照明も調べてみよう 2 PH5

2022.01.28

 

今回は岡山市にある定食屋さん「キッチンほりぐち」にある照明を調べてみました。

 

 

PH5

 

 

 

 

照明の名前は「PH5(ピーエイチファイブ)」。
1958年に発売され、60年以上過ぎた現在も雑誌やテレビで取り上げられる不朽の名作です。
キッチンほりぐちのオーナーシェフは、店舗を設計してくれた建築家に勧められて購入。
実物を見るため東京のショールームまで足を運んだのだとか。

 

 

 

■ 名作を残した近代照明の父

 

デザインしたのはデンマーク生まれのポール・ヘニングセン(1894~1967)です。
『ストーリーのある50の名作照明案内』では、照明の歴史を変えたデザイナーとして紹介されていました。

 

産業革命以降、家具の歴史を変えたデザイナーとして、ミヒャエル・トーネットがいる。
では、照明では誰か、と問われれば、デンマークのポール・ヘニングセンと答える。

 

建築家としてキャリアをスタートしたヘニングセンですが、1920年ごろから興味が照明に移っていきます。1924年からはデンマークの照明ブランド・ルイスポールセン社との協働をスタート。どんな照明が人々に心地よいかという理論と理想の照明を追求し、北欧を代表する照明を100種類以上も生み出しました。
また、多才であったヘニングセンはジャーナリストや作家としても活躍し、ルイスポールセン社の広報誌「NYT」の編集長を務めています。

 

 

■ 数字の意味

 

ヘニングセンは3枚シェードのPHランプの開発に着手し、1927年PH5のもとになった「PH3/2」を発表しました。名前にある「PH」はポール・ヘニングセンの頭文字。その後にくる数字はシェードの直径を表しています。例えば、PH5は直径50㎝、PH3は30㎝のシェードという意味。

PH3/2の場合は、前半の数字がメインシェード(一番上のシェード)の直径サイズ30㎝、後ろの数字が構成原理に従ったミドルシェード(真ん中)とボトムシェード(一番下のシェード)の組み合わせを表しているのだそうです。構成原理とは光を効率よく拡散・反射するためヘニングセンが導き出したシェードサイズの組み合わせのこと。ちなみに分数ではないので、「/」を「の」と読みます。PH3/2の読み方は「ピーエイチサンノニ」です。

3枚シェードのPHシリーズは「PH2/1」、「PH3/2」、「PH3 1/2-3」…といった暗号のような名前が付けられていてややこしいのですが、数字が大きくなるほどシェードのサイズが大きくなる!ということでした。(ざっくりしすぎる理解ですが…)

 

 

■ 計算され尽くした灯り

 

PHランプの最大の特徴は、ずばり「まぶしくない光」です。
ヘニングセンが照明をデザインする際に一番気を遣ったのは、絶対に「グレア」を出さないことでした。

グレアとは光源などを直接見たときのまぶしさのこと。
本来、照明の担う役割は空間やモノを照らし出すところにあるのですが、グレアが起こるとモノや空間がきちんと見えなくなってしまうのです。とすると、グレアを出さないために光源を単純に囲ってしまえばよいのでは…と思いますが、そうすると光の効率が悪くなり、必要な明るさが得にくくなります。

そこで、ヒントにしたのが「対数螺旋(たいすうらせん)」でした。
対数螺旋とはアンモナイトやオウム貝の殻、ヒマワリの種の配列など自然界にみられる形状で、バチカン美術館やサグラダ・ファミリアの螺旋階段など人工物にも応用されています。

 

PHランプのシェードは対数螺旋の曲線にそって形取られています。上部の光源が37度の角度でシェードに光が当たり、同じく37度の角度で下方へ反射、拡散されて届くように設計。シェード内のどの部分にも光が一定の角度でまんべんなくあたることで、光源のまぶしさの抑えられた優しい光へと調律しているのです。
しかも、シェードの内部は赤と青で採色されていて、白熱球の光を中和するように計算されているのでした。

オーナーシェフの承諾を得てランプの内部を見せてもらいました

 

中の電球の部分。シェードはクルリと回せば簡単に取り外せます。

 

対流螺旋の曲線になぞって描かれたシェード部分。

 

シェードを上から撮影。真ん中の赤色が鮮やか。

 

逆さまにして撮影。爽やかな青色が見えます。

 

中心部分のアップ。シェードの隙間から光源が見えないように設計され、不快なまぶしさを取り除いている。

 

 

■ 黄昏時の空の光

 

PH5は「黄昏時の空の光」とも表現されます。
ギラギラした太陽が山影に沈むと、一気に目の緊張がゆるみます。そして、真っ赤な太陽と空の青色が混じり合った紫がかった夕暮れの空は、なんともいえない心の安らぎを与えてくれます。
自宅(マンション)から見えた夕陽と沈んだ後の空を撮影してみました。

 

 

電球(光源)が太陽だとすれば、外側のどこから見ても電球が見えないPH5は沈んでいく夕陽を再現しているとか。その灯りは空が美しい色に染まるマジックアワーの色味。
マジックアワーといえば、以前訪れたことのある鞆の浦で見た夕暮れの空が印象的でした。

 

足を止めてずっと眺めていたいくらい美しかった。
そう思って、PH5をじっと眺めてみると、中心部分の紫がかった部分が夕暮れの空の色に見えてきます。

 

ルイスポールセン社はテーブルから60~65cmの位置に吊り下げることを推奨しています。
手元をしっかりと照らしてくれるだけでなく、座った人は明るく健康的に見え、料理はよりキラキラと美味しそうに見えるのだそうです。

 

今日も美味しい笑顔でいっぱいのキッチンほりぐち。
何度か食事に行ったのですが、人気店でいつも満席のためPH5下のカウンターで食事をしたことはありません。いつかはあの席で!と思いめぐらせながら足を運んでいます。

 

 

 

● おまけ ●

 

一番人気の唐揚げ定食。衣がパリッ、中はジュワッと。
野菜の甘みが溶け込んでいる味噌汁も美味しいし、てんこ盛りのサラダも嬉しい。
もりもり元気が湧いてくるご飯、ごちそうさまでした。

 

 

 

【参考文献】

萩原健太郎(2019)『ストーリーのある50の名作照明案内』スペースシャワーネットワーク
北欧スタイル編集部(2005)『北欧スタイルNo.8』枻出版社

 

 

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