第12回 『ふすま』

向井一太郎・向井周太郎 著/中央公論新社 刊

 

ころも偏に奥と書いて、「襖/ふすま」。木格子の上に、和紙を幾重にも張り重ねて作られています。ふすまを作る経師・表具師である父・向井一太郎さんの姿を、幼少の頃から見続けてきた息子の向井周太郎さんは、インダストリアル・デザイナー。周太郎さんによる「ふすま」の考察と、父子の対談とで構成される小さな文庫本の中に、思いもよらぬ世界が広がっています。

 

「紙を張る」という行為。「紙(カミ)」は「神(カミ)」に通じること。「張る(ハル)」とは、もともと芽がふくらむ、芽が出るの意味の動詞で、草木が芽吹き、生命が再生する「春(ハル)」の語源でもあること。「ふすまを張る」とは、「力を張っていく」ことであり、「生命力を張っていく」こと。だからこそ、単に糊を付けるという意味の「貼る」という漢字では、ふすまを作る本当のこころは、表わせない・・・。さまざまな語源の解釈に触れながら、平安時代に起源をもつふすまについての考察を読むうちに、とても神聖な気持ちになっていきます。

 

経師・表具師として、吉田五十八、村野藤吾をはじめ、多くの建築家から重用された一太郎さん。凛とした職人気質あふれる言葉づかいが、なんとも魅力的。こちらの背筋まで、ピンと伸びるようです。対談の中から、ごく一部を掬い上げてみますと・・・

 

「よく今の職人は仕事が下手になったとか、技術が悪くなったといわれますが、あたくしはそれに異論があるんです」

 

「お互いに助け合っていいものを作り上げていくということなんです。そのことはお互いの仕事を尊重し、お互いの仕事を大切にするということでもあるわけです」

 

「ほんとうは住まう人は人で、住人の心得というものを持っていたはずです」

 

日本の気候風土の中で育まれてきた、住まい方の知恵。そうした文化の記憶が失われていくのは、とても惜しいこと。「ふすま」の本を読むうちに、日本人にとって「住むこと」とは何なのかを、じっくり考えさせられました。

 

選書・文  スロウな本屋 小倉みゆき

 

 

スロウな本屋

「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、店主が選んだ絵本と暮らしの本が揃う小さな新刊書店です。戦前から残る木造長屋をリノベーションした店内では、毎月多彩なワークショップを開催しています。
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「ふすまを張る」とは、「力を張っていく」ことであり、「生命力を張っていく」こと。

写真 / 「ヤヨイの家」 平野建築設計室

 

 

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