚れ”に近い感覚? そんな出会いもあるんだな、と
実物を見るのを楽しみにしていました。

その椅子は、デンマークの家具メーカーJ.L.モラー社の
ダイニングチェアNo75(1954年)です。

 

 

「J.L.モラー ダイニングチェアNo75」

 

 

 

デンマークの家具メーカー

 

デザインしたのは、ニールス・オット・モラー(1920~1982)。
ニールスは家具職人としての修業を終えた後、故郷で家具デザインを学び、
24歳のときにJ.L.モラー社を設立。クラフトマンシップを大切にしながら、
時代に合ったモダンなスタイルの家具を生み出していきます。

1952年にはドイツやアメリカへの輸出が行われるようになり、
日本にも1974年ごろから輸出されるようになりました。
もしかしたらレストランやホールなどで、J.L.モラー社の椅子を目にしているのかもしれません。

ニールスは1982年に他界しますが、息子が会社を継ぎ、
現在も堅実に家具製作を続けているそうです。

 

 

シンプルなデザインとコストダウン

 

J.L.モラー社の椅子の特徴は、シンプルなデザインと部材の少なさ。
部材が少なければコストダウンにもなりますし、組み立てるのも効率的。
J.L.モラー社のほとんどの椅子には脚をつなぐ部材「貫」がないのだそうです。
貫が入っているのは今回紹介するNo75くらい。それも、座面に近い箇所に施された細い貫です。

貫がないということは、
座面と脚の接合部をしっかり組み合せないといけないということ。
高い技術が必要です。

 

 

木のぬくもりを感じる

 

J.L.モラー社の椅子の特徴、もう一つは背もたれや接合部分に丸みを帯びていること。

このぽってりとした背もたれは、無垢材から丁寧に削り上げられたもの。
とにかく美しいです。そして、手触りがいい!(←特に強調)
すべすべした木肌が気持ちよくて、ついつい触ってしまう…。クセになります。

背もたれのカーブでしっかりと体を受け止めてくれるので、
安定感が半端ないです。

 

 

ペーパーコードの椅子

 

椅子の座面はペーパーコードでできています。
「椅子のこと調べてみよう6」で紹介したYチェアもそうでしたね。

ペーパーコードは、樹脂をたっぷり含ませたパルプ(紙)を3本ねじり合わせた紙ひものこと。
第一次世界大戦中に生産されるようになり、
当初は農作業で麦などを束ねる紐として扱われていたといいます。

戦争の影響で物資が不足していたとき、椅子の座面に使ったところ、
品質も均一で使用感も優れていたため、使われるようになったそうです。

ペーパーコードは、空気が通り抜けやすく通気性がよいので夏は涼しく、冬は暖かい。
また、きっちりと固く張ったペーパーコードは、
座るごとに座る人のお尻の形に合わせて変形していきます。
使い続けるうちに自分仕様になってくれるのは嬉しいところ。

そして、注目すべき点は丈夫さ。
張り替えの目安は大体10~15年といわれています。
ペーパーコードを張り替えれば、椅子の足が折れないかぎり、
ずっと使い続けることができる!

職人が手作業で仕上げていくペーパーコード編み。
座面をひっくり返してみると、ペーパーコードを引っ掛けるための釘が見えました。

障子やふすまに使われる和紙は世界一長持ちする紙といわれますが、
改めて、紙の力って素晴らしいなぁと思います。

 

 

おまけ「デンマークのこと」

 

今回の椅子を調べていくうち、私の中でヒットしたのがデンマークのことでした。
デンマークといえばコペンハーゲン、チボリ公園…という乏しい知識しかなかった私。

国土面積は九州ほどの大きさで、人口は約580万人。
ちょうど福岡県と佐賀県の人口を合わせたぐらい。

小さな国だけど各地に方言があり、
デンマーク西部のユトランド半島の言葉と、
コペンハーゲンを含む東部のシェラン島の言葉は、
イントネーションも含めていろいろな違いがあるとか。
そう、日本の関西弁と関東弁みたいに。(親近感アップ!)

そして、日本よりずいぶん北に位置しているので、
夏は天気がよいと快適で昼の時間も長いのですが、冬は暗くて長い夜が続くのだそう。
真冬は午後3時台には日が沈んでしまうというからびっくりです。                                                                     

人々は冬になると家の中で過ごすことが多くなり、
人との交流も自宅に招くことで行われることが多いため、外食やレジャーが少なくなるといいます。
だからこそ、「家時間」を有意義に楽しめるようにと、家具や照明器具、器など
暮らしを彩る優れたデザインのモノが生まれたのだそうです。

デンマークでデザインされたプロダクトの特徴は、まず機能や実用性を重視すること。
機能や性能が十分に発揮できるうえで、その能力を最大限に活かすデザインが施される。
そして、細部から全体のイメージにいたるまで、どこから見ても美しくあるように仕上げる。

アルネ・ヤコブセンのセブンチェア、
ハンス・J・ウェグナーのYチェア、
老舗家具メーカーのフリッツ・ハンセン、
今回のニールス・オット・モラー、
…椅子を調べているときに登場したデンマークのデザイナーとその作品を思い出しても、大いに納得!

私の中で、コロナ禍で家時間が多かったこの一年と、デンマークの冬が重なり、
デンマークでデザインされたモノに興味が湧いてきました。

うしろ姿もかわいい。

 

 

【参考文献】

坂本茂、西川栄明(2016)『Yチェアの秘密』誠文堂新光社
多田羅 景太(2019)『流れがわかる! デンマーク家具のデザイン史』誠文堂新光社
西川栄明、坂本茂(2020)『名作椅子の解体新書』誠文堂新光社

 

 

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