椅子のこと調べてみよう 7 父の椅子 男の椅子

2019.09.27

今年5月28日~6月9日に開催された
岡山の建築家、14組による展覧会「建築家のしごと6」。
ieto.me編集局で会場となる倉敷をぶらぶら巡っていたときのことです。

加計美術館「宮脇檀・手が考える」ドローイング展 巡回展in 岡山の会場で衝撃の一枚に遭遇しました。

【「宮脇檀・手が考える」ドローイング展 巡回展in 岡山 とは 】
2019年5月28日~6月9日、加計美術館にて開催。住宅建築のトップランナーとして活躍した宮脇檀(まゆみ)氏(1936-1998)の幅広い活動を物語る多くのスケッチや住宅作品、フリーハンドグラフィックスを原図で展示。デザイン・サーベイとして最初に手がけた倉敷の町並み調査(1966年)の原図も展示された。旅の達人であり美食家など生活を楽しむ天才であった宮脇氏の豊かな感性と、建築・家づくりに込められた真摯な思いが伝わってくる展覧会。

 

 

「父の椅子 男の椅子」

 


※「宮脇檀・手が考える」ドローイング展 巡回展in 岡山

 

 


※「宮脇檀・手が考える」ドローイング展 展示より

家の中にぎっしり詰め込まれている椅子のイラスト。
アリンコチェア、スツール60、Yチェア、ペリアンチェア…
調べたことのある椅子や本で見かける名作椅子の数々。

建築家・エッセイストの宮脇檀さんは、二十世紀名作椅子のコレクターだったのだそうです。
展示してあるスケッチ画の中にも、名作椅子がそこかしこに登場していました。

 


※「宮脇檀・手が考える」ドローイング展 展示より

手描きのスケッチはどれも味わい深く、
色はついてないのに、見ていると勝手に彩りを想像してしまうような、
そこにある“暮らし”が想像できるものばかり。

 

 

『父の椅子 男の椅子 (建築家宮脇檀・名作椅子コレクション) 』
宮脇彩 著/PHPエディターズ・グループ 刊

この本は宮脇檀さんの娘、宮脇彩(さい)さんが、父親の残した名作コレクションを通して、
在りし日の父との暮らしの思い出や、その生き方に貫かれた男の美学を綴ったエッセイです。

彩さん曰く「カッコイイ哲学を貫いていた父」。
椅子コレクションは最盛期には200脚もあったようですが、
大事なものだけと絞り込み、最終的に100脚が残ったそうです。

ゆっくりと朝刊を読むならこれ、日曜の昼下がりにごろごろしたいならこれ、
原稿を書くならこれ、ゆっくり考え事をするならこれ、
ちょっとした調べ物をする時にはこれ、
それぞれの椅子にはそれぞれの味と役割があり、
用途に応じて使い分けられていたといいます。

購入時のエピソードや彩さんと二人暮らしをしていたときの思い出、
彩さんが嫁ぐときのことなど、一つひとつに込められているストーリーが興味深いです。

中でも私が一番好きなのは、アアルトの「キッチン・スツール」の話。

日曜の昼、檀さんが特製ブランチを作って、眠っていた彩さんを起こしに来きます。
「昼だー! 飯だー! もうイイカゲンオキロー!」という父親の声。
パジャマのまま目を擦りながら出ていく眠そうな娘。部屋に漂う美味しそうな匂い。
どこの家庭にでもありそうな日常の一コマです。

テーブルの上のメイン・デッシュは
檀さんの大好物、ジャガイモをたっぷり使ったスパニッシュ・オムレツ。
ほかにトマトサラダ、具沢山のミネストローネ、アスパラガスのボイル、デザートの苺が並ぶ、
ゴージャスなメニュー!

料理は多忙な檀さんのストレス発散でもあったようです。
料理の腕はなかなかのもので、割烹やビストロに行けば、
カウンターに座って料理人の手元に注目し、新しいレパートリー開拓に余念がなかったとか。

木製の丸椅子に小さな背もたれがついているキッチン・スツール。
その椅子に腰をかけ、ジャガイモの皮を剥いたり、ビールと文庫本をお供にタマネギを炒めたり。
使っていた人の思い出とともにある椅子は何よりも素敵だなぁと思いました。

 


※「宮脇檀・手が考える」ドローイング展 展示より

「建築家のしごと6」会場では、お気に入りのキッチン・スツールに腰かけている宮脇檀さんのパネルが飾られていました。
スタッフの手作りだそうです。
その姿はやっぱり「カッコイイ!」

 

文:松田祥子

 

 

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