第11回 1.木鳩屋のしつらえ

2017.09.11

※ 2017年に取材・公開の記事です。

木鳩屋さんは2022年7月より、倉敷市児島稗田町に移転しました。
現在、焼き菓子の店で、カフェ営業はしていません。
詳しくは、木鳩屋さんのインスタグラム @kobatoyakigashi をご覧ください。

 

 

 

【森池、という池のほとりにある奥山さんのご自宅の一部が、『木鳩屋』です。玄関の引き戸を開けると、右手につくりたてのお菓子が並んでいます。以前はクッキーやビスコッティといった焼き菓子が中心でしたが、現在はリングシューなどのクリームの入った生菓子も作っていらっしゃいます。畳の和室が食事のいただけるスペースで、旦那さまのつくったちゃぶ台が並んでいます。その和室を囲むようにL字の廊下と南向きの庭に面した縁側があり、気持ちの良い場所になっています】

 

 

 

――:どんな毎日ですか?

 

伸子さん:営業日が金・土・日曜なので、月曜はお休みにしています。火曜日にパン種を用意し始めて、焼き菓子とパンの下準備を火曜と水曜でやって。

 

――:パンの準備を早くからするのは天然酵母だから?

 

伸子さん:イーストなんだけど、種をつくって1日は常温に置いて、それから粉とイーストを入れて焼くんです。そうすると日持ちと風味が良いような感じがして。
忙しい日は1日中、クッキーを焼いています。ここは自宅でもあるので、家事をしながらエンドレスでやっています。子どもが寝た夜10時くらいから、お菓子の袋詰めとか何かやろうとしてますね。寝られないなー、っていう日もあります。

 

 

 

――:ところで、この家はいつ出来たものなんですか? 

 

伸子さん:築50年くらいかな。最初はこのふた間だけの小さなおうちで、建て増しを順番にしていったようで、たぶんですけど。そのあと縁側をつくって、こっちに台所を作って。

 

――:懐かしい雰囲気のある家で、住みたくなります。とくにこの廊下から縁側が、すごく広くて気持ちの良い場所ですよね。

 

貴之さん:気候のいい時期は、縁側でごはんを食べたりしています。

 

 

――:ここ、ご主人がつくった調度品が雰囲気をすごく良くしている。ご主人のつくられるものの精度、ハンパないですよね。こういう小さな引き出しとか…

 

伸子さん:(笑)。この小さいのもつくったんですよ。つくっている途中を見に行ったら、このサイズのをちょこちょこつくってあって、これから塗装、って。

 

――:ご夫婦でふたりともつくることがお好きなんだなー。

 

 

 

――:ここに移ることになったのは、どういう経緯だったんですか。

 

伸子さん:木工をするので、作業場が必要だったことと、そこで私がお店を出来たらいいな、と思っていたんです。最初にここを見た時、お手洗い場がトイレと別にあって、「お店をしてもいいですよ」と言われているような気がしました。

 

 

――:台所は天井が高くて広い。

 

貴之さん:ここしかくつろげる部屋がないんです。あとは寝室と物置になっちゃうんで、

 

――:お子さんもここで勉強したり?

 

伸子さん:今は片付けていますけど、普段はおもちゃがたくさん散らばっています。
あ、コーヒーでも淹れましょうか。

 

――:ぜひ!

 

 

――:台所が一番長い時間を過ごす場所なんですね。あ、ホシザキの冷蔵庫だ。

 

伸子さん:倉敷の商店街にいた頃から使っているんですよ、これ。あの小さなお店の中に収まっていたの。

 

――:オーブンも?

 

伸子さん:入れてたんですよ。広げて置いてみると大きくてね。

 

 

 

【ケーキを出してくださいました。舞い上がります】

 

――:うわーっ。

 

伸子さん:これがチョコとラズベリークリーム。これがコーヒーゼリーとブラマンジェ。これがブルーベリーのタルト。

 

――:チョコとラズベリークリームはエクレア?

 

伸子さん:そうです。

 

――:そして、これがブルーベリーのタルト?

 

伸子さん:メレンゲを入れてふわっとさせているんです。

 

 

――:お菓子をつくり始めたのはいつですか。

 

伸子さん:うちの母がおやつをつくってくれる人で、つくっているのを見ていたので、「粉とバターとかマーガリンとお砂糖とたまごで、わりと何でも出来るんだな」と思ったんです。最初の最初は、まだ字が読めない頃で、適当につくってオーブントースターで焼いて、おいしくないかなーと思った。でもその頃の、ゴムベラの感触をすごく覚えてます。ハンドミキサーが回るモーターの匂いとか。

 

――:子どもの目線ですね。

 

伸子さん:本が読めるようになってからはマドレーヌとかをつくったり。

 

――:ひとりで?

 

伸子さん:だいたいクラスの女の子と2、3人でしたね。「今日お菓子つくろうよ」って、ホットケーキを焼いたり。食べたいのではなくて、つくりたかったんですよね。

 

 

――:本格的につくるようになったのは?

