まちの由来さんぽ 第1回 『奉還町をぶら~り』
2016.12.22
毎回、岡山のあちこちへ出かけ、町の由来を探りながら気ままに散歩。そこで出会った気になるヒト、モノ、コトにじっくり目を向けてみると…。町って、歩けば歩くほど、知れば知るほどおもしろい!
文・写真 小野泰子
「ノスタルジックな町の雰囲気が気になって仕方ない」とばかりに、新連載のしょっぱなに訪れたのは、JR岡山駅西口からすぐの奉還町。町の顔ともいえる奉還町商店街を歩けば、新旧の個人商店が入り交じり、その不思議な一体感がなんともいい感じ。
奉還町商店街を東から西へそぞろ歩き
長らく岡山に住んでいても、奉還町商店街をがっつり歩いたことがないと気づいた。お目当てのショップやカフェに向かうことはあっても、通りそのものを楽しんだことがない。ならば、東西約1kmに渡って170軒ほどが連なるという商店街をじっくり見てみようではないか。
今回のコースは東側の奉還町1丁目から、2、3、4丁目へと西方向へ。1丁目界隈はアーケードがないため、じつは商店街の一部であるということを今まで知らなかった。「アキズ」には何度となく足を運んでいるのに…。
こちらの店には、デッドストックの食器に文具、パーツ、什器などがぎっしり。お宝さがし気分でつい隅々までチェックせずにはいられない。ビーズやボタンなどのちまちましたものは、手ごろな値段ゆえ、使うアテもないのについ買ってしまう。これを世間では散財とか衝動買いというが、手に入れてから用途を考えるのもいいじゃないと、自分に言い聞かせるのがいつものパターン。
ななめ向かいには、店内で絵本を読みながらくつろげるカフェ「ラステン アイカ」ができていた。ムーミンママのパンケーキセットというネーミングを聞いただけでも気分が高揚するメニューがあるのだが、歩き始めていきなり休憩もなんなので、また次回。
お次はアーケードのある奉還町2、3、4丁目へ。この界隈は店のジャンルが幅広い。「ミセスの暮らしのおしゃれ箱」なるキャッチコピーをかかげた婦人服店から、文具店、金物店、仏具店、美容院、飲食店、駄菓子店、ふとん店、書店、花屋、青果店とまあ、枚挙にいとまがない。岡山っ子にはおなじみの「キムラヤのパン」だって朝7時から元気にオープンしている。ニューフェイスのセレクト書店「ハフー」も要チェックだ。
メンズの帽子が陳列された「イシイハット」で、「黒澤型マリン」のポップが目に入る。なんと、故黒澤明監督のために作ったという、マリンキャップではないか。デニム仕立てで、白い紐がさわやか。商店街という場所は、歩いているうちに普段は縁遠いジャンルの店でもいろいろなものが目にとまり、思わぬ発見があっておもしろいものだ。
そろそろ、ひと休みしたいと思っているところに「カフェ オンサヤ」が。自家焙煎コーヒーがおいしいとあって、界隈でもっとも人が集まるスポットのようだ。ソファやローテーブル、シャンデリアといった空間が、昔ながらの喫茶店を彷彿させる。この日は暑く、季節限定のアイスコーヒーでほっとひと息。レモン果汁が加わり、まるで紅茶のような軽い味わいが◎。こちらではオリジナルのティーバッグコーヒーを販売している。名付けて「山珈琲」。山などのアウトドアで気軽に本格コーヒーが味わえるというもので、パッケージデザインもよく、即お買い上げ決定!
おさむらいさんと町の由来
当初から気になっているのが「奉還」という町名だ。詳しい話を聞きたいと、奉還町商店街振興組合の岸卓志さんをたずねた。
「由来は明治にさかのぼります。大政奉還、廃藩置県後に職を失った武士が、藩からもらった奉還金を元手に旧山陽道の道筋に店を構え、商売を始めました。これが奉還町商店街の発祥といわれています。武士が商売をするということで当初はものめずらしさもあって繁盛しましたが、どうしても接客態度がえらそうで…。それで失敗する店が多かったとか。当時から続く店が一軒だけ残っていますよ」
そう教えられて向かった先が「杉山種苗店」。現主人は4代目にあたる。さまざまな野菜の種がラックに並び、ニンジンだけでも何種類もの品ぞろえ。長年のれんを守る秘訣を聞くと、「なじみのお客さんを大切にすること」と即座に答えが返ってきた。
ぶらぶら歩きの〆は町のお母さんが作るたこ焼きで
商店街には山本とうふのドーナツ、大東果物店の生ジュース、パン工房 愛のメロンパンなど、“ちょこっと食べ”の誘惑が多い。商店街のほぼ中ほどにある「たこ福」もそんな店の一つだ。小窓からたこ焼きをせっせと焼くお母さんの姿が見えた。この光景だけで、どこか懐かしい気分に浸れるというもの。こぢんまりとした店内に腰を下ろし、できたてのたこ焼きをハフハフしながらほおばる。60年のも間、地元で愛されてきた味はやさしく、ほどよい酸味のソースがよく合っている。
たこ焼きをパクつきながら、この商店街で半日も過ごしていたことにはたと気づく。いつもは足早に通りすぎる町も、じっくり見渡せば新しい発見のオンパレード。この自分なりの発見こそが町ブラの醍醐味なのだと、(歯に青のりをつけながら)しみじみと感じ入った。
2016年8月取材