第11回 『小屋暮らし』
中村好文 著 / PHP研究所 刊
電線、電話線、水道管、下水管、ガス管・・・。いわゆるライフラインと呼ばれる「線」や「管」が、家にはつきものです。当たり前のようにある「線」や「管」と、まったくつながらない家、あなたは想像できますか?
実際に、つながらない家を作ったひとがいました。建築家・中村好文さん。エネルギーを自給自足する小屋暮らしの実践として、中村さんが長野県御代田町、浅間山のふもとに建てた「小屋」の概要は、こんな風。
・電力:風力発電とソーラー発電
・水:屋根で集めた雨水を浄化して使う
・調理:炭火を燃料とする七厘またはキッチンストーヴ
・お風呂:薪で焚く五右衛門風呂
・トイレ:簡易水洗トイレ(汲み取り式)
ここだけ見ると、ガチガチのエコロジー住宅のように思われるかもしれませんが、中村さんはいい意味で「遊び半分」。一見、不便で不自由に思える家は、なんだかとても愉しそうなのです。
たとえば、料理の熱源をどうするか? 住宅建築を手掛けてきた中村さん、人の暮らしと住まいには「火」が不可欠、と言います。住まいとは、「食う」「寝る」場所であるのだから、「食う」を支える調理の「火」にもこだわりたい。アウトドア用のバーナー・レンジは数多あれど、住まいはキャンプ場ではない。卓上カセット・コンロは便利だけれど、なんだか侘しい。結果、落ち着いたのは「七厘+炭火」。調理台に丸い穴を空け、七厘がスポリと収まる七厘レンジを作ってしまいました。天気がよい日なら、七厘ごと外に持ち出して料理も可能とか。
七厘をはじめ、いわばローテクを駆使した小屋暮らし。時に畑を耕し、庭で燻製作りに挑戦も。中村さんは言います。「不便や不自由は、本来人間の持っている“生活の知恵”を呼び覚まし、“創意と工夫”を生み出す原動力かもしれません。休日を小屋で過ごすようになってから、手も頭もじつによく働くようになり、賢くなったと、自分でもそう思うのですから・・・」
自分が介在する余地があると、家にもより一層愛着を感じるというもの。小屋暮らしの実践の記録が、住まいと暮らしを大切にするひとや、「今日、電気が停まったら?」という危機感を抱くひとに、ささやかなヒントを与えてくれるはず。
選書・文 スロウな本屋 小倉みゆき
スロウな本屋
「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、店主が選んだ絵本と暮らしの本が揃う小さな新刊書店です。戦前から残る木造長屋をリノベーションした店内では、毎月多彩なワークショップを開催しています。
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