第7回 1.秘密基地のような工場

2016.07.04

 

 

 

〈まずは、「仕事の顏」からということで、永野さんの仕事場へ向かいました。道路を走っていると、ひときわ目に入るピンクの扉。2年前に移転した「むくもくKAGU」の工場です。前には薪が高く積み上げられていて、入り口横には小さなプランターが2個。「むくもくガーデン」と名付けられ、ズッキーニとバジルがすくすく育っていました〉

 

――:この薪、すごい量ですね。

 

永野さん:前はストーブ用の薪を集めるのに苦労してたんだけど、最近は自然に集まってくるようになって。欲しい人がよく来るんですよ。

 

 

編集:そうそう、車好きと一緒で、あそこに薪があるよって自然と伝わっていくのかも。私が最初に永野さんを知ったのは車でしたよね。もう15年くらい前に、たまたま通りがかったところに変な車があって。

 

〈そうなんです。永野さんと編集スタッフは車の趣味を通しての友人同士なのだそうで。〉

 

――:変って…(笑)。当時乗っていた車というのは?

 

永野さん:フランス・ルノーのエクスプレスで、顔はサンク(ルノー5)。

 

――:どんな車なんですか?

 

編集:車の前半分だけ別の車のものを付けてるんです。例えばトヨタだったら、前はレビンで後ろはトレノ…わからないか(笑)。いわゆるニコイチです。

 

永野さん:エクスプレスもサンクも、型が一緒だからかぱっとはまるんです。見た目きれいだから一般の人は分からないんだけど…

 

編集:マニアが見たら分かる(笑)。注目の的でしたよ。しかも、庭には部品取り車が転がってるし。

 

〈というわけで、しばらくなつかしの車談議が続きました(笑)。〉

 

 

 

――:この工場には2年前に引っ越してきたと聞きましたが。

 

永野さん:そうです。以前の工場から平成26年4月に引っ越しました。好きなようにしていいといわれているので、そういう意味では自由にさせてもらっています。

 

――:ピンク色の扉って目立ちますね。

 

永野さん:最初からピンクがいいなとは思ってたんです。グレーとピンクは合うから。でも、ピンクもいろいろあるから、工場の写真を撮って、パソコン上で扉の部分だけくりぬいて色を当てはめて…。これが合う、これが合わないって、決めるまでには何ヶ月もかかりましたね。

 

〈入口から中に入ると、スタッフさんが作業中でした。今は店舗用の什器を製作しているそうです。これまでオーダー家具の他に、雑貨と本の店「Fabrique451」(2016年3月閉店)・「クワイエットビレッジ」のカウンターや什器、そして、将来は赤磐に小さなパン屋を開店予定の「BAYAPAN(バヤパン)」の店舗(まだまだ準備中)など手掛けた むくもくKAGU。街中で見かけたお店は実はむくもくKAGUの仕事だったということがあるかもしれませんね。〉

 

 

〈工場の中は初めて見るようなモノがたくさん。壁に立てかけられている大きなハシゴやぶら下がっている道具を見ていると、秘密基地に迷い込んだみたいな気持ちになってきて、ちょっとワクワク…〉

 

――:木工の機械は大掛かりだし、工具も多くて、引越しが大変そう。何をどこに置くか、すべて自分で決めていくんですよね。

 

永野さん:そうですね、機械を置く位置ですべてが決まるというか、出入り口に制約があったり、機械によっては周り4㍍以上を開けていないといけなかったり、考えながら配置しないといけないんです。1回置いたら動かせないし、ものすごく悩んで、悩んで。でも、仕事もあるから、走りながらって感じだったかな。切羽詰まって、次から次へと。まぁ、お尻叩かれる方がやるタイプなので(笑)。

 

だから、楽しむしかないと思って、屋根以外は自分らで使いやすいように工夫してきました。入り口の資材置き場も雨がかからないようにしたり。

 

――:壁面の棚には道具や部品が高く積み上げられていますが、それぞれきっちりと収まってますね。ディスカウントストアの商品みたい。

 

 

永野さん:置くものが分かっていたから、それに合わせて棚を作りました。棚は薄いほうが取り出しやすいんですよ。壁面に並んでいると、何がどこにあるかすぐ分かるから在庫管理も楽チンだし。

 

――:なるほど。あそこは鏡になっているんですか?

