このシリーズでは、建築家と設計を依頼した施主、おふたりのお話から「建築家に家づくりを頼むこと」について考えていきます。

この建築家はどういう人なのか、家づくりにあたって彼を選んだ理由や、家づくりの中心に据えられていたもの、建築家と施主おふたりの信頼関係はどのように育まれたのか、そういった事柄に迫りながら、家づくりに大切なものを少しずつ探していこうと思います。


第1回目に登場してくださるのは、本德建築設計事務所 本德彰士さんと「桜ヶ丘の住宅」施主のEさん。2014年5月に竣工を迎えた家です。建築家と設計を依頼した家主は以前からの友人という特別なケースです。2年の時を経た家が、どのように表情を変えているかも見せていただこうと思います。

「一緒につくる家」~本德建築設計事務所・本德彰士さん(第2話)

2016.8.22

 

 

「庭が、家に似合うようにしたいなと思っています」

 



リビング階段を2階に上がると、もうひとつのサプライズが待っていました。

のぼりきった視線の先には、大きなガラス窓があり、緑いっぱいの庭の風景を全面に映しています。
窓と階段の間には広いスペースがあり、ソファも置かれて、セカンドリビングとして使われているそうです。
そして左右に寝室があり、左手のまだ使われていない部屋は子どもたちのために用意されています。

この家は1階にいても、2階にいても、まず庭が目に入って来ます。それも圧倒的に。
暮らす人も多くの時間、庭を向いて過ごしているという印象を受けました。

 

 

 

 

 

  • 2階に上がるとなんて明るい素敵な場所! 庭の緑の見え方が良いですね。ここはどういうスペースでしょうか。

 

Eさん:ここはセカンドリビング的な場所です。友人の子どもたちも、この窓辺に座って遊んでいますね。

 

  • 階段の北側の窓も大きいので、空間全体が明るいんですね。寝室からは、遠くに池まで見えて雄大な景色になっていますね。目覚めが気持ち良さそう。

 

Eさん:カーテンを閉めずに寝ることがあります。

 

  • 寝室の北側にある仕事部屋は、最初から希望されていたんですか。

 

本德さん:「書斎があるといいな」と言われていましたね。絶対にとは言わないけど、「家で仕事をする」ということは聞いていたので、それが1階か2階かはわからないけど、「あるといいな」と言われました。

 

 

 

 

  • 窓からEさんの造ったツリーハウスがよく見えますが、完成度の高さがすごいですね。設計図を描いてから造るんですか。材料はどうされたのでしょう。

 

Eさん:ツリーハウスの位置は描きました。材料はホームセンターと、端材を分けていただいたのと半々くらいです。

 

本德さん:奥のデッキに枕木を使っているんですが、枕木ってめちゃくちゃ重いんです。大人の男でもひぃひぃ言いながら運ぶんですが、人力で全部やったということが、すごい。あそこまでやる人を僕は見たことがないです(笑)

Eさん:基本、ひとりでやりました(笑)

本德さん:昔の人が石垣を造るとき、どうやったらラクに出来るか、という方法を考えてやり方を改善、完成していったように、やりながらより良い方法を編み出したんでしょうね。

 

Eさん:そうそう、段々と知恵がついてきた(笑)

 

本德さん:この庭は、やりきってる感がある(笑)

 

 

 

 

本德さん:最初に土地を見たときのインパクトがすごかったんです。「うわっ」という。
だから、驚かせようということではないのですが、そういう感動のようなものがあったほうがいいなと思ったんです。

それで1階は玄関を入って真っすぐ来ると、開口部がどんと目の前にあるという形にして。
2階も階段を上がって目の前に窓があるほうが、せっかくこういう土地ですから、緑が見えるといいなと思いました。Eさんはもう見慣れたものになっているでしょうが、それでも。

 

  • 葉が落ちて、季節で景色が変わるというのが。

 

Eさん:良いですね。

 

  • 家にずっといられますね。庭にはやることがいっぱいあるでしょうし。今、野望はありますか。

 

