第24回 『日曜日の住居学』
宮脇檀 著/河出書房新社 刊
建築家・エッセイストの宮脇檀さん(1936-1998)は、施主と真摯に関わる中で、本当に住みやすい家とは何か? 理想の住まいとは何か? を伝え続けてきたひと。本書『日曜日の住居学』は、宮脇さんのエッセイ集だ。
土地、ローン、間取り、リビングルーム、バルコニイ、畳、木材、新建材・・・。もくじを追っていくと目に入る用語から想像する本とは、何かちょっと違う。読み進めると、ドキリとさせられること、しばしばなのである。
「すべての思考や行動を全体の秩序の中に順応させ、多数の認めるものや管理者の命令(しばしば命令ふうでなく従いやすくしてある)に従っていれば、世は平和だ。だから思考も行動もあなたまかせになる。自分であまりものを考えなくてもよい。いや、あまり考えてはいけない。」(ローンはささやかな幸せを保証するか より)
「古い街での隣近所というのがいかに細やかな思いやりで維持されているかがわかる。裏の家に影を落とさぬように二階の位置を決める。・・・隣の家を見下ろす窓はくもりガラスにしてなるべく開けない。夜はオーディオならさないし、クーラーは十一時以降は切る等々。・・・こうした心づかいというものを、生活全体でしなくなってしまった昨今。警察の公安係のところに行くとある無数の苦情申し立て、昔ならお互いに注意し合ってそれですんでいたことが、いまは全部警察や役所が介入してケンカふうに出ないと収まらない社会になってしまっている」(家の個性を上手に出すには より)
家を建てる際に大切なこと、それは「生活を考えること」。テレビや雑誌などの情報を鵜呑みにせず、みんながやっているからでもなく、自分で考えること。「住まいの形ではなく、住まい方が第一、生活をどう営むかが第一で、住居はそれをフォローする役目しか持たない」。住宅から社会や文明を見つめ続けてきた宮脇さんのことばは、今もまったく色あせていない。あなたはどう生きたい? そう私たちに問い続ける。
選書・文 スロウな本屋 小倉みゆき
『日曜日の住居学』 オンラインショップページ
https://slowbooks.securesite.jp/shop/products/detail.php?product_id=654
スロウな本屋
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