第11回 2.木鳩家の姉妹
2017.09.18
※ 2017年に取材・公開の記事です。
木鳩屋さんは2022年7月より、倉敷市児島稗田町に移転しました。
現在、焼き菓子の店で、カフェ営業はしていません。
詳しくは、木鳩屋さんのインスタグラム @kobatoyakigashi をご覧ください。
【木鳩屋に行くには、お話に出て来た『森池』を目当てにするのが良いです。途中で、鳥居をくぐります。…ん、鳥居? 奥山伸子さんに聞いてみると、木鳩屋の前を通る道は、倉敷市児島の由加山の参道のひとつなんだそうです。江戸時代から多くの人が通った道なのでしょう。さて、お話は旦那さんの貴之さんの工房にお邪魔したところから。工房は以前、織物の工場だった、大きな建物です】
――:工房にしている建物は、元からあったんですね。
貴之さん:このあたりは織機の工場が多くて、これもそのひとつです。
――:木工をやるのにうってつけの場所が見つかったんですね。
貴之さん:奇跡的に。
――:道具がきれいに並んでいますね。あ、あれが新しく導入された…
貴之さん:スポットクーラーです。ここ、夏は40℃を越えるんです。
――:冬は寒くなるんですか。
貴之さん:寒いですね。
編集:小さくてかわいいストーブがありますね。
貴之さん:キャンプ用のかまどで、持ち運べるんです。
伸子さん:夏もなんですけど、去年の冬、寒すぎてこの人、死ぬかもと思って(笑)。気分的にも火の気がないより、はね。
貴之さん:買ってもらった時、小物ばかりやっていた時で、燃料にする木っ端があまり出なくて。
――:今は燃料がたくさんありますね。作業は毎日ですか。
貴之さん:土日はあっち(木鳩屋)で手伝いをするようになったので、月曜から金曜はほぼやっています。ただ自分でつくって発表するだけじゃなかなか。ここに来てしばらくした頃に、工務店をされている方が入ってこられて、「何されてるの」って言われるから、「家具屋なんです」と。そしたら、「この上で工務店をしてるんです」と、それからお仕事をくださるようになって。あとでわかったんですけど、この人(伸子さん)の同級生で。
――:つくりたいものをつくられる時の材料は。
貴之さん:僕はタモという木を使っています。堅いほうの木で、最近の若い人は色の濃い、ウォールナットとかを好んだりするので、材料は広がっています。
――:奥山さんの木工の品は、驚くほど精密なつくりですね。
貴之さん:本音をいえば、大きなものをつくりたいんですけど、なかなか出ないので、小さくて、値段もそこそこで、というものを。ミニチュアが好きな方もいらっしゃるのでやっています。
――:精度はエスカレートして上がっていくものですか?
貴之さん:一時期はしてました。でも最近は眼もわるくなって。
――:昔から、こういうものを?
貴之さん:先生がそういう方だったんです。だから引き出しものメインで、本当は、箪笥だけつくって食べていけたらと思うんですが、守備範囲は狭いですよね。でも先生から教わった、ちゃんとしたことだけはしようと。でも、ちまちましたことは好きです。
【突然ですが、この庭にはカメがやって来るのですって】
貴之さん:このあたりはケモノも来るんです。キツネ、イノシシ、タヌキは来るんです。
伸子さん:は虫類も。亀、ヘビとか。亀の産卵を何度見たことか。昨日も見ました。こっち向いて、ウって。
貴之さん:裏の池から上がって来るんです。
――:池からは結構、高さがありますけど…
伸子さん:来るんです。
――:さっき庭に穴を見つけたんですけど。
伸子さん:これは未遂現場ですね。タマゴを生んでたら、わからないくらい跡がきれいになってるんです。
編集:掘ったけど、ちょっと違うな、という感じなのかな?
――:産卵は夜だけですか。
伸子さん:朝もですね。
――:「うちの庭に亀が」っていうのはすごい。
伸子さん:すごいでしょ。子ガメがいっぱい出て来て、かわいいんです。頑張って、降りて行くんですよ。
――:だだーっと滑り降りるんですね。
貴之さん:コウノトリも来るんです。
伸子さん:コウノトリが飛んで来る池として知られているみたいです。全国で撮影している方がいて、たまたまうちに来てくださって、「コウノトリが今そこにいるんです」と教えてくださって、「へー」と。
――:笑
貴之さん:その頃は、事の重大さがわかってなかったんです(笑)
伸子さん:いつも来ている「ロクちゃん」という子がいて、その子が豊岡(兵庫県)に帰った1日後に野田市(千葉県)から入れ違いに飛んできた別のコウノトリがいて、「これは運命じゃないかな」と。
編集:豊岡に人工飼育のコウノトリがいることはテレビで見ました。木の伐採や棲みやすい里地が減ってコウノトリが絶滅してしまったと言っていたような。
伸子さん:一羽ずつ、番号がふられています。
貴之さん:足に発信器と背中にも付いていて、どこから来たかがわかるんです。「ロクちゃん」は「J0006」番だからそう呼ばれているんです。
――:ここに来るのはロクちゃんだけ?
