第4回 4.「めっちゃおいしい!」を作りたくて
2015.10.26
――オープンして1年を迎えたカフェ「Grid Kitchen(グリッドキッチン)」。オーナーの祥津子さん、この1年いかがでしたか?
さっちゃん: 私としては、本当にごはんが作れるだけで満足! ただただ、ごはんが作れて、それを食べて「おいしい!」と言ってくださることがありがたくてうれしいです。
グリッドキッチンは、農家さんが作った旬の食材を大事にしながら、私なりに料理を作るラボラトリーだと思ってるんです。
――ほぉ、ラボラトリーって研究所とか実験室のことですよね。
さっちゃん:そんな感じです。農家さんから新鮮な食材が届いて、さて、目の前の食材をどんな風に料理しよう?って。 新たな料理をどんどん作りたいです。
――チャレンジャー? そういえば、いろんな料理コンテストに応募してましたね。
さっちゃん:それ、趣味だったんですよ。もともと1つのことにのめり込むタイプじゃないので、完成したらそれがゴールで、次また新たに作りたいと思う。本当に私、レシピがないんで…。
――えっと、レシピってないんですか?
さっちゃん:そうなんです。大きなレシピはあっても、大さじ1は絶対じゃないと思っているので、毎回食べて、その時々で味を寄せていって。
――寄せていく、というのは、完成に近づけていくという感覚?
まりちゃん:そうそう、さっちゃんって目星がええんよな。
さっちゃん:目標とする味にもっていきたかったとしたら、2、3回で「来たな!」ってことになるんです。
コンテストのときに、試作貧乏ってくらい試作した経験も今に活きていると思うし、オルト・デリ時代には、農家さんから小さすぎたりとか、タヌキに食べられたとかで売ることができない野菜をたくさんもらうことが多くあったんですよね。
そういった食材を無駄にしないよう策を練らなきゃいけないから、ああ寄せたらこういう味かな、この食感がきたらいいな、といつも考えてたら、自然と理想形に近づけるようになって…
――その「これ!」という味の理想形って出てくるものなんですか?
さっちゃん:感覚なんですけどね。香ばしい香りを加えたいとか、色と食感、見た目と。私って基本イメージ先行型なんですよ。
デザイン科だったからか、カラーリングとかが好きなので、ここには赤がもっていきたいとか、そういうところと…
――おぉ、そこでデザインが活きてくるんですね。
さっちゃん:あぁ、出てきてますね(笑)。あと、材料として野菜を使うんですけど、テクスチャーも好きなので、食感なり、酸味なり、甘みっていうのがここにほしいなっていうのが出てくるんです。
ただ、それも、毎日同じ味にはできないです。私は家庭料理を作る「お母さん」をやっていて、食べながら作っているところが大きいから。
――なるほど。お母さんのように目の前にある食材を余すことなく使いながら、味を調えていく…。
さっちゃん:そう、人間と同じように、ナスも1本1本味が違うし、昨日と今日では味が違うから、毎日決まった味はできないんです。
まぁ、もともと毎日一緒にしなきゃいけないと思ってないから、今日のハヤシもおいしいな♪ 昨日のハヤシもおいしかったな♪ って(笑)。
まりちゃん:あぁ、よく言ってる。今日のハヤシの方がすっぱいな♪ってのもよくある(笑)。
――(爆笑)。
さっちゃん:今、定食につけている副菜も、その時期に入ってきた食材で毎回違うんですよ。マヨネーズ味とか酸っぱい味、醤油の味、塩の味、いろんなバランスで副菜は作っているんですけど。
今日の梅味はオクラだったけど、明日の梅味はゴーヤになることもあるし、白和えにゴーヤが入るんだねってびっくりされることもあります。でも、私の中では全然有りなんです。
みんながハヤシライスには入れないような野菜を私は入れたりするらしくて…。
私の中ではゴボウの役目は、甘さ・コク担当というようにゴボウさんの性格があって、ゴーヤさんはノーマルな中に苦味のピリッとしたのが欲しいときに使うし、オクラさんにはこういう役目よねっていうのがあるので…
――ふふふ。野菜に「さん」付けってかわいいですね。さっちゃんの野菜に対する愛を感じます!
