照明も調べてみよう 7 AKARI

2023.07.20

 

「椅子のことを調べてみよう」のとき、折りたたみ式の椅子をレンタルしたことがありました。
眠れる椅子「ニーチェアエックス」

今回はその照明版。素敵な照明を友人から貸してもらうことになりました。
名前は「AKARI(あかり)」。
デザインしたのは20世紀を代表する芸術家、イサム・ノグチ(1904~1988)です。

 

 

AKARI

 

 

 

 

AKARIのスタンドタイプ、1Nという型番のもの。
こんな箱に納まっています。なんとコンパクトなのでしょう!

自分で組み立てるのは心配なので、友人に組み立ててから持ってきてもらうことに。
組み立てる写真は友人からの提供です。

脚は小さな金輪に通し、シェードの上の金輪に骨となる枠を引っ掛けるように入れます。
枠と脚をソケットのネジ部分に引っ掛け、固定ナットで締めれば完成。
大きさは24㎝×高さ41㎝。

昼間に見たAKARI。
しずく型のような、米粒のような愛嬌のある形。
思ったよりも小さくて、とにかく軽い!

外が暗くなって点灯してみると、想像以上の明るさにびっくりしました。
間接照明のように思っていたけど、狭い部屋だったらこれ一つで十分。

和紙を通して照らされる灯りはあたたかく、壁に明暗ができて趣がある。
特に、シェードの下にできる輪っか部分(グラデーション)がいいなぁ。
いつもとはまったく違った部屋の雰囲気を満喫し、灯りを見ながらぼぉーっと過ごしました。

 

 

■ アイデンティティの葛藤に苦しんだイサム・ノグチ

 

彫刻家だったイサム・ノグチがどのようにして「AKARI」をつくるに至ったのか?
その秘密は彼の生い立ちと大きく関係していました。

1904(明治37)年、日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれたイサム・ノグチ。
出身地はアメリカのロサンゼルス。

その後しばらくはアメリカで暮らし、イサムが2歳のころ、母と来日。
父と3人暮らしを始めるも両親は別居。
母子家庭となったイサムは、
当時としては珍しいハーフであったため、学校ではいじめにあい、親しい友達ができなかったそうです。

孤独なイサムの少年時代を癒やしてくれたのが、日本の優美な自然でした。
中でも障子に映る月明りが特にお気に入りだったとか。
月が雲に隠れるときは、あんどんを障子の裏側から照らすことで、安心して眠りにつくことができたといいます。

イサムは13歳でアメリカに戻り、高校を首席で卒業。
医学部に進学しますが、
20歳になったころにはニューヨークのレオナルド・ダ・ヴィンチ美術学校の彫刻クラスに通い始め、彫刻家としての人生をスタートさせました。

フランスのパリへ留学していた23歳のとき、師であるコンスタンティン・ブランクーシの金属の作品を磨き続けながら、
「本物の光を使った彫刻ができないものだろうか」と考えていました。

第二次世界大戦中は日系アメリカ人が受ける差別に心を痛め、アリゾナの日系人収容所に自発的に入所します。
そのときも、戦争中の暗い生活の中に明るい世界への憧れを抱き、「明るい光を持った彫刻を作りたい」という思いを強くしていきました。

 

 

■ 光の彫刻「AKARI」の誕生

 

彫刻家としてのキャリアを積み上げた45歳のときに、ボーリンゲン財団から助成金を得て、世界中を旅することになったイサム。
2年にわたる旅で最後に訪れた場所が、母親と暮らしていた日本でした。

AKARI誕生のきっかけは、1951(昭和26)年6月。
平和記念公園の仕事で広島へ向かう途中、長良川の鵜飼いを見物するため岐阜へ立ち寄りました。
そこで出会った「岐阜提灯」に魅了されます。

「張り型」と呼ばれる木製の型に竹ひごを巻き付け、上から和紙を張って作る提灯。
質の良い和紙と竹の産地だった美濃地方(岐阜県)でつくられる岐阜提灯は、300年以上もの歴史があり、将軍にも献上されるほどの名品です。
イサムは老舗「尾崎次七商店(現・株式会社オゼキ)」の工場を見学し、翌日の晩には2つのデザインを提案したといいます。

その4カ月後、制作したばかりの照明に初めて灯がともされました。
和紙によってやわらかく光る作品は、内部に光源があるため影が存在しません。
イサムはこの作品を影のない彫刻作品と語り、光そのものを彫刻した「光の彫刻」として発表。
そして、漢字で「日」と「月」を組み合わせた文字の「明かり」という言葉から照明の名前を「AKARI(あかり)」と名付けました。

その後、試作を重ね、スタンドや金具の構造を検証し、折りたたんでコンパクトに収納できる組み立て式の小さなAKARIを完成させました。
その後もバリエーションを増やし、35年間でなんと200種類以上のAKARIを生み出したのです。

 

AKARIは岐阜県の工場で熟練の職人によって一つひとつ手作業で制作され、
赤色の「日・月」マーク、I.Noguchiのロゴが和紙に印字されています。

 

 

■ イサム少年が見た障子越しの月明り

 

日本の伝統的な素材でつくられたAKARIですが、
和空間だけでなく、モダンなインテリアにもぴったり。
誕生から60年以上経った今でも、世界中から愛されている照明です。

「あかり」は重量において軽い(ライト)。軽さと光(ライト)をいっしょに運んでくる。
しかしぼくにとってさらに大きな意味を持つのは、それが投げかける光の質である。
紙(手すき和紙)のおかげで、そこには現代の完璧すぎる素材のなかには
求めても得られない人間のぬくもりがある。(中略)
ぼくらのとげとげしい機械化された生と対照をなすものとして、
「あかり」はかつてのより静かだった時を呼びもどし、ぼくらをくつろがせる。
 (「イサム・ノグチ エッセイ」より)

和紙を通して広がる光は、イサム少年が見た障子越しの月明り。
そんなことを思い描きながら眺めると感慨深いものがあります。

イサム・ノグチは1969年から香川県高松市牟礼(むれ)にアトリエを構え、ニューヨークを往来しながら、石の彫刻などの制作活動に励みました。
生前のまま保存されているアトリエや住居は、1999年から「イサム・ノグチ庭園美術館」として公開されています。

やわらかな光、持ち運びのできるAKARIとは対照的な「石の彫刻」は、重くて固くて、そこに行かないと見ることができません。
実物を前にするとどんな感覚が湧き上がるのだろう。興味深いです。

 

 

●おまけ●

 

4月に沖縄で娘の結婚式がありました。
ビーチウエディングを希望していたのですが、天候が悪くてチャペルへ変更。
でも、これが私的にはよかった。席についてふと見上げた天井には見覚えある照明が…。

照明シリーズ②で調べたPH5(ピーエイチファイブ)がずらりと並んでいたのです。
わぁ~!と天井を見上げながら一人で盛り上がっていました。

 

文:松田祥子

 

 

【参考文献】

新見 隆(2021)『もっと知りたいイサム・ノグチ 生涯と作品』 (アート・ビギナーズ・コレクション) 東京美術

東京都美術館、朝日新聞社(2021)『イサム・ノグチ 発見の道』(展覧会図録)朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション

イサム・ノグチ(2018)『イサム・ノグチ エッセイ』(北代美和子訳)みすず書房

めら・かよこ(2017)『イサム・ノグチ物語-「遊び」は芸術だ!』未知谷

 

 

 

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