【特集】 建築家のしごと 3 ~岡山の建築家、12組による展覧会

2016.8.4

 

岡山の建築家有志12組による、建築家の仕事をさまざまな表現で紹介する展覧会「建築家のしごと」。3回目となる今回のテーマは「建築のレシピ」です。

開催まであと1週間という7月某日、最終の打合せにお邪魔しました。

会議は和気あいあいとした雰囲気。展示会場の模型を見ながら意見が活発に交わされ、どっと笑いの起こる場面も。

さて、今回はどんな展覧会なのでしょう?

また、展覧会開催にどのような想いが込められているのか。

メンバーの 本德建築設計事務所・本德彰士さんにお伺いしました。

聞き手 松田祥子

 

建築家のしごと3 岡山の建築家、12組による展覧会

2016年8月3日(水)~7日(日)9:00~18:00(最終日16:00)入場無料
岡山県天神山文化プラザ 第2展示室

イベント1/ 建築家と一緒に街をつくろう!
8月6日(土)・7日(日)①10:00~ ②13:00 小学生対象(中高学年程度)・各回10名

イベント2/建築探訪「天神山文化プラザを見る・知る・歩く」
8月5日(金)①10:00~ ②14:00~ 各回30名(事前予約優先)

 

 


 

建築家の仕事について知ってもらう展覧会

 

 

 

――展覧会「建築家のしごと」、今年で3回目の開催ですね。

 

2014年(平成26)年から続けて開催しています。
「建築のしごと」展覧会は、名前の通り、私たち建築家の仕事を広く知ってもらうことが一番の目的です。

建築家がどんなことを考えて建築物を創ったのか、建築の様々な魅力や可能性を知ってもらいたい。
そんな想いを伝える機会ができたらなと考え開催しています。

あと、関東や関西では建築家の展覧会が頻繁に行われているんですが、岡山ではあまり開催されていないので、建築家自身が発信して何かやってみようというのが始まったきっかけですね。

 

 

 

――確かに建築家の展覧会って岡山では聞いたことがないかもしれません。関東や関西ではどんな展覧会が開催されているのですか?

 

テレビに出るような有名な建築家がギャラリーで開く展覧会もありますし、個人の事務所が集まって開催されるものもあります。
建築物の完成写真や模型の展示、今後のプロジェクトなどを紹介したりといった内容です。

私自身、岡山で学生時代を送ったんですが、建築家の展覧会はあまり開催されてなかったと思うんです。

建築家の仕事に触れる機会があれば身近に感じることもできますが、そういった機会がなければ建築家を知らないで過ごしてしまう。
小さい頃や学生時代に触れることで、建築設計に対する興味がわいてきて、それがいずれは岡山の建築文化にもつながっていくんじゃないかという願いもあります。

 

 

 

――建物の設計と、展覧会の企画は、どこかかけ離れている感じもしますが…。

 

建物をつくっていくことは、依頼主に対し企画・提案をしていくことなので、アプローチとしては同じことなんですよ。

今回だったら、天神山文化プラザの第2展示室という敷地があって、依頼主は主催である12組の建築家。
みんなの意見を聞きながらどういったものがいいか、予算も含めて検討していく。

モノゴトを整理して、組み立てていくということは、建築家が普段やっていることと同じです。

 

 

 

――普段は1人の依頼主ですが、今回は建築家12組。となるとメンバー一人ひとりの好みがあり、意見の違いをまとめるのは大変じゃないですか?

 

もちろん、みんな設計の仕事をしているので、それぞれこだわりたい部分はありますし、意見もそれぞれに持っていますが、最終的には担当になった人の意見を尊重しながらやっています。

とはいっても、みんな言うことはちゃんと言ってますね(笑)。
先ほどの会議を見てもらっても分かると思うんですが、ざっくばらんに意見をぶつけ合って、展覧会当日を迎えるギリギリまでどうなるか、どう転ぶか分からない感じで…。

だから、面白いともいえます。

 

 

 

――毎回展覧会ではテーマを決めて開催されてますが、今回のテーマ「建築のレシピ」とは?

 

1回目は展覧会のタイトル通り「建築家の仕事」、2回目は「つなぐ」でした。そして今回は「建築のレシピ」。

レシピは料理の作り方のことです。
素材一つ一つを吟味し、おいしくなるように調理していく作業は、敷地条件を最大限活かしながら建築物を造り、新しい風景を作り上げる建築にもつながっています。

例えば、今回の会場は戦後の日本をリードした有名な建築家ゆかりの建物なんですが、使われている素材だったり、間取りだったり、スケール、プロポーション、一つ一つその場に合ったものを考え創られていることが読み取れます。

そんな様々な視点から捉える見方を「建築家のレシピ」として、写真や図形、模型などの展示によって紹介していきたいと考えています。

また、レシピというタイトルは皆さんに親しみやすさを持ってもらえるんじゃないかという面もあります。
リーフレットも手に取りやすい、楽しさが感じられるような形にしてお渡しします。

 

 

 


 

魅力ある「天神山文化プラザ」を伝えたい

 

     

 

 

――今回、岡山県天神山文化プラザを会場に選んだ理由は?