Eさん:この夏にツリーハウスを完成させることです。今1段、2段とあるんですが、あの上に造ります。出来れば、寝られるように。

 

  • 今日、晴れていたらその作業の予定だったんですね。じゃあよかった、今日雨が降って(笑)。

 

 

 

  • 1階の庭に臨むデッキの幅がかなり広いと思いますが、ここまでにしたのは理由がありますか。

 

本德さん:実は最初、「もっと小さくてもいいんじゃない?」と言っていたんです。でもEさんは当初から、リビングの延長線上で大きなデッキを望んでおられたので、じゃあ大きくしましょうと。

 

  • デッキの利用法としては。

 

Eさん:ピザパーティのときは、デッキにイスと机を出してやっています。

 

本德さん:何ということはないんですが、部屋が広がった感じはしますよね。

 

  • そうかそうか!

 

本德さん:リビングの延長になるので、距離が近くなるというか。実用面以外ですが、そういう効果はあると思います。

人が集まったときに、様子を見ていると面白いんですけど、なぜかこのデッキあたりにみんないます。子どもたちは座ったり、寝転がったり。もしくは庭の一番奥に行っちゃうか。女性はだいたい、ここ(リビング)にいます。

 

Eさん:男性はデッキですね(笑)。僕は普段からデッキで、ぼんやり庭を眺めたりするのが好きなんですよ。昼寝もします。

 

 

 

 

  • 2014年の竣工当時の写真(写真左)を拝見すると、やっぱり庭の様子が随分、違いますね。当時は芝がなくて、木や花の茂った今のほうが逆に広く感じますね。

 

Eさん:最初の頃、庭は石ころだらけだったんです。石拾いから始めて。一緒にやったね。

 

本德さん:そうそう。もう石はなくなったね。

 

  • 家の内部はほとんど変わってないですね。それでも変わってるふうに思えるということは、やはり庭の存在は大きいですね。

 

Eさん:庭が家に似合う感じにしたいなという気持ちはありますね。

 

 


 

 

「住む人の心の変化が見て取れるのが、すごく嬉しいです」

 

 

 

この家は家族が増えても、そのときどきで、家族にとってちょうど良い大きさになるような気がします。
というと不思議に聞こえるかもしれませんが、「まだ先に空間がある」という感覚がどこにいても、あるんです。
物理的な奥行きだけでなく、気配として、ゆったりとした場所にいる、という感覚を覚えるのは、たとえば玄関とリビング、リビングと中庭がうまく隔てられているからかもしれません。

最後に、ほかにはない自分たちの「家」をつくるために何が大切なことなのか、建築家と施主おふたりそれぞれの立場からお話をうかがいました。

 

 

 

 

 

Eさん:外から見ていただけるとわかるんですが、入り口から見た家と、庭から見た家がまったく違うんです。

 

  • 表情が。

 

本德さん:道路側からは視線等に配慮して、あまり開口部を設けておらず、プライベート部分である主庭側に大きく開口部を取り、開放的にしています。外壁の素材も道路側と主庭側で異なります。

建物が南東を向いているので、家の中央にあるリビング階段の北側に大きな開口部を設けました。
LDK+階段で東西南北から光が入って来るので、明るい家にはなったかなと。吹き抜けの大きな窓があってもいいかな。

 

Eさん:うん、夕方でもリビングに日が入って明るいよ。

 

  • 玄関の外壁の素材は何でしょうか。雨にも強そうですね。

 

本德さん:あれはガルバリウムですね。デザイン的に面白いんじゃないかなと言ったんです。雨にも強いですし。

 

 

 

 

  • 竣工から2年ですが、経年変化は感じますか。

 

本德さん:まあ、床が灼けたかなと(笑)。最初は黄色っぽかったんですが、灼けて濃淡がはっきりして表情があって、今の床も良いなと思います。
一方で建具はおとなしい木材を使っていて、そのあたりの差がはっきり出ていますよね。
デッキなど、Eさんの希望だった無垢材の部分に良い変化が生まれているなと思います。

