第8回 3.余分なものが取れました

2016.10.24

 

 

 

――:以前はSE(システムエンジニア)だった安田さん。それが45歳で「とくし丸」開業へ。人生を思いきりガラッと変えたところが興味深いです。どんなきっかけがあったのでしょうか。

 

尚正さん:SEになった当初は自分でも天職かなというくらい気に入っていたんです。もともとゲーム好きだったし、将来食いっぱぐれない仕事というぬるい理由でSEを選んだんですが、40歳ちょっと前からかな、自分は何のために仕事をしているのか、ということ考えるようになったんです。

 

 

尚正さん:そんなことを考えていたら、だんだんと仕事にもキレがなくなり、自分の役割も設計・製造よりはプロジェクトやチームのリーダー色が強くなって。

リーダー自体は10年以上やっていたんですけど、自分自身はあまりリーダー向きじゃないなと思いながらやってたんですよね。みんなをぐいぐい引っ張っていくことが得意じゃないので。

 

――:客観的に自分を観察していたんですね。

 

 

尚正さん:でも、結果的に頑張らざるをえない、というか、いっぱいいっぱいになりながら頑張っている姿を見て、みんながなんとかついてきてくれた。 そういうスタイルでやっていたんですけど、そういうことを考え始めるようになったら、だんだんキレがなくなってきて。

 

――:キレがなくなるというのは?

 

尚正さん:僕はずっと左脳人間だと思っていて、左脳で理論的に生きているという感じでした。ロジックを組み立てるということが得意だったんですけど、だんだん右脳寄りになってきた。

出会う人も感覚を大事にする人が多くて…この「ゆくり」のせいもあるかもしれません。

 

――:笑。

 

 

尚正さん:ゴスペルを始めたということも関係しているかもしれません。

 

――:ゴスペルをしているんですか。いつ頃から?

 

尚正さん:10年くらい前でしょうか。近所で親しくなった人が不思議な力を持っていて、僕がよりよい人生を送るために何をしたらいいか、彼の神様に訪ねてくれたそうなんです。そしたら「年末に君がみんなと一緒に歌っているようなイメージが見えるんだけど、どう?」と言われたんです(笑)。

 

 

尚正さん:もともと歌は好きだったんですよね。義理の兄もライブ活動をしていて、そのステージを見て僕も歌えたらいいなぁとは思っていたんですけど、みんなで歌うってどういうことなんだろう、と。

 

――:みんなで、といえば合唱…?

 

尚正さん:そう、年末といえば第九のイメージですよね。でも、それはちょっと違うなと思っていたら、以前見た映画「天使にラブ・ソングを」を思い出したんです。シスターたちが歌ったゴスペル。

あれを見たときに、普通味わうことのないような高揚感を感じたことが蘇ってきて、岡山でゴスペルをしているのかどうか分からないけど、とにかくインターネットで調べてみたら、いくつかあったんですよ。その中で一番気になったところに行き始めたんですけど。

 

 

――:実際に行ってみてどうでしたか?

 

尚正さん:衝撃を受けましたね。音楽の力強さ、先生が語られる宗教観、何よりもその場の空気感かな。

集まっているメンバーも個性的で面白い人たちばかりで、初めてなのになぜか懐かしいと思える人がいて、こんな世界があるのかと、それからほぼ休むことなく通い続けてます。

 

――:安田さんの生活の一部になったんですね。

 

尚正さん:それもあって、だんだんと右脳寄りになってきたんです。

右脳が進化すると、だんだんと左脳が退化すると思うんですけど(笑)、コンピュータのプログラムにはif文(イフぶん)「もしXならば、Yせよ、さもなくばZせよ」というような条件実行を示す文が出てくるんですね。そのif文が4つも5つも出てきたら、頭が「もういい!」ってなりはじめたんで、これはSEとして終わってるなぁと(笑)。

変化した自分と仕事が合わなくなった感覚が強くなったんでしょうね。自分の力というか、自分らしさを生かせるような仕事がないだろうかと、ずっと考えながら5年くらい経っていました。

 

 

尚美さん:辞める4年くらい前かな。突然「仕事を辞めたい」と言い出したんです。SEの仕事ももちろん社会に役に立っている仕事だとは思うんだけど、もっと生身の仕事をしたいというようなことを言って、あの頃は本当に顔が暗かったですね。

そういえば、突然「林業がいいかもしれない」と言い出したこともありました。実際に山に見に行ったり。

 

――:実際に山へ!

