第10回 2.「この人や!」と思ったんです

2017.05.15

 

 

 

【佳奈子さんがベーグルの成形を始めました。生地を棒状に伸ばし、それをリング状につなげてベーグルの形が出来上がっていきます】

 

――:佳奈子さんがパンを焼き始めたきっかけは?

 

佳奈子さん:本屋さんで高橋雅子先生の本を見つけたんです。表紙を見て、「これ、めっちゃ可愛い!」と思って(笑)。パン、作れんの?みたいな感じで手に取ったんです。

 

 

――:それまではパンを作ったことがなかったんですか?

 

佳奈子さん:ありませんでしたね。結婚してからです。それまではアパレル関係の会社で「食」とは関係なく、5年間くらい真面目に会社員をやってました。結婚を機に退社して時間にゆとりができて、「食」がおもしろくなったんですね。それからタルトのお店で仕事を始めた頃ふらっと入った本屋さんでこの本を見つけた時に、「この人や!」と思ったんです。あるんですよ、私。そういうときが(笑)。直感が働くっていうのかな。

 

――:匂いをかぎ分けるような感覚で?

 

佳奈子さん:「絶対にこの人な気がする!」と思って(笑)。でも、人気教室だったのですぐには行けなくて、しばらくして通うことになって、最初は生徒で入ったんですけど…。

 

――:アシスタントをつとめるまでになるんですね。

 

佳奈子さん:いや、でもすぐというわけではなくて。パン教室に行き出した頃に、ティールーム「Afternoon Tea(アフタヌーンティー)」がクッキングインストラクターを募集していて、それが初心者OKだったんです。ちょうど事業を立ち上げるときだったので興味があったのと、初心者OKというので、「私、ここな気がする!」って(笑)、そこに行き始めたんですね。

 

――:おぉー、直感型人間(笑)。

 

 

佳奈子さん:そこがまたすごく面白くてね。勉強させてもらいながら仕事させてもらえるって本当にありがたいことで、すごくいい経験だったし、今でもつながっているいい出会いがありました。「食」に関することや、教える人はすごく勉強せなあかんのやなということを教わりましたね。それが30歳前だったのかな。

 

――:だんだんと今の佳奈子さんに近づいてきましたね。

 

佳奈子さん:クッキングインストラクターをしながら、雅子先生の教室に通っていて、パンはシンプルな材料だけどいろんなものが作れるし、発酵が何より面白いし、だんだんとパンかなぁと。

 

――:さらに近づいてきました!

 

佳奈子さん:それから、2年過ぎて「Afternoon Tea」でクッキングスクール事業がなくなることになったんです。ちょうどそのタイミングで雅子先生が代々木でベーグル店「Tecona bagelworks(テコナ・ベーグルワークス)」をオープンされて、そこがとても忙しそうでね。雅子先生は朝、店でベーグルを焼きながら、昼は教室もやっていて、それを見てたら、あかん!この人やりすぎやって。

 

――:ほっておけなくなった(笑)。

 

佳奈子さん:雅子先生のことがむっちゃ好きやったから、「なんか手伝えることがあったらやります!」と声をかけたんです。先生にしてみたら、渡りに船で…

 

――:笑。

 

 

佳奈子さん:で、私は次の日から朝6時出勤して、ベーグル焼いてました(笑)。スタッフと数百個のベーグルを成型して茹でて焼き上げ、夕方にはまたこねて…。喋らずに1分で何個成型できるか、という世界。

 

――:すごい!

 

佳奈子さん:それがね、めちゃくちゃ面白くって。というのも先生が大好きだったので、一緒に仕事ができることが嬉しくて、楽しくて仕方なくて。ただ、店は時間になったらオープンするし、ちゃんとしたものを作らんとあかんしで結構プレッシャーはありましたけどね。しばらく働いていたら、雅子先生からニューヨークにベーグル見に行こうって誘われて、「はい、行きます!」って(笑)。

 

――:本場のニューヨークへ行ってしまった。

 

佳奈子さん:ベーグルを食べに行っているので、ベーグルばっかりなんですよ。自由の女神も見ないで。夜寝て、朝起きてもベーグル。向こうのベーグルはとにかくボリューム満点なんです。面白かったのがね、ニューヨークにはたくさんのお店があるんですが、味のラインナップがほぼ一緒。お店によってちょっとずつ食感が違うんだけど、10種類くらいかな。日本だとチョコだの抹茶だの、どの店も個性があってバラエティ―豊かで、日本人って本当に研究が好きなんだなと思いましたね。

 

 

佳奈子さん:飛行機の中では雅子先生といろいろお話ができたし、本当にやりたい放題やらせてもらいました。結婚して4、5年目だったかな。その時には岡山に帰る話が決まってたので、夫も自由にやらせるしかないと思っていたのかもしれません(笑)。ありがたいことです。

 

 

――:この家に帰ることも決まっていたんですか?

 

佳奈子さん:そうなんです。築20年になる中古住宅に住むことは決まっていたので、ここでどうやって気持ちよく暮らせるかを考えました。この家を見に来た時、すごく広かったので、これは何かするしかないなと思ってイメージしたのがパン教室だったんですよね。元々、キッチンにオーブンもあったし。

 

 

――:ベーグル屋という選択は?

 

佳奈子さん:一瞬思ったんですけどね。想像してみたものの、一生ベーグル…? いやいやいや…(笑)。パン教室の方がしっくりきたんですよね。そこで雅子先生に相談したら、教室のアシスタントをしたら、その経験が勉強になるんじゃないと言ってくださって。アシスタントをしながら教室の一連の流れを見て感じたり、イベントのサポートをしたり、先生が発行される本のパンの試作や撮影のお手伝いなどをさせてもらったんです。

 

 

佳奈子さん:雅子先生は仕事をばんばん振ってくれるんですよ。無茶ぶりな感じで(笑)。「やるの、やらないの?」と聞かれると、私もつい「はい、やります!」って言っちゃう。先生からすると、打てば響くという感じで面白かったみたいです。短期間のうちにたくさんの経験をさせてもらいました。

 

――:フットワークよさそうですもんね。佳奈子さんは体育会系ですか?

 

佳奈子さん:運動はできないけど、気持ちはそういう部分があるんですよね。ここや!と思ったら、だーっと行っちゃうタイプ(笑)。いろんなタイミングがあると思うので、あんまり逆らうようなことしたらあかん、というか、流れに任せるようにしたらいいんかな、と思ってますね。

 

つづく・・・4回連載 第3回「3.心の平和を握る冷蔵庫」は5月22日UP予定です。

2017年3月 取材
文:松田祥子
キャプション:編集A

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◆「Campagne(カンパーニュ)」のホームページ http://www.boule.jp/

 

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