それから、経年変化ではないんですが、以前、「ツリーハウスや展望台があったら面白いね」と話していたことがこういう形で出来ていたり、暮らすうちに「ああ、こうしてみよう」と思ったり気がついたりする、そういう心の変化が生まれていることがすごく嬉しいです。
「遊びに来て」と誘ってくれたり、友だちと一緒に楽しむ姿にも、この家で暮らしていくうちに起こった心の変化が見て取れて、建築士としてはすごく嬉しいです。

 

Eさん:結構、子どもたちは楽しんでくれるよね。

 

  • 本德さんのお子さんはおいくつですか。

 

本德さん:6歳と2歳です。うちには実家に庭があるんですが、庭のないお宅に住んでいるお子さんたちは結構、楽しいって言ってる様子を見たり、自分が設計させてもらった住宅で大人たちが楽しそうにしていると嬉しいですね。
こちらの庭はEさんがされたんですが、家の中に入ったり、外に出られたり、楽しそうな様子を見ると、設計者冥利に尽きます。

 

 

 

  • Eさんは、毎日過ごしていらっしゃるので、変化というものはあまり感じられないかもしれませんが。

 

Eさん:雨ざらしのデッキが良い感じになったなとか、そういうことは思いますが、それほど変化は感じていないですね。

 

 

 

 

  • これから家を建てたい、と思っている方へアドバイスをお聞きしたいのですが。設計事務所にお願いするなら、こういうふうに、ということはありますか。

 

Eさん:自分の場合は、建築家さんとコミュニケーションが、間違いなくとれていたので、そこが一番良かったですね。

 

  • 知り合いではない場合に大切になることは何だと思われますか。

 

Eさん:信頼関係をきっちり作って行くことだと思います。

 

  • 建築家側からすると、どういうふうに来てもらうのが良いのでしょうか。

 

本德さん:家を建てよう、と思われた方は、いろいろなことをすごく深く考えていらっしゃると思うんです。
こんな家がいいな、ということをとことん考えた後、「じゃあ、どこに頼もうか」と思った場合、建築家に興味があれば、気軽に聞いてみて良いと思うんです。

きっかけは何でもいいと思います。
たとえば、家の写真を見て「この家、いいな」と思ったら、それを設計した建築家に話を聞いてみるとか。
たぶん皆さん、よろこんでお話してくれると思います。

 

 

 

Eさん:敷居はそんなに高くないんですよね。

 

本德さん:そうです。住宅を手がけている建築家さんであれば、敷居が高いことはないと思います。土地のこと、費用のこと、何でも聞いていいと思います。
建築家というものは、お客さまと話をしたり、図面を描いたり、現場で工務店や大工さんと話をしたりと、仕事が多岐にわたるので、いろいろなことをお話できるんじゃないかと思います。

 

  • 本德さんは住宅を中心に設計の仕事をされていきたいと伺ったのですが、住宅設計の面白さはどういうところにありますか。

 

本德さん:厚かましい話かもしれませんが、施主さんの「こんな家をつくりたい」という夢を一緒になって実現していけることが面白いですね。

住宅の面白さは、さきほどEさんが「信頼」と言われましたが、建物を建てるということは、設計して、完成して住んでいただくまでが僕らの仕事ではありますが、人との関係性を築くことが大切な仕事ですね。

中心は施主さんですが、工事の人だったり、不動産の人だったり、いろいろな職種の方と信頼関係を作りながら進めていくことが、僕らの仕事で、そこが面白いところだと思います。

 

 

〈おわり〉

 

 

 


本德彰士(ほんとく あきひと)プロフィール:本德建築設計事務所 建築家。岡山工業高校建築科を卒業後、岡山市内の建設会社に3年半勤務。その後、土岐建築デザイン事務所に入所。約9年間の勤務の最後に、Eさんの自邸設計の依頼を受け、それを機に退所。住宅や店舗の設計を手がける。休暇には旅行をかねて国内外の建築物や美術館、神社仏閣などを見て回る。

 

2016年6月 取材
文:尾原千明

「一緒につくる家」 第1話 →

 

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