第8回 4.トクシマラー、ドラマチックな日々綴る
2016.10.31
〈移動スーパーの日々を綴った安田さんのブログ「とくし丸日記」。安田さんの乗る岡山4号車(軽トラック)を「ホタル号」と命名し、「とくし丸」事業主を「トクシマラー」と名づけて、お客様とのほのぼのするやりとりや、山道で脱輪したハプニングなど実に丁寧に記してあります。じんわりと伝わってくる面白さ、やさしさ。続きが楽しみになる日記です〉
――:「トクシマラー」の日々が赤裸々に綴ってあるブログですが、はじめてみようと思ったきっかけは?
尚正さん:会社を辞めて3日目、「とくし丸」の1日体験をしたときからスタートしたんですが、自分と同じようにこのままでいいのかという想いを持っている人たちがいるのかなと思って。
「とくし丸」って経済界でもそれなりに注目を集めていたのと、話題性もあるので、この話をベースに面白いことが起こるのであれば、今のままでいいのかなと思っている人たちにも考えるきっかけにしてもらえるんじゃないかな、と。
内容はアホなことばかり書いてますが(笑)。
――:準備段階から書き始めたんですね。
尚正さん:最初はどれだけブログのネタになるようなことが起こるのか、文章力的なものがどれだけついてくるのか、という不安があったので、フェイスブックでまず友達や知り合いの人に見てもらって反応をうかがってました。
ただ、とにかくいろんなことが起こりまくるので、ネタは尽きませんでした(笑)。
――:例えば?
尚正さん:開業前後のの一週間で2回、死にそうになったことがあったんです。ちゃんとこなせるのかなとちょっと不安になりました。
――:え、死にそうになった?
尚正さん:「ホタル号」で山道をまわっているときに崖に落ちそうになったことと、スーパーの冷凍庫に閉じ込められそうになったことです。
――:(笑)。初っ端から大変な体験をしたんですね。
尚正さん:ブログで書いていることはすべて事実です。中には妄想で書いているものもあるんですけど、基本的には起こっていることをベースに、妄想で味付けをして(笑)。
――:初日に車のキーを忘れた、というのも?
尚美さん:私、カギを届けに2、3回。販売のとき絶対必要な備品のお届けを含めると4、5回行ってます。
――:(笑)。 初日が嵐だったというのも?
尚正さん:初日、朝はそんなに天気が悪くなかったんです。でも、出発式が終わってスタートしたら、嵐になったんです。豪雨と雷。吉備中央町では観測史上最も雨が降った日らしいです。その日、テレビの取材レポーターさんの傘がひっくり返って、台風のレポートかと思うくらいで、何の取材か分からなかった(笑)。
――:想像していた以上にいろんなことが起こる?
尚正さん:ほかの人と比べても僕は極端にいろんなことが起こっているんじゃないかと思います。
尚美さん:家に帰ってきて、「今日何があった?」と聞いても教えてくれないんですよ。「書くまで言えれん」って(笑)。だいぶ経ってから脱輪したとか、崖から落ちそうになった話をブログで知って、ちょっと、ちょっとーって。
軒先に車をぶつけて、修理代がいくらという話も、だいぶ後になって言うときもあるし。それも、何回かあるんです。言わないから、何しているか分からない。あとで知るとショック。
――:(笑)。ヒヤヒヤしますね。
尚正さん:口で言うよりも、書いた方が面白く伝えられるかなと思っちゃってるんですよね。
――:そういうときは夫婦でも内緒なんですね?
尚正さん:ですね。
――:その時の様子がことこまかに書いてあって、最後はオチまでついて読み応えある文章なんですが、今までにブログのようなものを書いたことは?
尚正さん:全然ないです。小さい頃から文章を書くのが大の苦手で。
――:本を読むのが好きだったとか?
尚正さん:小さい頃はあまり読んでなかったですね。
夏休みの宿題で感想文があるでしょ。あれが一番嫌いでね。宿題は最初に終わらせちゃうタイプなんですけど、感想文と日記は残していた(笑)。
――:それが今やブログを書いている?