貴之さん:あと、ミキちゃん。
伸子さん:ちょっと若い子なんです。その子はあまり来なくて、玉野に行って、倉敷に戻って来て、その後またどこかに行ったんです。
貴之さん:去年、えさ場があまり良くなかったのか。
――:秘められた池という感じ…
伸子さん:農業用の池なんですけどね。
――:イノシシは大きいのが出て来る?
貴之さん:お隣さんは1メートルくらいのを見たと言われてました。しかも池を泳いで渡って来たそうです。
――:見たい…。泳いでるところは見たい。
貴之さん:サルも。
伸子さん:木づたいに来ていたそうです。おばあさんが犬を散歩していたら、前から来ているのが見えて、犬を抱っこして木陰で立ち去るのを待ったそうです。
貴之さん:何でもあり(笑)
――:このあたりの子どもたちは、そういった生きものに対してどういう反応ですか。
伸子さん:近くの小学校の先生が言われていたんですけど、教室にムカデが来るのは普通だから、「先生またおったよ」って冷静に対処するそうです。
――:おふたりが育ったのは、こういう環境だったんですか。
貴之さん:いえ、まったく…。ふつうの岡山市内です。でも引っ越して来る時、この人(伸子さん)よりは覚悟していました。裏に池があるから。
【これからのこと】
――:急に思い出したんですけど、倉敷のギャラリー『エルパティオ クラシキ』(倉敷市本町8-33)の空間全部を使って展示会のようなことをされたじゃないですか。あれは何だったんですか。
伸子さん:何だったんでしょうね(笑)。いろいろなことをやっている5人、バッグをつくるAtelier BUNYANさん、羊毛を紡いでいる神崎ともみさん、陶芸をしている屋敷万里さん。それから文字を書く松田さん(※こちらのサイトでもおなじみの松田祥子さん)で。
最初に何かしよう、と言っていた方が出来なくなって、それで松田さんに「何かしてみる?」と言ったら、「いいよ」みたいな感じで。脈絡のない5人だったので、ストーリーを与えたほうがいいということで、5人姉妹という設定にして、誰が長女かでちょっと揉めて(笑)。実際に私だけが末っ子で、ほかは皆、長女だったんです。皆、「長女だけはいや」って言うので、「じゃあ私が長女になろうか」って。
――:『木鳩家の人々』、すごい世界が作り上げられていましたよね。あそこの中庭も使って、中に入ると舞台のような階段があって。
伸子さん: なぜだか知らないけど、あの場所を借りられることになって、じゃあこの場所を生かしたアレンジがしたいね、ということになったんです。最初が07年で、2回目が09年。
――:あの時の写真がありますか。
伸子さん:これです。入口は本物のマカロンとフェルトのマカロンで飾り付けて。10月の終わりから11月の頭。松田祥子がプロデューサーですね。
――:おびただしい数のマカロンを焼いたんですね。
伸子さん:焼くのはいいんですけど、ぶら下げるために糸を通す時に割れるのと、ビーズで留めをしないとだめで、針を抜いてビーズを通して、また針をしてマカロンを通して、あ、割れちゃった…という繰り返しで
――:何個くらい? 100個以上は軽く作ってますよね。
伸子さん:わかりませんー(笑)
――:一昨年の暮れかな? 旦那さんと木工の展示を『クラフト&ギャラリー幹』(倉敷市中央1-6-8)でされた時も、マカロンがたくさん登場していましたよね。
伸子さん:雲のマカロンを作ったりしましたね。
――:この空間を埋めるだけでも、すごいエネルギーと才能だと思うんですよね。
伸子さん:羊毛の神崎ともみさんが空間のアイデアを出してくれて、他のメンバーはそこに引きずられるように…(笑)。
――:あ、これは? 食べられるケーキ?
伸子さん:そう。終わって皆で食べました。フルーツケーキを3段重ねて、青のアイシングにしたんです。食べものとしてはあり得ないようなアイシングをしようと思って、「うわー」っていうような色に。
――:心は湧き立つっていうか惹かれる!
――:この時、松田さんはもう結婚されていて、この後わりとすぐに、独身だった他の方々も結婚して、お子さんが生まれたんですよね。今も会ったりしますか?
伸子さん:実は、再来年の1月に、ここで第3回『木鳩家の人々』展をしようという動きがあって、今2カ月おきにミーティングをしているんです。
――:すごいっ! メンバーは変わらず? ミーティングは進んでいますか。
伸子さん:このあいだ画期的なくらい進んだんですよ(笑)。再来年だと皆、子どもたちも小学校に上がる年と、1年生が終わる年くらいだから、動けるのではないかなと。
――:皆さん、本当に手を動かすことが好きなんですね。楽しみですね。
〈奥山伸子さんプロフィール:母がおやつをつくるのを見て、「粉とバターとお砂糖とたまごで何でも出来るんだな」と、字が読めない頃からお菓子づくりを始める。大学卒業後、英国に約10カ月留学。帰国後、塾の講師などを経て、2004年、倉敷市阿知に焼き菓子の店『木鳩屋』をオープン。2022年に倉敷市児島稗田町1964-1に移転〉
2017年8月 取材
文とキャプション:尾原千明
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『木鳩屋雑記』 http://kobatoya.exblog.jp/