椅子のこと調べてみよう 8

2019.11.22

3年に1度開催される「瀬戸内国際芸術祭(以下瀬戸芸)」。
岡山にいるんだもの。いつか行ってみたい…と思ってきて、今年ようやく叶いました。

 

 

島旅がおもしろい

 

私は20年前、隠岐の島に3年間住んでいました。
ゆったりとした島時間。青だけじゃない透明な海の色。美しい夕焼け。
島暮らしは楽しかったけど、ただ一つ。本土がとても遠かった。

住んでいた島(島後)から本土に渡るのに、夏は高速船で1時間半、他の季節はフェリーで3時間半(もしくは5時間)かかりました。
とにかく遠い。日帰りなんてとんでもない。

4mの荒波でフェリーに乗った苦い思い出もあり、「船&島旅」に戸惑っていましたが…

瀬戸内海の島旅は、新たな扉を開いてくれたのです。
なんといっても島が近い。すぐそこにある! 波もおだやか。
船に乗るだけで「旅人」気分を味わえるし、日帰りはもちろん、島をはしごすることもできてしまう。
おもしろいぞ、瀬戸内海。

島旅に魅せられ、春に犬島、秋は豊島と直島に行きました。
さて、次はどこに行こうかしら…と調べていた時に目に入った1枚の写真。

苔玉ならぬ苔エッグチェア。
瀬戸芸の会場である本島(ほんじま)の「フリッツ・ハンセン庵」の紹介でした。

フリッツ・ハンセンはデンマークの老舗メーカー。
アルネ・ヤコブセンがアントチェアの原案を持ち込んだ会社です。

【フリッツ・ハンセン社】
1872年に創業した当時は、チェア用のろくろ脚や木製家具の装飾部品を製造していました。
フリッツと息子のクリスチャンは品質水準を高め、成形合板による家具の生産や、デンマーク初のスチール製家具を発表するなど、伝統的な家具づくりからモダンな家具メーカーへと転身。
約150年の歴史でベストセラーはセブンチェア(1955年)。今もなお、シンプルかつミニマル、デザインと機能が統合された長く愛される家具づくりが行われています。

その、本物の苔エッグチェアを見てみたい!
というわけで、いざ本島へ。
今回はその旅レポートと「エッグチェア」(1958年)の話です。

 

 

 

 

塩飽水軍の本拠地だった本島

 

本島は岡山県側からは児島観光港(倉敷市)から船で30分。
瀬戸大橋の下をくぐってたどり着きます。

本島は戦国時代には塩飽(しわく)水軍の本拠地、江戸時代には海上交通の要衝として栄えた島。
笠島地区には千本格子窓の立派な家や漆喰塗りの白壁、なまこ壁の蔵がある町並みが続きます。

造船技術の流れをくむ塩飽大工が手掛けた日本家屋が美しい状態で保存されていて、路地を歩くのが楽しい。
路地を抜けると青い海が広がっています。

 

 

卵の殻に包まれたくつろぎ空間

 

そんな笠島地区の古民家をリノベーションしてつくられたのが「フリッツ・ハンセン庵」です。
手掛けたのは香川県丸亀市の北欧インテリアショップ「CONNECT(コネクト)」。

玄関前にある苔エッグチェアが出迎えてくれます。
靴を脱いで上がると、本物のエッグチェアがどんっと目の前に。
名前の通り、卵の形をした椅子。

アルネ・ヤコブセンが4年の歳月をかけて設計し、1960年に完成したコペンハーゲンのSASロイヤルホテル。そのロビーに置かれる椅子としてデザインされたものです。

それまで家具には使われていなかった発砲ウレタンを使い、すべてが一体化したシェル構造で、腰掛けると身体が包み込まれ、外部の雑音をシャットアウト!
360度回転するので、くるりと向きを変えることで移動せずに自分の世界に浸ることができます。

間近で見るエッグチェアは、背もたれの部分が大きくて存在感がありますが、足回りはすっきり。
狭い場所でもおさまりがいい。

エッグチェアに座ってみました。
すっぽりと身体が包まれて、確かに個室感たっぷり。
澄み渡る青空を眺めながら、しばらくぼぉーっと。
ひんやりとした風が通り抜けていき、空っぽになった時間でした。

 

 

日本家屋×北欧家具の妙

 

近くにあったドロップチェア(1959年)。しずく型のフォルムが可愛らしい。
エッグチェアと同じくSASロイヤルホテルのためだけにデザイン、製造された椅子です。
2014年から一般市場で発売が始まったそうです。

150年前に建てられた日本家屋と北欧家具の組み合わせは、驚くほどしっくり馴染んでいて、落ち着ける空間になっていました。
フリッツ・ハンセン庵は瀬戸芸が終わっても12月末までは無料休憩所として利用できるとのことです。

 

 

北欧家具を楽しむカフェ

 

本島港近くには、「CONNECT」が手掛けるカフェ「Honjima Stand(本島スタンド)」があります。
店の中にずらりと並んでいた椅子は「NO1(エヌゼロワン)」(2018年)。
昨年発表されたばかりの木製アームチェア。
デザインを手掛けたのは、日本のデザインスタジオ「nendo(ネンド)」です。

セブンチェアに使われている成型合板の技術を生かした3次元カーブ、
安定感のある背もたれ、小さなダイニングスペースにもコンパクトに収まるアーム部分。
店内には椅子を分解したパーツが展示されていて、思わず見入ってしまいました。

前回紹介した「キッチン・スツール」も発見。
座ってはおりて、また座ってはおりて…頭の中で使い勝手をシミュレーションしてみたりして。
港が目の前なので、船の待ち時間に立ち寄るのがおすすめです。

 

 

おまけ「本島の景色をおすそ分け」

 

本島港についてからレンタサイクルで島を巡りました。
近くに見える瀬戸大橋。色鮮やかな花や植物。港周辺で出会った小さな猫。
潮風を受けながらのサイクリングは最高に気持ちよかった。

瀬戸内海のいくつかの島に渡りましたが、
それぞれ景色も空気感もまったく違っていて、十島十色。
次はどの島に行ってみようかな。
瀬戸芸が終わっても、島旅はしばらく続きそうです。

 

【参考文献】

和田菜穂子(2010)『アルネ・ヤコブセン 時代を超えた造形美』学芸出版社

 

★「CONNECT」のHPです
https://www.connect-d.com/

 

 

ピックアップ記事

関連記事一覧