第6回 『木の教え』
塩野米松 著/筑摩書房 刊
木と共に生きてきた日本人。
宮大工や船大工、漆掻き職人、漁師、炭焼きなど、
木を相手に仕事をしてきた職人たちの
リアリティあふれる口伝を集めたのが、
本書『木の教え』です。
一本一本の木は、育つ環境が異なります。
日当たりのよい斜面、風の強い場所、土壌の違い・・・。
同じ山に生える木も、長い時間をかけて育つうちに、
一本一本性質が異なるといいます。
まるで、人間が何人いても、同じ人がいないように。
そんな木の「癖」を見抜き、適材適所に使うことで、
建物はより丈夫になり、長持ちすることを、
職人たちは知っていました。
雨にさらされる部分は、傷むものだという観察があり、
ならばどうするかという工夫がありました。
今さえよければいいという姿勢からは到底生まれえない、
さまざまな知恵の集積。
だからこそ、法隆寺は1300年もの歴史を生き長らえ、
今日に至ります。
「新しいもの、新しいものと追いかけていけば、
自分たちが引き継いできた木を活かす技術が消えて、
忘れられてしまう。技は人が継いでいくものだ」
「親という字は、立木を見せると書くじゃないか。
親は子供を森や山に連れていって、
木がどう生きているのか、木が私たちに何を教えてくれるか、
話してやらなければならないよ。それが親ですよ」
「やってたらわかります。結局、人間も自然の一員なんです。
それを忘れるんですね。頭で考えたとおりになると錯覚して、
傲慢になるんです。結果は無残なものです」
ズシリと迫りくる職人たちのことば。
便利さ、効率最優先の時代の中で、私たちが失いかけているのは、
木の使い方や技だけでなく、
職人たちがその根底に持ち続けてきた、
自然に対する考え方なのです。
そしてそれは、木に対してばかりでなく、
人間に対しても必要なのでは、と思わずにはいられません。
家の内外に使われる木。
一本の木が成長するまでに蓄積された、長い長い時間。
そして、建築家や多くの職人の手と想いがかけられて、
今ここに至る木。
想いを巡らせるうち、敬虔な気持ちになれる一冊です。
選書・文 スロウな本屋 小倉みゆき
スロウな本屋
「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、店主が選んだ絵本と暮らしの本が揃う小さな新刊書店です。
戦前から残る木造長屋をリノベーションした店内では、毎月多彩なワークショップを開催しています。
岡山市北区南方2-9-7
tel 086-207-2182
http://slowbooks.jp/
写真 / 「置き屋根と荒削りの家(再生と新築) 自宅兼事務所」 ヤマグチ建築デザイン