照明も調べてみよう 5 LE KLINT(レ・クリント)「モデル1」

2022.11.25

 

 

LE KLINT「モデル1」

 

 

 

 

定期健診に通っている歯医者でのこと。
会計を済ませ、ふと見上げた照明に目が釘付けに。
シェード(傘)のギザギザ部分が折り目正しく並んでいて、なんと美しいこと。

 

10年以上通っている歯医者なのに、なぜ今まで気がつかなかったのだろう。
いつも下を向いてお金を取り出し、上を見上げることがなかったから?
照明を意識するようになって視線が上向きになったかも…と、小さな発見。

1カ月後、歯医者で見かけた照明を、
倉敷の古民家カフェ「atelier&salon(アトリエ&サロン)はしまや」でも見かけたのです。
築150年の米蔵を改装した空間にすんなりなじみながらも、存在感を放っていました。

 

 

■ 日本の折り紙がヒントに

 

その照明は、デンマークの照明ブランド「LE KLINT(レ・クリント)」の「モデル1」。
レ・クリントの創設者であるターエ・クリント(1884~1953)が1942年に手掛けたもの。

 

その歴史は120年前にさかのぼります。はじまりは、
ターエ・クリントの父、建築家であるP.V.イェンセン・クリントが作ったランプシェード。
イェンセンはアルコールランプの光を和らげるため、
船乗りだった友人を通して知った日本の折り紙の要領で紙を規則的に折り上げ、
手作りのランプシェードを生み出しました。

当時、すでに紙で折られたシェードは珍しくなかったのですが、
シェードはダブルプリーツが施され、ランプ本体の金具をしっかり固定するので、
シェードが風で飛ばされるようなことがありませんでした。

その後、趣味の延長として作り続けられたシェードは
機能的にも優れたあかりの名品として高く評価され世に知られます。
そこで、ビジネスマンであったターエが、
クリント家の美しいあかりを普及させるため1943年に会社を設立。
レ・クリントは60周年を迎えた2003年にデンマーク王室御用達に選定されるなど、
北欧デザインを代表するブランドとして世界中から愛され続けています。

 

 

■ デンマーク家具デザインの父 コーア・クリントの存在

 

ターエの弟であるコーア・クリント(1888~1954)は建築家で、
「近代デンマーク家具デザインの父」として知られている人物です。

彼は1924年に創設されたデンマーク王立芸術アカデミー家具科の初代教授に就任。
過去を否定して新しいものを志向する「モダニズム」が主流だった時代にありながら、
過去の様式を見直し時代の需要に見合うように再構築する「リ・デザイン」の思考を掲げ、
デザイナーとして、教育者として、数多くのデザイナーに大きな影響を与えました。
「椅子のこと調べてみよう」シリーズで紹介した
ハンス J. ウェグナー、アルネ・ヤコブセンも彼の教えを受けています。

コーアがデザインしたペンダント照明「モデル101」(1944年)は
「ザ・ランタン」と呼ばれ、日本の伝統工芸である提灯にも似た見た目が特徴的。
どこかでお目にかかれることを楽しみにしたい。

 

 

■ 手作りの伝統を守り続ける

 

レ・クリントが手掛ける照明の素材は、1枚のプラスチックシート。
創業時から続く手作りの伝統を守り続け、デンマーク・オーデンセにある工房で
熟練した職人が一つひとつ手で折って作っています。

その職人技は動画(YouTube)で見ることもできますが、
シートを折り返していく手さばきが見事で、惚れ惚れしちゃいます。
基礎技術を取得するのに3年、一人前になるには10年以上もかかる
といわれるほど高い技術が必要なのだとか。

創業当時から現在まで作られているモデル1は、レ・クリントの原点といえるデザイン。

どの角度から見ても美しい規則正しく折られたプリーツ。
ハンドクラフトならではの美しいフォルム。

日本の折り紙が北欧に伝わり、心安らぐあかりの名品として
世界中から愛されているなんて、本当に素敵なことです。

 

 

●おまけ●

 

今年4月にリニューアルしたatelier&salonはしまや。
発酵をテーマに自家製の白こうじや発酵調味料を使った季節メニューが楽しめます。

今回は酵素玄米のカレープレートをオーダー。
スパイシーだけど優しい味で大満足!ごちそうさまでした。

 

文:松田祥子

 

 

■atelier&salonはしまや
https://hashimaya.com/

 

【参考文献】

小泉 隆(2019)『北欧の照明 デザイン&ライトスケープ』学芸出版社

北欧スタイル編集部(2005)『北欧スタイルNo.8』枻出版社

 

 

 

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