第10回 『にっぽんのかわいいタイル』
加藤郁美 著/国書刊行会 刊
銭湯で、角のタバコ屋で、田舎のおばあちゃんの家のお風呂場で、きっと見たことのあるタイル。どこかちょっぴりなつかしい昭和の雰囲気を漂わせるこのタイル、その名を「モザイクタイル」と申します。その約8割が、岐阜県多治見市笠原町という、わずか4キロ四方の町で作られていました。しかも昭和30年代には、この小さな町から日本国内はもとより、世界中にタイルを送り届けていたというのです。
山内逸三。笠原町出身のひとりの青年が、この「モザイクタイル」の立役者です。15歳で地元窯業学校を卒業し、23歳で美濃焼タイルの製法を創製。茶碗の町だった笠原町を、いかにしてタイルの町へと変貌させていくか。逸三の努力と独創、そして出逢った人々。その過程を知れば知るほど、その面白さにワクワクすることでしょう。
小さな町で、無名のひとびとが生み出した色とりどりの小さなタイルが、それまで色彩に乏しかった日本の庶民の住宅にもたらした大きな変化。現代の住宅で、浴室やキッチンに整然と貼られているタイルを見る眼が、がらりと変わりそうです。全国に残る、笠原タイルを使用した建物の写真も、本書に収録されています。2016年、この笠原町に、「多治見市モザイクタイルミュージアム」がオープンしました。
選書・文 スロウな本屋 小倉みゆき
スロウな本屋
「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、店主が選んだ絵本と暮らしの本が揃う小さな新刊書店です。
戦前から残る木造長屋をリノベーションした店内では、毎月多彩なワークショップを開催しています。
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