照明も調べてみよう 3 AJランプ

2022.03.25

 

今回紹介するのは、イエトミーの建築家でおなじみ、ARTBOX建築工房一級建築士事務所野田大策さん宅にある「AJランプ」です。

 

 

AJランプ

 

 

 

 

■ 北欧デザインの巨匠

 

名前の「AJ(エージェイ)」って何だろう? と思ったら…
前回調べた「PHランプ」の名前が照明デザイナー、ポール・ヘニングセンの頭文字をとったものであるように、
AJはアルネ・ヤコブセンの頭文字をとって名付けられた照明でした。

アルネ・ヤコブセン(1902~1971)はデンマークの建築家であり、
世界中の人々に愛される椅子など生み出しているデザイナーでもあり、
モダンな北欧デザインの原型を作り上げた人物の1人といわれています。
「椅子のこと調べてみよう」シリーズでも登場しました。【 ③セブンチェア ⑧エッグチェア

AJランプは、1960年に完成したSASロイヤルホテルのためにつくられたものです。
「SAS」はScandinavian Airline Systems(スカンジナビア・エアライン・システム/スカンジナビア航空)の略。
現在名はラディソン・コレクション・ロイヤルホテル・コペンハーゲン。

 

 

■ ヤコブセンが仕掛ける新しい試み

 

ヤコブセンが設計し、デンマーク初の高層建築となったSASロイヤルホテルは、高さ76.5m、地上22階建て。
コペンハーゲン中央駅近くにそびえるガラス張りのビルです。

客室のある高層部とエントランスのある低層部の2つに分かれていて、まるで宙に浮いているかのような外観。
緑がかったグレーのガラスファサードは、
デンマークのどんよりとした空模様をイメージしたものと言われています。

古い石造りの建物が多いコペンハーゲンではひときわ目立つ存在で、完成直後はパンチカードのようだと揶揄されました。
また、コペンハーゲン市内の建物としてふさわしくないと、新聞などの各メディアから避難を受けたそうです。

ところが、ヨーロッパやアメリカなどから賞賛されると、コペンハーゲン市民もそのデザインの素晴らしさを認識するようになり、
今ではデンマークを代表する近代建築の一つとして誇りに思われています。
常に時代の最先端をいく試みに挑戦し、批判の声を賛辞に変えていくのがヤコブセンの建物なのです。

 

 

■ 建物をトータル的にデザイン

 

完璧主義者として知られるヤコブセンは、
建物にあわせて内装、インテリアデザインなどすべてに携わり、建物内のプロダクトをトータル的にデザインしています。

体をすっぽり包み込んでくれる、卵を思わせる形から名付けられた「エッグチェア」も
このホテルのためにつくられたものでした。

 

ヤコブセンのこだわりは、建物で使用される家具をはじめ、照明やカーテン、
果てはカトラリーやドアの取っ手、電気のスイッチなど細部に至るまで一貫していました。

AJランプもこのホテルのためにつくられた代表的なプロダクトです。
ホテルのバーに置かれたダイニングテーブルや、ラウンジのコーヒーテーブルの上に付けられ、多くの人の目をひいたそうです。
フロア、テーブル、ウォールなどのAJシリーズは
1960年にルイスポールセン社から製品化され、現在も多くのファンに愛用されています。

 

野田さん宅にはAJフロアとAJウォールがありました。
直線、直角、斜角によるラインで構成されていて、鋭いフォルムが印象的。

 

直線的なフォルムが特徴のAJフロア。
すっきりとしたラインや角により、洗練された空間を演出します。

 

AJフロアは90度、AJウォールは60度シェードを動かすことができ、
向ける角度によって効果的に照らすことができます。

 

シェードの内側はこんな感じ。まぶしくないように白色で塗装されています。

 

フロアランプのベース部分に開いたリング状の穴は、灰皿を置くためにデザインされたものだとか。

 

ちなみに足で踏む便利なスイッチもついています。

 

 

■ 建築の美とは?

 

ヤコブセンは生涯にわたり、文章らしい文章をほとんど残していません。
インタビューでの受け答えや講演会での言説だけが、彼の建築に対する見解を示す唯一の記録ということです。

1971年2月25日付の新聞に掲載されたインタビュー記事で
「何が建築の美なのか?」を語っている文章が紹介されていました。

 

最も重要なのはプロポーションがきちんとしているかということです。
いにしえのギリシャ神殿に古典の美が成立するのは、まさにこのプロポーションが存在するからです。
柱の間を欠きとって吹き放ちとなした巨大なブロックといってもよいでしょう。
バロック、ルネサンス、さらには今日の建物を眼にして誰しもが素晴らしいと考える作品は、
やはりプロポーションが良いのです。
何と言ってもこの点が一番ですね。
その次に重要なのは素材です。といっても、間違った素材同士を混ぜ合わせてはいけません。
それに続くのはもちろん色彩ですが、全体の印象と一体となっての話です。

 

照明は太陽が沈んでからが活躍の場。野田さん宅の夜の写真が素敵でした。

 

「なんといってもプロポーションの良さが一番」というヤコブセンのAJランプ。
キリッとした美しいフォルムに惚れ惚れとしちゃいました。

 

文:松田祥子

 

 

【参考文献】

和田菜穂子(2010)『アルネ・ヤコブセン 時代を超えた造形美』学芸出版社

Special thanks to ARTBOX建築工房一級建築士事務所

 

 

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