尚正さん:社会人になってもずっと苦手意識があって、でも、文章力を強化したいとは思っていたんですよ。
SEの仕事はメールのやりとりがすごく多いんです。
特にリーダーになってきたら、半分以上メールのやりとりが仕事になってくるので、メールを書くときに二通りにとれるような文章を書いてはダメで、絶対に意地でも一発で伝えてやるという想いを強く持って、書いてたんです。いつも。
そのメールで鍛えられた部分はあると思うんですけど。
――:車の運転中、脱輪したときは使徒(しと)「ミチキエル」、突然に尿意をもよおしたときは使徒「ニョイエル」の仕業になってますよね。「使徒」というのは「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する架空の生物で、人類に敵対する存在。そういったネーミングもユニークだなぁと感心します。
尚美さん:大丈夫なの?と思ったのが天満屋ストアのリーダーを務めてらっしゃる「ドSリーダー」さん。そんな呼び名にして大丈夫かなと心配だったんですけど、ご本人さんも読んでくださっているみたいで。
――:おぉ、読んでくださってるんですか。
ほかにも、面白い呼び方が出てきたり、事件がゲームになぞらえて書いてあったり、楽しみながら書いているんだろうなということが伝わってきます。
尚正さん:「書く」ということを習慣にすると、ネタを探しに行くというか、なんか起こってもそれが面白いネタになるんで。
尚美さん:大変なことが起こったらシメシメみたいな(笑)
尚正さん:ありえなければありえないほど、面白いネタになるというのはありますね。
尚美さん:それで、いつも私は巻き込まれるんです。
「とくし丸」の代表取締役・住友達也さんから連絡があったことがあって、さすがにその時はドキドキしました。天満屋ストアに電話がかかってきたらしくて、「とくし丸」の恥だからと言われないだろうかと思ったら、逆でした。
尚正さん:そうなんです。「いやーおもしろい」って(笑)。「とくし丸」本文のHPにリンクを貼ろうという話が持ち上がったみたいで、その了解をとるために連絡をくださったようです。
――:じゃあ、「とくし丸」本社も公認なんですね。
尚正さん:たぶん住友さんは共感するところもあったんだと思います。徳島で僕らと同じように販売員の作業をされていたそうなので、自分が体験したことが書かれていて共感できる!って。
――:安田さんが開業されたのが昨年8月なのでちょうど1年が過ぎましたね。その間のお客様の変化もいろいろでしょうか。
尚正さん:やはり高齢者の方が多い分、入院というのは多いですね。突然入院されたり、亡くなられたり。難病を患っていらっしゃる方がいたり、久しぶりに来てもらったと思ったら車いすだったり。
ご病気など、知らなかったことがだんだんと分かってくるのでね、仲良くなるとショックなこともあります。
――:本当に毎日いろんなドラマがあるんですね。でも、みなさんが安田さんを待っている!?
これからの安田さんの展望などありますか?
尚正さん: 「とくし丸」の日々を淡々とやることですかね。今をずっと続けること。
尚正さん:「とくし丸」は、基本的に商売として面白味があるんですよね。トライ&エラーで。
1週間持っていって全然だめでも、1ヶ月くらい続けたら実は効果が出たりとか。すぐにやれるし、すぐに効果がでるし、出ないときもあるし。
そういう変化の面白さとか、ちょっとした工夫とか。すぐ売上の数値に出ますので、今日は伸びたとか全然だめだったとか、一喜一憂できるのがいいんです。
――:やりがいですね。販売ってそういう面白さがありますよね。
尚正さん:そういった工夫を楽しみながら、淡々といきたいなと思います。
今後「とくし丸」もいろんな構想があるみたいなので、どんな風に変化していくかということも大きいでしょうけど。
あと、仕事以外では、「ゆくり」が僕の一つの大きな要素になっているところがあって、作家さんたちとの出会いを大切にしたいです。そこから考え方などの影響を受けているところもあって。
もう一つはやっぱりゴスペルですね。
尚美さん:10年くらいしたら、今のコンビニのように「とくし丸」という言葉が当たり前のように浸透していって、「買い物難民」なんていう言葉がなくなっているかも。
――:とくし丸の歌をみんな歌えるという日が来るかもしれませんね。仕事もプライベートも自分に合った付き合い方をしている安田さん。10年後、「とくし丸日記」にはどんなことが綴られているのかな。楽しみですね。
2016年8月 取材
文:松田祥子
キャプション:編集A
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◆ 安田さんのブログ 「とくし丸日記」。
~安田さん独特のスパイスを効かせた親近感が魅力です。
http://yukuriotto.blog.fc2.com/
◆ 移動スーパーとくし丸 webサイト
http://www.tokushimaru.jp/
◆ 天満屋ストアとくし丸 webサイト
http://www.tenmaya-store.co.jp/tokushimaru/
◆ ゆくり http://www.yukuri-utsuwa.net/
岡山市北区撫川173-1/TEL 086-292-5882
営業時間 木・金・日曜11:00~16:00
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