第5回 3.リクくんと10年目の家
2016.01.18
〈啓ニさんと小百合さんは、長男のリク君が保育園のとき、家を建てることを決めました。小学校に入るのに合わせて引っ越したいと話していたそうです。それから10年が経ちました〉
——:らせん階段にしたのは、スペースが少なくて済むからですか?
小百合さん:これはリクが、ぐるっと回る階段にしたい!って言ったんです。
啓ニさん:家を建てる前に、あちこちの家を見に行っていたんですが、たまたまらせん階段の家があって、リクはその階段を、何回も上っては下り、上っては下りをして、これがいい!って。
小百合さん:部屋に関しては何も言ってなかったけど、バスとトイレが一緒になっているのは、リクが「お風呂に入ろうと思うとトイレに行きたくなるから、一緒じゃないとやだ」って。
——:じゃあ幼い頃のリク君の希望もかなり入ってるんですね。仕事場が自宅にあることもポイントだったんですか。
啓ニさん:自営なんで、事務所兼自宅で、1階を事務所にして2階を居住空間に、というコンセプトはあったんです。
——:お邪魔して最初に目についたのが1階の事務所の大きな長机で、リク君が勉強している机と向かい合う形になっているのがすごくいいなと。お互いにダラけてられない…。
啓ニさん:本当はこの机、イラスト描いたり製本したり、アナログ作業をする為にあるんですよ。何で読んだのかな、子ども部屋を作って、そこで勉強させるよりも、目の届く所で勉強させるのがいいって。
——:私、小さい頃、家族がわさわさしている中で勉強するのが好きでした。それと今、思うのが、わりと集中力が続かなくなってきたので、子どもが目の前にいたらかっこつけて仕事するなって。
小百合さん:相乗効果!
——:でも高校生になっても、机が向かい合う形で続いているのがいいですね。
啓ニさん:逆に親離れできなくて困っているくらいで。
小百合さん:一応、ロフトが個室的になってるんですけど、使わないの。
啓ニさん:本当はロフトに子どもが寝るイメージだったんですけど、いまだに僕と和室で寝てるんですよ、嫁さんが上で寝てます。
——:男同士で寝てるんですね、おもしろい。寝る前に喋ったり?
啓ニさん:起きてる時は喋ったりしてますけど、最近は先にリクが寝てるかな。
——:リビングにテレビがないんですね。
小百合さん:DVDはプロジェクターで観るし、テレビは観ないですね。
——:会話の多そうなご家族ですね。どんなことを喋ってるんですか。
啓ニさん:僕は子どもと喋るのはマンガのことと音楽のことで、嫁さんはだいたい勉強のこと。
小百合さん:勉強だけじゃないんよ、実は。 勉強を通じて、人生を学んでもらいたいなと。
でも「お母さんはうるさい、まだ言ってる」って。だいたいお母さんはここで最後まで話してて、みんなフェイドアウトしてる(笑)。
——:でも声は届いているんですね。
啓ニさん:そう。うちは、トイレと倉庫以外は扉がないんですよ。だからお互いの目は常にあるし、2階から1階に声も届くので逃げ場がないっていうか。
小百合さん:トイレはひとりになれるから、スマホ持ち込み禁止って言ってるんだけど、こそこそ持って入ってるんですよね。
——:マンガは見当たらないんですけど、あるんですか?
小百合さん:寝床に『ジャンプ』4冊くらいと、ロフトには手塚治虫が揃ってて、
啓ニさん:裏に倉庫があって、そこに『バカボンド』も全巻あります。今ね、連載が止まってるんですよね。
——:家で仕事をしていると、仕事による感情の揺れが空間に出たりしませんか。
小百合さん:ぐらっぐら(笑)
啓ニさん:めっちゃキレやすいんです。
小百合さん:車を運転しているときなんか、瞬間的にキレるから。子どもが乗っているときに乱暴なことを言って、それを真似されたらいけないからー、って思うんですけど。
——:リク君は言わない?