 

尚美さん:林業って体力がいるから、大変な仕事だと思うし、私より手が小さいのにこんな手でやるの?と言ったら、次の日から腕立て伏せをはじめて(笑)。毎朝会社に行く前に腕立て伏せをしてたんです。何カ月か続いたんですけど、この人は本気なんだと思いましたね。

 

尚正さん:林業するかどうかは定かではなかったんですけど、どっちにしろ力をつけておいた方がいいかなと思って。ひとまず、腹筋やったり、腕立て伏せしたり。

 

尚美さん:それ以前も、毎朝庭掃除をして、座禅を組んで会社に行くという日々を送っていました。左脳人間って言ってるけど、私は全然そうは思わなかった。最初からちょっとファンタジーなところがあったし(笑)。

 

 

――:そういった要素は持ち合わせていたんでしょうね。その後、どんな展開に?

 

尚正さん:どこかでふんぎりをつけたいなと思っていたところに、会社が希望退職者を募るという状況が目の前にどーんと現れたんです。

 

――:なんというタイミング! 決めたときには、「とくし丸」のことも視野に?

 

尚正さん:いえ、辞めることは決めたんですが、その後のことは具体的に見えてなかったです。

自分が持っている技術といえば、プロジェクトマネージメント的なことで、それはほかの業種にも通用はするけど、自分がしたいのはそういうことじゃないという想いがあって。
収入は下がっても本当に人が喜んでくれるような、そんな仕事がしたいんだけど…自分の中で漠然としていましたね。ただ具体的になったとしても、はたして採用してもらえるのか、という不安もありました。

ただ、希望退職ということで、退職金が前倒しでちょっと多くもらえたりするので、1年間まるまるかけてでも、自分に合うような仕事を見つけよう。けど、1年も探して見つからなかったらめちゃめちゃ不安になるだろうなぁと思いながら、決断したんです。

 

 

――:じゃあ、決して強気で辞めたわけではなかったんですね。

 

尚正さん:はい。とりあえず決めて、でも次の週にたまたまなんですが、ゴスペルメンバーで某局アナウンサーの女の子がいて、彼女の出ているニュース番組を見ていたら、たまたま「とくし丸」が紹介されたんです。

これ面白いなぁと思って、すぐネットで調べたら、自分が漠然と思っていた方向にすごく近かった。

収入的には思っていたところのぎりぎりラインでかなり厳しかったんですけど、このタイミングだし、もう行くしかないという感じで、「とくし丸」に突入していったんです。3月末まで大きなプロジェクトをやっていたので、それが終わって会社を辞め、さっそく「とくし丸」の見学に行かせてもらいました。

 

 

――:振り返ってみたら、空白の時間はなかった?

 

尚正さん:見学をさせてもらってから、1ヵ月後のGW明けには訓練が始まり、顧客開拓にまわるなど準備期間を経て、2015年8月17日にスタートしました。

 

――:SEをされていたときはお客様対応ってほとんどないですよね。

 

尚正さん:最終的なお客さんと触れる機会がまったくなかったので、そこは大きく変わったところですね。

 

――:とまどいはなかったですか?

 

尚正さん:いや、喜びですね。「とくし丸」という事業の形態上、本当に喜んでくださることが多いんです。お客様が喜んでくださる姿に直接触れられるというのは本当にありがたいですよね。

 

 

尚美さん:悩んでいた時期と比べて、本当に顔の表情が明るくなったんです。それに、すごく痩せたんですよ。14キロくらい。逆にみんなからは病気じゃないかと心配されました(笑)。

 

――:体を使う作業が多いからでしょうか?

 

尚正さん:朝の詰め込みが仕事の7割くらいといわれているんですけど、その作業が特にしんどいんです。

開業して1年になるけど、ちょうど昨年の夏、積み込み作業はタオルがびちょびちょになるくらい汗だくになってやっていたんですが、今年は痩せたからか、あまりタオルが濡れないんですよね。

(ボソッと)余分なものがいっぱいついていたのかもしれない。

 

――:笑。

 

 

つづく・・・4回連載 最終回「4. トクシマラー、ドラマチックな日々綴る」は10月31日UP予定です。

2016年8月 取材
文:松田祥子
キャプション:編集A

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安田さんのブログ  「とくし丸日記」
~安田さん独特のスパイスを効かせた親近感が魅力です。
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岡山市北区撫川173-1/TEL 086-292-5882
営業時間 木・金・日曜11:00~16:00

 

 

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