まりちゃん:さっちゃん、食材にだけは優しいんですよ。食材使っているときが一番キラキラしているんですよ。
さっちゃん:レンコンさんの役目も、私が勝手にレンコンさんに押し付けているだけなんですけど…。
そうそう、7月から新レンコンが出まわってきて、出たてのレンコンって本当にホクホクなんですよ。
まりちゃん:そうじゃ、新レンコンが入ったときのテンションの上がりようといったら…(笑)
さっちゃん:真っ白なんですよ。
やっぱり、4、5月ごろのレンコンって固いんですよね。筋張っていて。
だから、7月になって、やったー、またレンコンがおいしい時期がやってきたー!と思ったら、レンコン何に使おう?とうれしくて、うれしくて。
さっちゃん:10月ぐらいは新大豆が出てくるんです。そしたら、ぷりっぷりの濁らない新大豆が茹で上がるんですよ。
やっぱり、「新」に勝つものはないです。新米に勝てるものはないようなもので(笑)。
その時期に、その食材が使える喜びってあるんですよね。
――うわー。ちょっと話を聞いただけでも白いレンコンやぷりっぷりの大豆が目に浮かぶようで…。
本当においしそうに、うれしそうに話すさっちゃんの姿が印象的です。
まりちゃん:(ぽつりと)新米出んかな…。
――(爆笑)。
まりちゃん:それにしても、このグリッドキッチン、本当によくもらうよな、いろんなもの(笑)。食材の採れ時期が一緒になるから、ものすごい量がきたりするんです。
さっちゃん:そう、オルトデリ時代から、私に渡したら何とかしてくれる、困ったものを渡すと何かに変えてくれると思われていて…
――おぉ、農家さんたちに頼られてるんですね。今年はどんなもらいものが?
さっちゃん:カボチャもくるし、桃、びわなどなど。普通の家庭では消費しきれないから、「お店で使ってー!」って。
まりちゃん:あと、さっちゃんが「梅買ってきた!」という梅の量が半端じゃない量だったり。
――(笑)。例えば桃が大量にきたらどうするんですか?
さっちゃん:その農家さんが大事に育てていること、そういった想いを知っているので、せっかくだから、それを伝えたいなと思って農家さんの名前をつけてメニューに載せて、ジュースで出したりしています。本当にどれもおいしいんです。
――お店の棚に並んでいる果物や野菜の瓶詰めは、そういったもらいものたち?
まりちゃん:買ったものもあるし、いただいたものもあるし…。冷蔵庫に入らなかったものたちですね。
さっちゃん:日本は湿気が多くて保存には向いてないんです。だから、どれも保存中に発酵しちゃうんですよ。それを防ぐには冷蔵庫に入れなくちゃいけないんだけど、冷蔵庫の規模が間に合わないぐらい食材がやってくるので、脱気して棚に出していますけど、まだ同じくらい冷蔵庫に入ってるんです。
――へぇー、すごい量だ…。
さっちゃん:それも加工技術があれば出しておける、という勉強になってますね、日々。
まりちゃん:この前はブラックベリーもらったしなぁ。
さっちゃん:さて、次はこれを何にするかな?っていうミーティングから始まるわけです。めちゃくちゃありがたい話です。
――そうですね。グリッドキッチンがある!って、思い出してくれるということですもんね。
さっちゃん:物々交換(笑)。ご近所さんがいっぱいいる、みたいな。
まりちゃん:そうそう、春になったら桜の木がきたり。
さっちゃん:よく来てくださるお客さまから、飾っといたらいいと思う!って、枝とかじゃないんですよ。木が…。
――えー、木が?
まりちゃん:結構な枝ぶりで。
さっちゃん:そうなんです。りっぱなのがバンバンきて、ここで桜見ながらコーヒーが飲めたらいいと思ってくれたみたいで。
まりちゃん:いい花見ができたね。ありがたいね。
――カフェのメニューはさっちゃんが?
さっちゃん:みんなでも考えるんだけど、だいたい発端は私ですね。あれやる、これやる。オーナーの権限で好きなことさせてもらってます。
まりちゃん:この夏、ハヤシライスをメニューに出したら、ホント楽しそうだったもんなぁ。
もう何日もハヤシ作っとんのに、ある日さっちゃんが「ハヤシ作るん、楽しいよな~」としみじみ言ってきて、そりゃ、よかったなー!って(笑)。
さっちゃん:そうなんよ。ハヤシの違う角度が見えてきて…。
――おぉ、何か発見があったんですか?