小百合さん:言わない。いちばんきつい言葉が、きなこに言う「こらー」。「何、にゃーにゃー言ってるんだ」って。 朝、みんなでご飯を食べているときに、タイムスケジュールの違うきなこが、「寝ましょう寝ましょう」ってにゃーにゃー言うんです。「お布団に連れてってくださいここ開けてください撫でなでしてください」、ってずっと言うから、それに怒りながらも従って、「うるせんじゃ」って言いながら、布団をかけてあげてる(笑)。
——:リク君は、部活動は何をやっているんですか。
啓ニさん:小学校3年の頃、友だちにセンスある、って言われてサッカーチームに入ったんですよ。で、親から見て、まったくセンスないんですよ。すごくのんびりとやっていて、それでも2年間はやったかな。
身体がデカイんでキーパーになったんですけど、ろくに出来なくて、ある時試合で、その時の中心メンバーがリクを気に入っていて、「おーい、リクがキーパーじゃ、全員守るぞー!」って。監督からサッカーは攻めないと勝てないぞって言われてた。あれは笑ったけど。
ある日、本人が「向いてないと思う」って。辞めるのはいいけど、ほかにスポーツしようやって。
小百合さん:それから馬をやってたんです。それもたぶん、ポニーをさわって、可愛かったから。「お母さん、リクな、実は馬に乗れるようになるのが夢だったんだ」って言うから、「え、そうだった? ほんとに? じゃあ行ってみる?」って行ったんです。でもコーチが、「リク君が、ちょうど高校生になるくらいに国体に出られると思うから」って本気になってきたら嫌になり始めて。
小百合さん:その頃は剣道を始めて、並行してやってたんです。おまけに「リクな、弓道をやりたいんよな」と言い出して。
「ナニ?弓矢?」って聞くと、「弓矢が出来たらいいと思うんだ」って言うから、もうだまされんぞって(笑)。
「何を目指してるん、武士!?どれもこれも中途半端か!それが役に立つのは松平健くらいだって。もうちょっと剣道をものにしてからの方が良いんじゃない?」って言ったんです。
——:(笑)。
小百合さん:剣道は向いてるみたい。誰にも邪魔されずに1対1で出来るし。
——:仕事場の大きな木製建具、風もよく入りそう。
小百合さん:最初の年に台風で、まだ隣も裏の家もないからもろに風を受けて。気休めにガラスの外からバッテンを貼って様子を見てたら、風で建具がぐわん、としなって。どんどん水が入ってきて。
陽子さんにどうしたらいいですかね、って聞いたら、「バスタオルがいちばん」って(笑)。バスタオルを当てて、絞る、の繰り返し。
啓ニさん:木の建具、いいんですけど、最初の年は隙間風がすごかったんです。下のレールの所に何もつけてなかったから、最初の年はすごく寒かった。
小百合さん:ストーブの前で飲み会をした時に、友達が防寒着を着て、ガンガン薪を焚いたもんね。
——:なんか、いい10年だな。
小百合さん:それで隙間にムカデテープをつけたら、全然違うの!
小百合さん:今日、掃除していたら、リク制作の記念すべき第1弾のマンガが出て来たよ。これ、装丁はわたしがしてあげて。
——:わー。「あんこは負けず」。 このタイトル、本をちゃんと読んでる感じがわかる。わー、お母さんも登場する。
啓ニさん:これ何年生の時かな?
小百合さん:4年生かな? あれ、あんこが仔犬だ、じゃあもっと小さい頃かな。
啓ニさん:2年生くらいかな。
——:完成度が高い。
小百合さん:いまだ越えられず。これ、リクが自分で大事に取ってた。
この後、「ワンコー」っていうマンガを描き始めたの。リクは最近ようやく、将来の夢は漫画家、って言わなくなった。
啓ニさん:それを描いていた頃の一生懸命さがないよな。自分の出来る範囲でこなしてるから。
小百合さん:とりあえず、デッサンがまだまだ。
啓ニさん:厳しい、厳しい。
小百合さん:動物を描いていた時は夢中だった。時々、昔の作品を見せて、「進化してる?」、って言わないと。
つづく・・・4回連載 最終回「4.ところで欠かせないふたり。あんこときなこ」は1月25日UP予定です。
2015年10月 取材
文:尾原千明
キャプション:編集A
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