第8回 『世界はうつくしいと』

長田弘 著/みすず書房 刊

 

家は、くつろぎの場所。

淹れたての珈琲から立ちのぼる湯気に、

テーブルの上の一輪の花に、

窓から射し込む夕暮れの色に、

思わず魅入ってしまったことは、ありませんか?

 

日々のありふれた光景が、

どれだけ愛おしい存在であることか。

二十七篇の詩を収めた一冊の詩集に、

そんな小さなうつくしいものが、ぎゅっと詰まっているのです。

大人だからこそ味わえる、うつくしいものが。

 

 

住む(inhabit)とは、

日々を過ごすこと。日々を過ごすとは、

習慣(habit)を生きること。

  (「モーツァルトを聴きながら」より)

 

 

花々の名前を、どれだけ知っているだろう。

何を知っているだろう。何のたくらむところなく、

日々をうつくしくしているものについて。

  (「大いなる、小さなものについて」より)

 

 

空の見える窓があればいい。

その窓をおおきく開けて、そうして、

ひたぶるに、こころを虚しくできるなら、

それでいいのである。

  (「窓のある物語」より)

 

 

おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。

行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。

花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。

雨の日の、家々の屋根はうつくしいと。

  (「世界はうつくしいと」より)

 

 

誰のものでもないうつくしい時間を、静かに支えてくれるもの。

それが「家」かもしれません。

善きくつろぎの時間を。

 

選書・文  スロウな本屋 小倉みゆき

 

 

スロウな本屋

「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、店主が選んだ絵本と暮らしの本が揃う小さな新刊書店です。
戦前から残る木造長屋をリノベーションした店内では、毎月多彩なワークショップを開催しています。
岡山市北区南方2-9-7
tel 086-207-2182
http://slowbooks.jp/

 

 

 

空の見える窓があればいい。

 

写真 / 「桜が丘の住宅」 本德建築設計事務所

 

 

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