照明も調べてみよう 4 PERA
2022.09.23
今回は家具スタジオ「FREE STYLE(フリースタイル)」のキッチンショールームにある照明を調べてみました。
PERA
照明の名前は「PERA(ペラ)」。
シンプルで控えめ、美しいペンダントライト。上品な雰囲気が漂っています。
■ どんな空間にもなじむ
建築家の中村好文(よしふみ)さんがデザインしたもので、名前の由来はイタリア語の「洋梨」。
確かに洋梨のような、上が細くてお尻が大きいひょうたんのような形。カーブが可愛らしい。
その姿はデンマークの照明ブランド・ルイスポールセン社のペンダントライト「トルボー」に似ているのですが、比較してみるとPERAの方が、広がりがありどっしりしています。
主張しないのでどんな空間にもなじみます。
ここで中村好文さんの紹介を。
1948年千葉県生まれ。日本を代表する住宅設計の匠。
巨大ビルや大型開発には目もくれず、個人住宅の設計にこだわり続ける建築家です。そのこだわりは建物設計にとどまらず、椅子やテーブル、照明まで住まいの隅々にまで及びます。愛称は「コーブンさん」。
(ということで、ここでも「好文さん」と記します)
■ 光の表情が柔和で美しい形
好文さんが目指すのは、普段着のような心地のいい家。
デザインする家具もシンプルで機能的ですが、その中に温かみが感じられるのが特徴です。
好文さんがデザインした照明について綴った文章を見つけたので紹介します。
室内の灯、すなわち照明器具を選ぶというのは設計作業のなかでもひと仕事です。
なにしろ、照明器具のカタログというのは厚さが電話帳ほどもあり、メーカー各社がこぞって送りつけてくれますから、これを机の上にやまのように積み上げて探すことになります。しかし、こちらの気持ちにぴったりする、値段が手ごろでごく普通の形の照明器具が少ないのです。私の好みは、小津安二郎の映画に出てくる何気ないガラスのシェードのような器具ですが、こんなものすら、なかなか見つかりません。そういうわけで、私は、ときどき古道具屋を覗いて、ひと昔前のガラスの笠を見つけては買っておき、完成した住宅に付けていました。ところが忙しさにかまけ、しばらくその仕入れを怠っているうちに、とうとう在庫品も底をついてしまいました。6年ほど前、古道具屋に頼らずにペンダントぐらい自分でデザインして作ってみよう、と一念発起し、ガラスコップを作っている工場に頼み込んで作ったのが、写真のペンダントライトです。バランサーや木製ネジで高さの変えられるこの照明器具は、光の表情も柔和で美しくなかなかの優れものなので、私の設計した住宅の食堂には欠かせない定番のペンダントライトになっています。
中村好文著『住宅読本』より
食いしん坊で料理好きでもある好文さんは今まで40年間、300軒以上の台所を手掛けてきました。
その数々を文章と写真、図面で紹介した『百戦錬磨の台所』シリーズは、読んでいるだけでワクワク。野菜を刻む包丁の音や出来立てアツアツの湯気、美味しそうな匂いがページの向こうから漂ってきて、豊かな気持ちになります。その中にもPERAが登場していました。
■ 暮らしを作る道具を設計
好文さんは大学を卒業し一度就職した後、職業訓練校の木工科で家具製作の勉強をしています。その後は1980年まで吉村順三設計事務所に勤務し、家具製作のアシスタントを務めていました。
好文さんは、学生のころから住宅と家具の設計の2つをライフワークにしようと思っていたのだとか。それは、住宅を作るのも、家具を作るのも、「暮らしを作るための道具」を設計しているという意味では同じだから、と。
大きな意味で捉えると、住宅も「道具」…?
私には思いもつかない新鮮な発想でした。そういえば、キッチンショールーム見学のとき、FREE STYLE代表の三原さんも同じような表現をされていました。
「人間が快適に暮らしていく道具を作る」という意味で考えると、キッチンは椅子やテーブルと同じように究極の道具です。
椅子もテーブルも、台所も、住宅も、暮らしを作るための道具。
それら一つ一つは私の「暮らし」を表現しているもの。
…となると、改めて、私はどんな暮らしがしたいのか? したかったのか?
機能的であることはもちろんだけど、私にとって愛着の持てるものになっているだろうか?
などなど、家の台所やモノを見直してみるきっかけになりました。
後日、昔から憧れていたステンレスボウルをポチっと衝動買いした私。
そのボウルを使うたびにフォルムの美しさや使いやすさを実感し、台所に立つのが楽しくなりました。
●ちょっと長いおまけ●
好文さんの本を読んでいて、私が特に惹かれたのが「人の住まいの原型は小屋にある」という説です。
(ここでいう小屋は「そこに人が棲むことのできる小さな建物」のこと)
『小屋から家へ』の中に好文さんの子ども時代の話が載っていました。
6歳のとき、家にあった足踏みミシンの下の空間を秘密基地に見立て、自分の居場所にしていたそうです。
最初はふたの下にもぐり込んで膝をかかえて座っているだけだったのが、そのうちL字型に拡げた新聞紙をふたにかけて隠れ家のような空間に。母親がミシンをかけているときは音とリズムを身体に感じ、使ってないときはその中にこもってラジオドラマに耳を傾けていたのだとか。
私も小さいころに押入れの中にもぐり込んでみたり、友達と秘密基地を作ってみたり、といった覚えがあります。動物学者によると、巣づくりは小動物ほど仕事ぶりが丹念で出来栄えもよいのだそうで、「子どもたちは本能的に自分の居場所をつくりたがるものです」とありました。納得!
また、好文さんは2005~2015年、長野県・浅間山のふもとに建てた小屋で休暇を過ごしていました。その小屋は電線、電話線、上下水道管、ガス管が繋がれておらず、電気はソーラーパネルと風車、調理は炭火(七厘)、水は雨水を利用するなど、エネルギーを自給自足する実験住宅。
小屋で暮らしていると、お茶を飲むにも、ご飯を食べるにも炭をおこさないといけません。早く炭に着火させるためには小枝や炭をどのように置くのがいいか、どうやったら一番早くおこせるのか。五感をフル稼働させ、身体と手を使って創意工夫することが習慣になります。
好文さんは小屋暮らしの成果として、「不便と不自由さはそれなりに愉しい」ということ。
また、「人間に本来備わっている潜在的な生活者の能力が呼び覚まされることに気づいた」ことを挙げていました。
自然の中でテントを張って過ごすキャンプも同じように感じることがあります。便利な日常にはない不足を、知恵を絞って創意工夫で乗り切る楽しさや、心の豊かさのようなもの。そして、好文さんが小屋の条件の一つに掲げていた「なにより自分自身と心静かに向かい合える場所であること」も。
日常からちょっと離れたところから見えてくる生活で大切なものとは?
本の帯にある「なにもない。すべてがある。」は心にメモしておきたい言葉でした。
●おまけのおまけ●
「小屋」で思い出した、実家の祖父と父が建てた小屋
資材置き場として使っていましたが、6年前までは山の上の住民の郵便取次ぎの役目も担っていました
文:松田祥子
【参考文献】
中村好文(2004)『住宅読本』新潮社
中村好文(2013)『中村好文 小屋から家へ』TOTO出版
中村好文(2020)『中村好文 百戦錬磨の台所 vol.1』学芸出版社
中村好文(2021)『中村好文 百戦錬磨の台所 vol.2』学芸出版社
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