さっちゃん:そうそう、夏っぽいハヤシの顔が見えてきたんです。
今までのハヤシにはキノコとかゴボウとか重い野菜を入れてたから、冬っぽいイメージだったのが、夏の野菜も合うってのが見えてきて、夏ハヤシいいなぁ~と。
――カレーじゃなくて、ハヤシ?
まりちゃん:そう、夏にハヤシライス。そして、夏にパウンドケーキ!
――パウンドケーキもイメージは秋冬ですよね…。
まりちゃん:さっちゃんが「私はな、冷たいパウンドケーキが好きなんじゃー」って言い出して、「暑いのにパウンドケーキやこ、誰も食べとーねーって」と言って大反対したんだけど…
さっちゃん:「でもな、私は冷たいのが好きなんじゃー」と譲らず…
――あははは(笑)。で、結局やることに?
まりちゃん:オーナーの特権で(笑)。でも、それがめっちゃおいしい。
さっちゃん:じゃろ?
まりちゃん:8月にメニューで出してたんですけど、めっちゃおいしかったんです。
さっちゃん:前にも言ったけど、餅は餅屋さんっ!と思ってるんで、カフェのごはんについては私が好きなことさせてもらうけど、コーヒーはまりちゃんがやりたいことを表現すればいいと思っていて。
うちのコーヒーを使うレシピは、まりちゃんが出したい味のコーヒーを作ってもらっています。それを店で出して、おいしいと思う人に豆を買ってもらえればうれしいです。
まりちゃん:最高じゃな。
さっちゃん:じゃろ(笑)。
――じゃあ、さっちゃんも、まりちゃんも実現したかったことが今、叶っている状態ですか?
さっちゃん:やりたいことまだまだいっぱいあるんですけど、なんせ体は一つだし(笑)、自分のキャパも把握しているので、今のところ1番いいポジションで、この営業時間で、その範囲で、やれる料理をやっていて、それを喜んできてくださるお客さんがいて幸せだなあと感謝してます。
――じゃあ、今後また変化するときがくるかもしれない?
さっちゃん:そうですね。今のスタンスは続けていきたいけど、私自身、変わることを拒まないタイプなので。環境ってどんどん変わるじゃないですか。だから、変わらないでつまんなくいるよりは、変えて楽しくした方がいいから。
まりちゃん:(きっぱりと)私も好きな豆を焼いていきます!
さっちゃん:まりちゃんは、最終的には飲食もやりたいって言ってたから、自分のハコが持てたらっていうところかな。
まりちゃん:そうじゃな、最終的には喫茶店するかな。
――カフェオーナーになっていくんですね。
さっちゃん:で、私がお客で来て、「まりちゃん、今日はブラジル~」って。
まりちゃん:「今日はありませーん」って(笑)。
さっちゃん:「え~!じゃ、グァテマラ」。
――(笑)。それもまた、楽しそうですね。
まりちゃん:「今日のブラジルは、こないだよりも深いよ」って。
さっちゃん:そういう私は、お店をやってないかもしれないからな。山に住んでて、山から下りてきたとき、まりちゃんのところでコーヒー飲んでるかも(笑)。
まりちゃん:「今日も下りてきたねー」って。でも、私もゆっくり起きて、昼寝もせんといけんし、営業は13時~17時にしようかな。
さっちゃん:しっかり寝んと、湯が中心に定まらんけぇな。
まりちゃん:じゃあ、山から下りてきたら13時以降にお願いします。
さっちゃん:分かった。でもコーヒーが飲みたくなったら、営業時間外でも「淹れてー」って押しかける(笑)。
――(爆笑)。2人の掛け合い漫才のようなやりとりにお腹を抱えながら、楽しい時間を過ごしました。
今度はさっちゃんのごはん、まりちゃんのコーヒーをゆっくり味わいに来ますね。
本当に今日はありがとうございました。
2015年8月 取材
文:松田祥子
キャプション:編集A
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◆ Grid Kitchen グリッドキッチン http://grid-kitchen.tumblr.com/
TEL 0863-53-9266/営業時間 11:00~18:00/定休日 火・水曜
◆ 31coffee サイコーヒー http://31coffee.tumblr.com/
TEL 080-1941-7331/営業時間 11:00~18:00/定休日 火・水曜
◆ Anchor Space 45 アンカースペース45
TEL 090-4699-5438(大月)/営業時間 11:00~18:00(ご相談承ります)/定休日 火・水曜
岡山県玉野市八浜町見石字田畠883-50
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