 

展覧会を謳うには岡山の文化的施設でやりたいという意向がありました。
天神山文化プラザは、県の芸術文化活動と文化情報発信の拠点として様々な催しを開催している文化施設です。

 

 

1962(昭和37)年に「岡山県総合文化センター」として開館しましたが、建築設計をしたのはモダニズム建築の第一人者、前川國男氏(1905-86年)。近代建築の三大巨匠であるル・コルビュジエの下で学び、戦後日本の建築界をリードした有名な建築家です。

天神山文化プラザは、コルビュジエから学んだ要素も見られる建築です。
当時のデザインを直接見て、触れて、感じることのできる建物なんです。

前川氏が設計した建築は、県内ではほかに岡山県庁舎、林原美術館もあります。

 

 

 

――天神山文化プラザは、構造がとても複雑で、道からちょっと階段を上がった部屋が1階かと思っていたら地下だったり、街中なのに木陰を感じる場所があったりして、面白い建物だなと思っていました。

 

岡山で建築を学んでいる学生だったら、前川氏の建築物だということは知っていると思うんですけど、実際にその建物を深く知る機会は少ないと思うんです。

私も建物自体は以前から知っていましたし、見たこともあって、コルビュジエっぽいなぁという位には思っていたんですけど、今回の展覧会で足を運ぶようになり歴史やデザインの背景を知ると、実に興味深い建物だと感じました。

そういった意味で、5日に開催するイベント「建築探訪」は貴重な体験になると思います。

 

 

天神山文化プラザを実際に巡りながら、なぜこういうデザインになっているのか、その背景などの解説がありますし、工事中のこぼれ話なども聞くことができます。

普通では見られないものが見られるかもしれませんから、建築に興味のある方、建築家を志す学生にとっては興味深い、楽しめる企画だと思います。

 

 

 


 

建築家ならではの空間演出に注目

 

 

 

――「建築家のしごと」では会場づくりもユニークですよね。

 

仕事柄とも言えますが(笑)、展示会場において空間をどう設計するかということには力を注いでいます。

倉敷市立美術館で行った前回は、展示会場が一つの大きなハコだったんです。

レースを使って展示スペースを区切り、試行錯誤しながら会場づくりをしました。
また、映像を見ることができたら楽しいんじゃないか、ということで360度の映像が見えるコーナーを作って楽しんでもらったんです。

 

 

おかげさまで来場者の方からは「面白かった」「次も楽しみにしているよ」とうれしい感想をいただきました。

実際に建築家が建てた建物を見に行っていただくことは難しくても、建築家がレイアウトしてデザインした空間を実際に体験していただく、ということが展覧会の一つの見どころでもありますね。

 

 

 

――その会場づくり(空間設計)で大切にしていることは?

 

まずは来て下さる方に楽しんでいただきたい、面白がっていただきたい、ということですね。

今まで開催してきた会場はすべて違う場所なんです。
今回は長細い会場です。

それぞれの形を生かしながら、どう見せるのか、区切り方だったり、展示の仕方だったり、そういった空間演出も建築家の腕の見せ所だと感じています。

準備段階では、実際に模型を作ってみて、展示の大きさはこれぐらいとか、区切ったときにどう見えるかとか、そういうことを話し合いながら進めています。

 

 

 

――「区切る」という発想が建築家ならではだなと感じました。そして模型まで作るんですね。 何パターンか作られたんでしょうか。

 

そうですね。

展覧会をつくる過程も形にして見ていただくために、今回はその模型も展示する予定です。

 

 

 


 

考えを形にする楽しさ。住みたい家、面白い建物を作ろう!

 

 

 

――今回は初の試みとして子どもたちを対象にしたワークショップを開催されると聞きました。

 

はい。ちょうど夏休み期間ということで、対象を小学生(中高学年程度)にしてワークショップを企画しました。

ワークショップの内容は、まず建築家と一緒に街づくりについて学び、会場に準備された材料を使って建築模型を作ってもらうというもの。

建築模型というと、平面図があって、間取りがあってというがっつりしたものを想像されるかもしれませんが、どちらかというと構想の部分に重点を置いていて、自分が住みたい家とか、面白そうな建物とか、「自分で考えて、形にする」という作業を体験してもらえたらなと思っています。

素材は僕ら建築家が実際に建築模型で使っているものを使います。
竹ひごやバルサ材など、軽くてやわらかい材料なので、切って貼ることが簡単にできるんです。

刃物等はあまり使わないワークショップですので、お子様のみでの参加も可能です。

もちろん、親子でも参加できます。ぜひ参加してください。

 

 

 

――小学生のやわらかい頭でどんな建物ができていくのか楽しみです。

 

自分の作品はもちろんですが、自分以外の作品に触れることで、こんなアイデア(考え方)もあるんだという発見も楽しんでほしいですね。

また、会期中には高校生や専門学生を対象にして同じワークショップを開く予定です。
こちらは、建築を学んでいる学生たちなので、小学生とは違った作品ができるのでは、と、私たちも楽しみなんです。

 

 

 

――全部一緒に並べていってどういうかたちになっていくのか…、最終日には面白い街ができているかもしれませんね。最後にワークショップを通じて、小学生や建築を学ぶ学生たちに伝えたいことは。

 

シンプルに「考えて創っていくことって楽しいよ」ということでしょうか。

楽しさを実感して、建築を身近に感じてもらえたらうれしいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日8月3日、会期初日に会場を訪れ、その様子を撮影させていただきました。
会場は、建築家ならではの見せ場のある空間!

ワークショップでは、高校生と専門学校生たちが次々と個性的な建築模型を作り上げていました。

 

 

 

 

そして、午後からは特別に、ワークショップの学生たちのための建築探訪短縮版も。
学生の皆さんの聞き入る姿が印象に残りました。

 

 

 

 

 

 

建築家の仕事を知ってもらうための展覧会。
それは、知ってもらうだけにとどまらず、建築の知識を広め、育てるために貢献する場でもありました。

建築による『まちづくり』は、社会を築く『ひとづくり』へとつながっていく大切な仕事。

 

この「建築家のしごと3」展覧会の5日間で、きっと多くの感受性豊かな人々が 建築家という職業と向き合い、さまざまなことを感じ、吸収していくのだろうと思います。

 

会期は8月7日(日)までです。

 

 

 

 

建築家のしごと3 ~ 岡山の建築家、12組による展覧会

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