 

永野さん:トリマーの刃が見えるように。鏡にしておくと一目で分かるじゃないですか。先の形がみんな違うので、

1回ですっと手に取れるから。

 

――:すごい。よく考えてある!

 

 

永野さん:一般の人はなかなかこういった場所に来ることがないだろうから、たぶんどこの工場に行っても、それぞれに特色があって面白いんじゃないかなと思います。

 

 

〈機械音の合い間には、軽快なDJと音楽が流れています〉

 

――:これはラジオですか?

 

永野さん:そう、インターネットラジオ。日本中のラジオが聞けるんです。古いi Phoneを総合電動工具メーカー・マキタのラジオにつないでいます。

 

――:かわいい!

 

 

永野さん:これ、人気があってね、雨でも大丈夫だし、現場ってホコリがすごいでしょ。防塵にもなってる、「現場ラジオ」っていうんです。

 

――:現場ラジオ? そんなのがあるんですね。知らなかった。

 

永野さん:すごく音がいいんですよ。こういうところに置いていても、全然うるさくないんです。

 

――:あそこ、上の方で羽のようなものがファンファンしてるあれは?

 

永野さん:あれはね、風向きがどっちに来ているかを確認するためのものです。今は風がこっちに入ってきているからいいんだけど、風向きが逆だったり止まっているときは扇風機を回して空気を逃がすんです。暑いときはこの工場、本当に暑くなるんですよ。

 

 

――:風を読む! 知恵だなぁ。あの窓は開けたんですか?

 

永野さん:開けました。あまりにも暑すぎて(笑)。

 

――:ここは冬の寒さもきっと厳しいんでしょうね。

 

永野さん:冬はこのストーブ。ちょうどいい大きさのがなかなかなくて。でも、この可愛さだったらいいかなと思って。

 

――:かわいい形!

 

永野さん:北海道を走る汽車の中で昔使われていたストーブなんです。今は使われてないんだけど、もともとは石炭ストーブで、鋳造していたところが木型を捨てるから、というのを北海道の木型屋さんがもらい受け、直して再生産しているんです。本物の型を使っているから、今の煙突の太さと微妙に違うんですよ。だから、それ用の変換煙突でつないで使ってます。

 

 

 

――:燃料は石炭なんですか?

 

永野さん:うちは薪ストーブとして使ってます。まぁ、小さいから早く燃えちゃうけど。

 

――:見たこともないストーブ。どうしてこれにいきついたのか知りたいです。

 

永野さん:普通だったらダルマストーブを買うんですよ。それじゃあ、なんか、おもしろくないなあと思って探したんです。とにかく、探して、探して(笑)。そしたら、たまたまネット画像でこれが出てきたんです。

 

――:ほぉ~。

 

永野さん:その時点では名前も何も分からない。何かヒントがないかな、と思って探していたら、たまたま生産しているところを見つけて。北海道にあったんです。

 

――:すごい。たどりついちゃったんですね。

 

永野さん:あの箱に入ってきたんです。

 

――:箱もかわいい!

 

永野さん:本業が木型屋さんで、ストーブは趣味でやっているみたい。かなりこだわりがある人で、ブログも面白いんですよ。会ってみたいんだけど…北海道だからなぁ。

 

 

――:工場の中にはデザインのステキなもの、かわいらしいものがありますが、そういう情報はどこで仕入れるんですか?

 

永野さん:マキタの道具を使うから道具のカタログを見ると、いろいろ載っていたり、あとは年に何回か金物屋さんで工具の展示会があるからそれに行ったり。あとは自分の好きなもの、本とか、ブログとか、かな。面白そうな人のブログをチェックしていて見つけるんです。車好きな人とか、自転車好きな人とか、バイク好きな人とか。

 

――:入口はそこなんですね(笑)。

 

永野さん:ブログをいろいろ見てると、だいたいこの人、自分と系統が似てるなぁとか分かってくるので、そこから情報を仕入れてます。

 

――:楽しく仕事をするために工夫しているんですね。

 

永野さん:自分が好きなものに囲まれていたいってのが一番の理由かな。

 

 

つづく・・・4回連載 第2回「2.バイクと自転車とプリネンコ」は7月11日UP予定です。

2016年6月 取材
文:松田祥子
キャプション:編集A

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岡山を中心に活動しているオーダー家具製作むくもくKAGU。
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