 

伸子さん:店を始めてからです。ふつう修業期間があると思うんですけど。塾の講師とかをやっていて、教えるのは好きなんですけど違和感があって、もういいかなと思ってたんです。その間もずっとお菓子はつくっていて、倉敷の『夢空間はしまや』(倉敷市東町1-20)さんにお菓子を卸させてもらっていた時期があるんです。それで、お菓子をもうちょっと本気でやってみようかなと思ってたところで、岡山の出石町の『アート&カフェ国吉』で、1週間のチャレンジショップをやったんです。その時、屋号が必要だということで、『木鳩屋』にして、4人でやって、その後、倉敷の商店街の方に声をかけていただいて、えびす通りで店をやることになるんですけど、それは国吉のカフェで、自分のつくるペースやお客さんの感じがわかったからなんです。

 

編集:トントンと。

 

伸子さん:それから倉敷の商店街のフリースペースで1カ月間、お店をやって、お店を出すなら助成金が創業費用の3分の1を県と市が出してくれるんです。じゃあ無理がないのかなと、7月にオープンしました。

 

 

――:エクレアのシュー生地が雲の形に似てますよね。雲の形のものを色んなところで拝見しますが、ずっとあるモチーフなんですか。

 

伸子さん:エクレアは、たまたまなんですけど、雲が好きなので、そうですね。

 

 

 

 

――:週末のランチはどういう内容ですか。

 

伸子さん:パンとスープがあって、あとは鶏のローストだったり、ミートローフだったり、という洋風のおかずとサラダ、小さなデザートが付いています。

 

――:スープは?

 

伸子さん:ポタージュで、ほうれん草とか、かぼちゃとかお豆とか季節の野菜で。

 

 

 

【庭に出ました。蝉の鳴き声が聞こえます】

 

――:池の見える風景、すごいなー。

 

伸子さん:草刈りしたから良いですけど、すごかったんですよ。ここからも降りようと思えば降りられるんですよ。ヒグラシの「キ、キ、キ、キ」という声が聞こえます。

 

 

――:雑草がなくて、すごくきれいにしてありますね。

 

貴之さん:いや、荒れ放題だったんですが、ようやく草刈り機を買いました。それまで500円玉貯金をしていて。でも、このあいだ友だちがバッテリー式のを買って、ここに来て練習したんです。それを見たら、500円貯金はまだ目標額に達してなかったけど、もう買おう!ってことになったんです(笑)。

 

――:(笑)

 

 

編集:あの木、大きな葉っぱですね。

 

伸子さん:あれが柿で、向こうに栗。正面がクワの木。たぶん、ここのお父さんが植えた木です。

 

――:良いところですね。

 

伸子さん:うん。良いところはいっぱいあります。

 

 

――:これが家庭菜園ですね。

 

伸子さん:野菜はもっと勉強しないと。収穫の時期もわかるような、わからないような。化成肥料と有機とどっちにしようかなと思っている間に、肥やすタイミングや土をつくるタイミングを逃して中途半端な有機栽培になってしまって。

結構、ハーブがあるんですけど、草もいっぱいで何が何やら。蝶蝶が来てますね。

 

 

――:これはズッキーニ? カボチャも?

 

伸子さん:カボチャは種をとっておいて植えると、こっそり大きくなっていますね。タイミングが合えば大きくなるんですよね。何もしないと草が増えるので、植えると励みになるかなと。

 

編集:すごくわかります。トマトを植えてるんですが、見に行くようになりましたもん。

 

――:食べられるものが良いですよね。

 

編集:今年から家庭菜園を始めたんです。トマトがびっくりするくらい伸びて、支柱が足りなくなってます。

 

伸子さん:私は4月くらいからかな、NHKの『やさいの時間』というのを見始めたんです。「ジャガイモはお得な野菜です」、と書いてあって、「すぐに収穫期が来て、何キロという収穫が見込めます」とあったので、それはお得だわって(笑)。それまでは苗をもらって、適当に植えていて、なんかうまくいかないから、テキストを見て勉強しようかと。支柱もこんなに必要なんだーと。

 

 

 

【おまけ】・・・・・・・・・・・・・

 

【おふたりが知り合ったのはいつ? と聞いてみました】

 

伸子さん:この人が雑誌に出ているのは見ていたんです。わー、ロン毛の木工のお兄さんがいるんだって。出で立ちが独特だったので、変わった人がいるなと。その後まもなく私がお店を始めて、知人とお茶を飲んでいると、店の前を通りがかって。(彼は)その知人とは面識があったので、それが最初じゃないかな。

 

貴之さん:一度めの『木鳩家の人々』展の時は、その知人のつながりで見に行ったんですが、まだそれほど話すこともなかったんです(この話は第2話に出て来ます)。

 

伸子さん: その時は髪の毛がなくて、ひよこみたいになっていて。

 

貴之さん:1ミリ。何年かに一度、やるんです。

 

伸子さん:そんな髪の毛に関する印象が強かったんですよね。

 

 

〈奥山伸子さんプロフィール:母がおやつをつくるのを見て、「粉とバターとお砂糖とたまごで何でも出来るんだな」と、字が読めない頃からお菓子づくりを始める。大学卒業後、英国に約10カ月留学。帰国後、塾の講師などを経て、2004年、倉敷市阿知に焼き菓子の店『木鳩屋』をオープン。2022年に倉敷市児島稗田町1964-1に移転〉

 

 

つづく・・・2回連載 第2回「2.木鳩家の姉妹」は9月18日UP予定です。

2017年8月 取材
文とキャプション:尾原千明

※ 写真をクリックorタップするとキャプションとともに拡大写真がご覧いただけます。

 

 

『木鳩屋雑記』 http://kobatoya.exblog.jp/

 

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